【介護】人材紹介手数料89万円は、なぜ職員が辞めても戻ってこないのか
返金規定の落とし穴と、施設長が本当に見直すべきこと
やっと採用できた。ほっとしたのも束の間、その職員が3ヶ月で辞めていった——。多くの施設長が、このときもう一つの現実に直面します。人材紹介会社に払った手数料が、戻ってこないという現実です。

介護施設を運営していれば、一度は経験する場面かもしれません。「早期に辞めたのだから、いくらかは返金されるはず」。そう思っていたのに、契約書を読み返すと、返金の対象外だった。この記事では、なぜ手数料が戻らないのか、その構造を明らかにしたうえで、施設長が本当に見直すべきことは何かを整理します。
紹介手数料は、1人あたりいくらか
まず、金額の実態からです。
全国老人福祉施設協議会が令和5年度に実施した調査(会員2,032施設が回答)によると、介護福祉士1人あたりの人材紹介手数料は、平均891,373円でした。約89万円です。1施設あたりの年間平均で見ると、190万円を超えています。
さらにこの調査では、介護福祉士1人あたりの手数料が100万円を超えたケースが全体の33%を占め、最高額は220万円にのぼりました。
相場としては、採用した職員の想定年収の20〜30%が手数料として設定されているケースが一般的です。年収400万円の職員を採用すれば、80万〜120万円が紹介会社に支払われる計算になります。
これが、1人採用するたびにかかります。同じ調査では、施設が介護職の採用で人材紹介会社に払った手数料の合計は、1年間で14億円を超えたと報告されています。
なぜ、辞めても戻ってこないのか
多くの紹介契約には「返金規定(返戻金規定)」が設けられています。採用した人材が早期に退職した場合、手数料の一部が返金される、というものです。
ここで重要なのは、この返金が「早期であるほど手厚く、時間が経つほど急激に減る」設計になっているという点です。
そして、施設が実際に直面しているのは、それ以上に厳しい現実です。先ほどの老施協の調査では、返金の実態についてこう報告されています。「採用から1ヶ月以内に退職」したケースでも、まったく返金がなかった施設が12施設ありました。「1ヶ月超〜3ヶ月以内の退職」では28施設が、返金なしと回答しています。
つまり、早期に辞めれば返金される、とは限らないのです。
施設側からは、こんな声も上がっています。
「入職後、一定期間が過ぎてしまうと、退職後の返金率が格段に下がる」「退職した場合の補償期間が短い(だいたい3ヶ月)ので、1年以内に退職した場合も一部返金してほしい」
(独立行政法人福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」より)
こうして、次のようなことが起こります。
採用した職員が、5ヶ月と3週間で辞めた。「まだ半年経っていないから戻るはず」と思って連絡すると、返金規定の対象期間を数日過ぎていた——。あるいは、規定上は対象期間内でも、返金割合が既にごくわずかになっていた——。
「戻ると思っていた」と「実際に戻る」の間には、契約書の細かい条項が横たわっています。
なお、返金の条件や割合は紹介会社ごとに大きく異なります。実際の返金がどうなるかは、貴施設が結んでいる契約書の返金条項次第です。まずは手元の契約書を確認することをお勧めします。
「返金されるか」より、深刻な事実
ただ、この記事で本当にお伝えしたいのは、返金の有無ではありません。
先ほどの老施協の同じ調査に、見過ごせない数字があります。
紹介会社を経由して採用した介護職員のうち、985人中566人——およそ57.4%が、半年以内に退職していた、というものです。退職理由として多かったのは、健康上の不安、職場の人間関係、家族都合、自分に向かない仕事、でした。
この数字が意味することは、重いものです。
紹介手数料を払って採用した職員の、6割弱が、半年もたずに辞めている。そして半年を過ぎれば、手数料は戻らない。
福祉医療機構の調査でも、紹介会社経由の採用に対する施設の満足度は、「とても不満足」「やや不満足」を合わせて78.7%にのぼりました。手数料を払っているにもかかわらず、多くの施設が満足していないのです。
つまり問題は、「返金されるかどうか」ではありません。そもそも、採用した人が定着していないという、その一点にあります。返金規定をどれだけ細かく確認しても、辞める人が辞め続ける限り、施設は手数料を払い続けることになります。
契約前に、最低限確認すべきこと
そのうえで、紹介会社との契約を結ぶ際、あるいは既存の契約を見直す際に、確認しておきたいポイントを挙げておきます。
- 返金の対象となる退職期間/何日以内の退職なら返金対象になるのか。
- 期間ごとの返金割合/入社1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月で、それぞれ何%戻るのか。
- 返金対象外となる条件/自己都合退職に限るのか、施設都合の場合はどうなるのか。
- 返金ではなく「フリー(無償での再紹介)」になっていないか/返金ではなく次の人材紹介で代替する契約だと、現金は戻りません。
2025年4月から、手数料率は国のサイトで公開されています
契約書を読む前に、もう一つ使える方法があります。
2025年(令和7年)4月1日から、職業紹介事業者は、実際に徴収した紹介手数料率の実績を、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」に掲載することが必要になりました。職業安定法に基づく省令・指針の改正によるものです。
このサイトでは、事業者ごとに次の情報を無料で確認できます。
| 確認できること | 内容 |
|---|---|
| 許可事業者かどうか | 国の許可を受けて営業しているか |
| 平均手数料率の実績 | 実績の多い上位5職種について、職種別に公開 |
| 就職者数 | その事業者の紹介で就職した人の数 |
| 6か月以内の離職者数 | 就職者のうち、6か月以内に辞めた人の数 |
| 返戻金制度 | 短期間で離職した場合に手数料を返す制度の有無と内容 |
医療・介護・保育の分野は8つの職種で検索でき、その中に「介護サービスの職業」が含まれています。
この記事でお伝えした「半年以内に6割弱が辞める」という問題は、ここで事前に確認できます。契約を検討している会社の6か月以内の離職者数が多ければ、その数字自体が判断材料になります。
ただし、厚労省も「職種や業界等によって事情が異なることに留意」するよう促しています。数字だけで良し悪しを決めず、質問の材料として使うのが適切です。
違約金についても、事前の明示が義務になりました
あわせて2025年4月から、紹介会社が求人者(施設)に対して違約金の規約を設けている場合、違約金の額、違約金が発生する条件、解除の方法を含む契約の内容を、書面やメールなどであらかじめ明示しなければならなくなりました。
採用を辞退した人を後から別ルートで採用した場合に違約金がかかる、といった条件も、この明示の対象です。契約時に説明がなければ、その場で確認してください。
これらは、契約書に必ず書かれています。署名する前に、この4点だけでも目を通してください。
本当に見直すべきは、採用の「前」ではなく「後」
ここまで読んで、こう感じた施設長もいるかもしれません。「では、もっと返金規定の手厚い紹介会社を探せばいいのか」と。
それも一つの手ではあります。しかし、根本的な解決にはなりません。
紹介手数料は、採用の問題に見えて、実は定着の問題だからです。
半年以内に6割弱が辞めるという現実がある限り、どれだけ良い条件で採用しても、その職員が定着しなければ、施設はまた次の採用に手数料を払うことになります。穴の空いた状態のまま、水を注ぎ続けているようなものです。
早期離職の主な理由に「職場の人間関係」が挙がっていたことを思い出してください。これは、採用の巧拙ではどうにもなりません。採用した後、その職員が辞めずに働き続けられる職場かどうか——そこにこそ、89万円を繰り返し失うか、一度の採用で定着させられるかの分かれ目があります。
紹介会社に払う手数料を減らす最も確実な方法は、より安い紹介会社を探すことではなく、採用した人が辞めない仕組みを作ることです。
紹介会社を使わない選択肢も、同時に持っておく
定着の仕組みを作るには時間がかかります。その間も、欠員は出ます。
急な欠員で今すぐ人が必要なときは、紹介会社を使う判断もあります。ただ、半年から1年先を見据えた採用については、費用のかからない公的なルートを並行して動かしておくことで、紹介会社を使う回数そのものを減らせます。
都道府県の福祉人材センターは無料で職業紹介を行っており、職場見学や職場体験の受け入れ、就職フェアへの参加もできます。ハローワークにも、介護分野に詳しい専門の相談員を置いた窓口があります。
詳しくは、紹介手数料を払う前に使える、公的な採用ルート4つで整理しています。
紹介手数料の総額は、1件あたりの単価ではなく、使う回数で決まります。年に4人採用して2人が辞めれば、翌年もまた同じ金額が出ていきます。
その具体策は、離職理由の構造から逆算して組み立てるのが最短距離です。詳しくは介護職が3ヶ月で辞める本当の理由|離職率を下げる7つの定着施策を参照してください。
この記事の出典
- 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会「令和5年度 人材紹介手数料実態調査報告」
- 独立行政法人福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」
- 厚生労働省「職業安定法に基づく省令及び指針の一部改正(雇用仲介事業者への新たなルール・令和7年4月1日施行)」
- 厚生労働省「職業安定法施行規則改正(令和6年4月)|手数料表等の情報提供」
- 厚生労働省「人材サービス総合サイト」
最終更新:2026年10月24日 / 情熱介護編集部