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    採用・人材戦略 2026.08.03 約8分で読了

    【介護】人材紹介手数料89万円は、なぜ職員が辞めても戻ってこないのか
    返金規定の落とし穴と、施設長が本当に見直すべきこと

    やっと採用できた。ほっとしたのも束の間、その職員が3ヶ月で辞めていった——。多くの施設長が、このときもう一つの現実に直面します。人材紹介会社に払った手数料が、戻ってこないという現実です。

    介護施設の共有スペースで書類とタブレットを前に採用コストを考える施設長
    深瀬久博
    執筆・監修
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    介護施設を運営していれば、一度は経験する場面かもしれません。「早期に辞めたのだから、いくらかは返金されるはず」。そう思っていたのに、契約書を読み返すと、返金の対象外だった。この記事では、なぜ手数料が戻らないのか、その構造を明らかにしたうえで、施設長が本当に見直すべきことは何かを整理します。

    紹介手数料は、1人あたりいくらか

    まず、金額の実態からです。

    全国老人福祉施設協議会が令和5年度に実施した調査(会員2,032施設が回答)によると、介護福祉士1人あたりの人材紹介手数料は、平均891,373円でした。約89万円です。1施設あたりの年間平均で見ると、190万円を超えています。

    さらにこの調査では、介護福祉士1人あたりの手数料が100万円を超えたケースが全体の33%を占め、最高額は220万円にのぼりました。

    相場としては、採用した職員の想定年収の20〜30%が手数料として設定されているケースが一般的です。年収400万円の職員を採用すれば、80万〜120万円が紹介会社に支払われる計算になります。

    これが、1人採用するたびにかかります。同じ調査では、施設が介護職の採用で人材紹介会社に払った手数料の合計は、1年間で14億円を超えたと報告されています。

    なぜ、辞めても戻ってこないのか

    多くの紹介契約には「返金規定(返戻金規定)」が設けられています。採用した人材が早期に退職した場合、手数料の一部が返金される、というものです。

    ここで重要なのは、この返金が「早期であるほど手厚く、時間が経つほど急激に減る」設計になっているという点です。

    そして、施設が実際に直面しているのは、それ以上に厳しい現実です。先ほどの老施協の調査では、返金の実態についてこう報告されています。「採用から1ヶ月以内に退職」したケースでも、まったく返金がなかった施設が12施設ありました。「1ヶ月超〜3ヶ月以内の退職」では28施設が、返金なしと回答しています。

    つまり、早期に辞めれば返金される、とは限らないのです。

    施設側からは、こんな声も上がっています。

    「入職後、一定期間が過ぎてしまうと、退職後の返金率が格段に下がる」「退職した場合の補償期間が短い(だいたい3ヶ月)ので、1年以内に退職した場合も一部返金してほしい」

    (独立行政法人福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」より)

    こうして、次のようなことが起こります。

    採用した職員が、5ヶ月と3週間で辞めた。「まだ半年経っていないから戻るはず」と思って連絡すると、返金規定の対象期間を数日過ぎていた——。あるいは、規定上は対象期間内でも、返金割合が既にごくわずかになっていた——。

    「戻ると思っていた」と「実際に戻る」の間には、契約書の細かい条項が横たわっています。

    なお、返金の条件や割合は紹介会社ごとに大きく異なります。実際の返金がどうなるかは、貴施設が結んでいる契約書の返金条項次第です。まずは手元の契約書を確認することをお勧めします。

    「返金されるか」より、深刻な事実

    ただ、この記事で本当にお伝えしたいのは、返金の有無ではありません。

    先ほどの老施協の同じ調査に、見過ごせない数字があります。

    紹介会社を経由して採用した介護職員のうち、985人中566人——およそ57.4%が、半年以内に退職していた、というものです。退職理由として多かったのは、健康上の不安、職場の人間関係、家族都合、自分に向かない仕事、でした。

    この数字が意味することは、重いものです。

    紹介手数料を払って採用した職員の、6割弱が、半年もたずに辞めている。そして半年を過ぎれば、手数料は戻らない。

    福祉医療機構の調査でも、紹介会社経由の採用に対する施設の満足度は、「とても不満足」「やや不満足」を合わせて78.7%にのぼりました。手数料を払っているにもかかわらず、多くの施設が満足していないのです。

    つまり問題は、「返金されるかどうか」ではありません。そもそも、採用した人が定着していないという、その一点にあります。返金規定をどれだけ細かく確認しても、辞める人が辞め続ける限り、施設は手数料を払い続けることになります。

    契約前に、最低限確認すべきこと

    そのうえで、紹介会社との契約を結ぶ際、あるいは既存の契約を見直す際に、確認しておきたいポイントを挙げておきます。

    • 返金の対象となる退職期間/何日以内の退職なら返金対象になるのか。
    • 期間ごとの返金割合/入社1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月で、それぞれ何%戻るのか。
    • 返金対象外となる条件/自己都合退職に限るのか、施設都合の場合はどうなるのか。
    • 返金ではなく「フリー(無償での再紹介)」になっていないか/返金ではなく次の人材紹介で代替する契約だと、現金は戻りません。

    これらは、契約書に必ず書かれています。署名する前に、この4点だけでも目を通してください。

    本当に見直すべきは、採用の「前」ではなく「後」

    ここまで読んで、こう感じた施設長もいるかもしれません。「では、もっと返金規定の手厚い紹介会社を探せばいいのか」と。

    それも一つの手ではあります。しかし、根本的な解決にはなりません。

    紹介手数料は、採用の問題に見えて、実は定着の問題だからです。

    半年以内に6割弱が辞めるという現実がある限り、どれだけ良い条件で採用しても、その職員が定着しなければ、施設はまた次の採用に手数料を払うことになります。穴の空いた状態のまま、水を注ぎ続けているようなものです。

    早期離職の主な理由に「職場の人間関係」が挙がっていたことを思い出してください。これは、採用の巧拙ではどうにもなりません。採用した後、その職員が辞めずに働き続けられる職場かどうか——そこにこそ、89万円を繰り返し失うか、一度の採用で定着させられるかの分かれ目があります。

    紹介会社に払う手数料を減らす最も確実な方法は、より安い紹介会社を探すことではなく、採用した人が辞めない仕組みを作ることです。

    この記事の出典

    • 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会「令和5年度 人材紹介手数料実態調査報告」
    • 独立行政法人福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」
    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師

    最終更新:2026年8月3日 / 情熱介護編集部

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