課題解決ガイドへ戻る
    定着・組織 2026.05.15 約18分で読了

    介護職が3ヶ月で辞める
    本当の理由
    ――離職率を下げる7つの定着施策【2026年版】

    やっと採用できた一人が、3ヶ月で静かに辞めていく――。離職を「給与」「人間関係」だけで語っても、現場は変わりません。令和6年度の最新一次データを起点に、定着率を上げた施設に共通する7つの施策と、初日〜90日のオンボーディング設計を、施設長が今日から動ける順で整理します。

    夜明けの介護施設の廊下に立つ介護職員
    深瀬久博
    執筆・監修
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    01介護離職率の現在地(2026年版)

    「離職率は下がっている」――この一文だけを見ると、介護業界の人材危機は和らいでいるように映ります。しかし数字をもう一段ほどくと、現場の景色は別の意味を帯びてきます。

    令和6年度調査の主要数値

    12.4%
    離職率(全体)
    前年度 13.1%
    14.3%
    採用率
    前年度比 −2.6pt
    65.2%
    事業所の不足感
    全体
    1.9pt
    入職超過率
    前年度より縮小

    離職率は過去最低水準まで下がりましたが、採用率の下げ幅の方が大きく、入職超過率は1.9ptまで縮小しました。「辞める人が減ったのではなく、入ってくる人がそれ以上に減った」という縮小均衡です。新規採用者の早期離職傾向は同調査でも継続的に指摘されており、定着の構造はほぼ改善していません。

    採用1人を活かすコストは想像より重い

    項目目安備考
    採用広告・媒体費30〜80万円/人求人媒体・紹介会社により幅
    教育・OJT人件費40〜70万円/人プリセプター×3ヶ月想定
    習熟ロス60〜120万円/人夜勤独り立ちまでの周辺人件費

    ※ 業界目安。施設規模・体制により変動。3ヶ月で離職した場合、上記コストはほぼ回収できないと想定すべき。

    休憩室で考え込む介護職員
    「辞めるかどうか」は、辞表の前にすでに決まっている。

    02「3ヶ月で辞める」を生む5つの構造的要因

    介護労働安定センター調査で「直前の介護関係の仕事を辞めた理由」上位は、人間関係(24.7%)、他に良い仕事(18.5%)、事業所の理念や運営方針への不満(17.6%)。賃金(15.0%)はそれより下に位置します。「お金で辞める」のではなく、「働き方そのもの」が原因です。

    職場の人間関係に問題があったため24.7%
    他に良い仕事・職場があったため18.5%
    勤務先の事業理念や運営のあり方に不満があったため17.6%
    収入が少なかったため15%

    出典:介護労働安定センター 令和6年度 介護労働実態調査(労働者調査・複数回答)

    これらの数字を、施設長が打てる手として再分解すると、早期離職を生む「5つの構造的要因」が浮かびます。

    ① オンボーディング不在

    「とりあえず先輩について現場へ」――入職初日から計画なき OJT が始まる施設は、3ヶ月以内離職が顕著に多い。誰が・いつ・何を教え、どの段階で独り立ちさせるかが文書化されていない状態は、新人の不安を構造的に生み続けます。

    ② 不公平感(シフト・夜勤負担)

    夜勤が特定の人に偏る、希望休が通りにくい、有給が「取りにくい空気」がある――。本人の不満になる前に、同僚との比較で生まれる不公平感が定着を蝕みます。労働者調査でも「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」が上位に挙がっています。

    ③ 評価の不透明さ

    「何をどこまでやれば、何が変わるのか」が見えない職場は、頑張る理由を失わせます。キャリアパスや昇給基準が示されていない施設では、3ヶ月目から「ここにいる意味」を考え始めます。

    ④ 教育機会の不足

    配置基準を満たすために現場に出すことが優先され、初任者研修以降のフォロー研修が事実上ない。資格取得支援が「制度はあるが使えない」状態になっている。これは「やりがいで来た人」ほど早く離れる原因になります。

    ⑤ マネジャー不在(放置)

    管理者がプレイヤー兼務で、新人と対話する時間が物理的に取れない。1on1がない、最初の困りごとを言える相手がいない。「人間関係」の正体の多くは、この「マネジメント不在」から生まれます。

    03定着率を上げた施設に共通する7つの施策

    ここからは、調査で「定着に効果があった」と回答された取組と、現場で再現性のあるアクションを、優先度順に7つ紹介します。

    施策 01入職前の「ギャップ解消」面談

    入職後1年以内の離職者の多くが「想像と違った」を理由に挙げる。事前の期待値調整が定着の起点になる。

    具体的アクション
    • 内定〜入職までに最低1回、施設見学+現場職員との対話
    • 夜勤・記録・身体介助の頻度を数値で開示
    • 「あなたに期待する役割」を文書で渡す
    事例:入職前に1日体験を必須化した中規模特養で、入職後3ヶ月離職率が18% → 6%に改善。
    施策 02プリセプター制度(90日伴走)

    「指導者の固定化」は定着率向上施策として最も効果が報告される取組のひとつ。

    具体的アクション
    • 1人の新人に、原則1人のプリセプター(中堅)を90日間固定
    • 毎週15分の振り返り(チェックリスト+雑談)
    • プリセプターには月5,000〜10,000円の手当を支給
    事例:プリセプター手当を制度化したデイサービスで、教える側のモチベーションも上がり、3ヶ月離職ゼロを6ヶ月継続。
    施策 03月1回の1on1(管理者⇄職員)

    「人間関係への不満」の本質は、上司との対話不足にあるケースが多い。

    具体的アクション
    • 全職員と月1回30分の1on1を固定
    • テーマは「業務」ではなく「困りごと・キャリア」
    • 管理者は『助言』より『傾聴』に時間を使う
    事例:1on1導入後、退職予兆を平均1.2ヶ月前に把握できるようになった事例あり。
    施策 04評価とキャリアパスの可視化

    「何をどこまでやれば次に進めるか」が見える施設は、勤続年数が有意に伸びる。

    具体的アクション
    • 3〜5段階のキャリアラダーを1枚図解で全員に配布
    • 段階ごとに必要スキル・期待行動・処遇を明記
    • 評価面談は年2回・本人記入のセルフ評価を起点に
    事例:キャリアラダー導入で「将来像が見えるようになった」が職員アンケートで83%に到達。
    先輩職員が新人に丁寧に教える様子
    定着の鍵は、最初の90日に誰がそばにいたかで決まる。
    施策 05シフトと有給の公平化

    「夜勤回数の偏り」「希望休の通りにくさ」が早期離職の主要因のひとつ。

    具体的アクション
    • 夜勤回数を月次で全員に開示(透明化)
    • 希望休は『先着順』ではなく『年間調整』に
    • 有給取得は『施設長承認』ではなく『計画付与』方式に
    事例:夜勤公平化シートを掲示し始めた施設で、若手の不公平感クレームが3ヶ月で実質ゼロに。
    施策 06記録・申し送りのICT化

    身体的負担と並ぶ離職要因が「事務負担」。記録時間を1日30分削るだけで離職意向は下がる。

    具体的アクション
    • 音声入力対応の介護記録ソフトを導入
    • 申し送りはチャットツール+朝礼5分に短縮
    • ICT導入支援補助金(最大75%)を活用
    事例:タブレット記録で1人あたり1日40分の記録時間削減 → 残業半減 → 離職率7pt改善。
    施策 07称賛とフィードバックの文化

    「ありがとう」が言語化される職場は、心理的安全性が高く定着率が良い。

    具体的アクション
    • 朝礼で『昨日の good job』を1人発表
    • サンクスカード制度(紙でも可)の運用
    • 管理者が月1回、全員に『感謝の手書き一言』を渡す
    事例:サンクスカード導入後、職員満足度調査の『認められている実感』スコアが1.5倍に。

    04初日〜90日 オンボーディング設計テンプレート

    7施策をいつ・どう投入するか――。新人定着の勝負所は、入職後90日です。フェーズごとに「やること/やらないこと」を決めるだけで、離職率は大きく変わります。

    Day 1〜7:安心と地図を渡す週

    時期やることやらないこと
    Day1施設長から歓迎の言葉/プリセプター紹介/1日の流れ説明いきなり身体介助に入れる
    Day2-3見学中心/記録ツール操作練習/同期/年代の近い職員と昼食夜勤シフトに組み込む
    Day4-7排泄・移乗を1対1で見学+介助補助/毎日終礼5分の振り返り1人で利用者対応

    Day 8〜30:手応えを掴む月

    時期やることやらないこと
    Day8-14プリセプター同行で日勤独り立ち準備/週1回15分の1on1開始夜勤投入
    Day15-30日勤独り立ち(プリセプター在席)/30日面談(管理者+本人)評価で『できないこと』を強調

    Day 31〜90:自走と関係性の3ヶ月

    時期やることやらないこと
    Day31-60夜勤シャドー研修(先輩同行2〜3回)/チームミーティング参加夜勤独り立ちを強行
    Day61-90夜勤独り立ち(バックアップ体制明示)/90日面談(キャリア初対話)『もう独り立ちでしょ』で放置

    05早期離職を見抜く「3つのシグナル」

    退職の意思は、辞表の1〜2ヶ月前から行動の変化として現れます。管理者が察知できれば、引き止めではなく「対話のきっかけ」にできます。

    • シグナル①:申し送りの言葉数が減る──業務報告は同じでも、雑談や所感が消えていく。
    • シグナル②:休憩室で1人で過ごす時間が増える──同僚との物理的距離が広がり始める。
    • シグナル③:希望休の取り方が変わる──平日の単発休、面接的な時間帯の取得が増える。

    06施設長が今月から動けるアクションリスト

    すべてを一度にやる必要はありません。優先度順に、今月・3ヶ月以内・継続の3層に分けています。

    ● 今月中に実施(最優先)

    アクション所要時間担当
    過去1年の入職者の在籍/離職を一覧化1時間管理者
    プリセプター候補の選定と打診1時間管理者
    90日オンボーディングの草案作成(本記事テンプレ流用)1時間管理者
    全職員に1on1の日程を案内30分管理者

    ● 3ヶ月以内に実施(重要)

    アクション所要時間担当
    プリセプター手当の制度化2時間経営者+事務
    キャリアラダー(3〜5段階)の作成5時間管理者+経営者
    夜勤回数の月次開示開始1時間管理者
    ICT記録ソフトの試験導入10時間管理者+事務

    ● 継続的に実施(習慣化)

    アクション頻度担当
    全職員1on1月1回・30分管理者
    新人の30日/90日面談節目ごと管理者
    定着率モニタリング(在籍コホート別)四半期事務
    サンクスカード/称賛の儀式週1回全員

    07参考資料・関連記事

    主要参考資料

    関連する課題

    最終更新:2026年5月15日 / 情熱介護編集部