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    編集長エッセイ 2026.05.18 約10分で読了

    介護経営は、
    なぜこんなに孤独なのか
    ――深瀬久博から、すべての施設長へ

    これは、いつもの解説記事ではありません。介護経営の現場で、夜中に一人事務所に残り、人員配置表とクレーム文書と決算資料を前に、誰にも言えない孤独を抱えてきたあなたへ。私自身の言葉で、書きます。

    夜の介護施設長室。一人分のデスクライトと、誰も座っていない椅子
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    夜中の事務所で、私が見てきたもの

    介護施設の経営者・施設長と話していると、ある共通の風景が浮かびます。日中はスタッフの前で笑顔を絶やさず、家族からの相談に丁寧に応え、行政の書類を期限通りに揃え、加算改定の勉強会にも出る。夜、最後の職員を見送ったあと、誰もいない事務所の蛍光灯を半分だけ点け、デスクに座る。そこから、本当の一日が始まるのです。

    机の上には、未処理のクレーム報告、欠員が出たシフト表、銀行への返済予定、来月の処遇改善加算の試算。どれも誰かに『どうしたらいいですか』と聞きたい。でも、聞ける相手がいない。職員には弱音を見せられない。家族は介護業界のことを知らない。同業者は競合でもあり、本音は出せない。そして気づくと、深夜2時です。

    介護経営の孤独は、
    性格の問題でも、能力の問題でもない。
    『役割の必然』としての孤独です。

    私はこれまで、有料老人ホームの管理者として、そして現在は研修講師として、何百人もの介護経営者・施設長と関わってきました。立派な施設を作り、行政から表彰され、職員からも慕われている方ほど、ある瞬間にふっと『本当はずっと孤独だった』と漏らされます。それは涙ながらにではなく、淡々と、まるで天気の話のように。私はそのたびに、この業界の構造的な問題を強く感じてきました。

    孤独は、弱さではない

    まず、もっとも伝えたいことから書きます。あなたが今感じている孤独は、あなたが弱いから生まれているのではありません。それは、介護経営という役割が構造的に背負わされている『重さ』です。

    介護経営者は、現場の安全責任、職員の生活責任、入居者ご家族への説明責任、行政への遵法責任、金融機関への返済責任、地域に対する社会的責任――これらすべてを、最終的に一人で背負う立場にあります。会社員ならチームで分散される責任が、経営者の肩には集中します。集中した責任を、誰かと完全に分かち合うことは、構造的にできない。だから孤独は、必然です。

    『弱音を吐ける経営者になりましょう』『相談相手を持ちましょう』という言葉は美しい。でも、その前に伝えなければならないことがあります。それは、孤独を感じているあなたは、職務を真剣に果たしている証拠だ、ということ。何も感じない経営者のほうが、よほど危ういのです。だから、まず自分を責めないでください。

    窓辺の湯気の立つカップと閉じた手帳。夜明け前の静かな時間
    孤独を感じることは、責任を引き受けている証だ。

    介護経営者を蝕む、3つの孤独

    私が現場で見てきた孤独には、3つの種類があります。多くの方は、この3つすべてに同時に苦しんでいます。ご自身がどれに当てはまるかを、確かめてみてください。

    ① 決断の孤独

    シフトの最終判断、加算取得の判断、職員の処遇の判断、設備投資の判断、時には職員の解雇や事業譲渡の判断。経営者は毎日、誰にも代わってもらえない決断をしています。決断のあとに『あれで本当によかったのか』と問い返す瞬間、誰も答えてはくれません。決断の正解は、いつも数年後にしか分からないからです。

    ② 感情の孤独

    職員が辞めたときの落胆、入居者を看取ったときの悲しみ、家族から理不尽な言葉を浴びたときの怒り、経営判断のミスを悔やむ夜の自責。これらの感情は、職員の前では絶対に見せられません。経営者が動揺すれば、現場はもっと動揺するからです。だから感情は、すべて自分の中に閉じ込めることになります。

    ③ 言葉の孤独

    介護経営のリアルは、業界の外の人にはほとんど通じません。『加算が改定された』『要介護度が下がって減収になった』『処遇改善の配分でもめている』――これらを家族や友人に話しても、『大変だね』で終わってしまう。深く分かってほしいわけではない。ただ、同じ言葉が通じる相手がほしい。その『言葉の同郷者』が、いない。

    分かってもらう必要はない。
    ただ、『同じ言葉が通じる場所』が、
    あればいい。

    それでも、分かち合える場所はある

    ここから少し、希望の話をさせてください。孤独は構造から生まれるものだと書きましたが、構造があるなら、別の構造で和らげることもできるのです。私自身が試してきた中で、介護経営者にとって本当に効いた『分かち合いの場』は3つあります。

    ① 同業他社の経営者ピア・グループ

    競合関係にない地域・業態の経営者3〜5人で、月1回・1時間、オンラインで集まる。話す内容は『最近どう?』だけでよい。アドバイスは求めない、評価もしない、解決も目指さない。ただ『言葉が通じる場』として機能させる。これが想像以上に効きます。利害が薄い同業者同士だからこそ、本音が出るのです。

    ② 業界外のメンター・コーチ

    業界の中だけで考えていると、思考が必ず内側に閉じます。介護業界を知らない経営者や、エグゼクティブコーチに月1回30分の対話を依頼する。費用は月3〜5万円が相場ですが、孤独に押し潰されて誤った決断を一つでも防げれば、回収できる投資です。『話すために言語化する』その行為自体が、孤独を半分にします。

    ③ 書くこと・読むこと

    人に話せないことを、手帳に書く。それだけで救われる夜があります。私自身、有料老人ホームの管理者をしていた頃から、夜の事務所で手帳に走り書きをしてきました。誰にも見せない言葉が、自分を整えてくれる。そしてもう一つ。同じ立場の誰かが書いた文章を読むこと。『ああ、自分だけじゃなかった』と思える文章に出会うことは、それだけで、半年は走れるエネルギーになります。

    私が『情熱介護』を始めた、本当の理由

    ここで少しだけ、自分のことを書かせてください。私が情熱介護というメディアを立ち上げた理由は、新規ビジネスを育てたかったからでも、影響力を持ちたかったからでもありません。

    きっかけは、ある施設長の方からいただいた一通のメールでした。『深瀬さんの研修を受けて、初めて、自分の悩みを言葉にしてくれる人がいると思いました。あの夜、辞めずに済みました』と書かれていました。私はそのメールを、今も大切に保管しています。

    あのとき気づいたのです。介護経営者には、ノウハウや情報だけでなく、『言葉を返してくれる場所』が必要なのだと。研修やコンサルは、限られた人にしか届きません。でもメディアなら、夜中に一人事務所で検索した誰かにも、届く可能性がある。だから情熱介護を始めました。

    あの夜、辞めずに済みました。
    ――この一通のメールが、
    このメディアの出発点です。

    だから、この記事を最後まで読んでくださっているあなたが、もし今夜、事務所で一人だとしても。私たちは画面の向こうから、確かにあなたのことを考えています。それは綺麗事ではなく、運営する側の事実です。あなたが検索した夜の0時に届くために、私たちはこのメディアを書き続けています。

    あなたは、一人ではない

    最後に、一つだけ約束させてください。情熱介護は、これからもずっと『現場で孤独を感じている人』の側に立ち続けます。流行りのテーマでも、検索ボリュームの大きいキーワードでもなく、『今夜、誰かが必要としている言葉』を書いていきます。

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    『孤独』の周辺には、必ず他の課題があります。同じ夜に読んでいただきたい記事を、最後にお伝えします。

    最終更新:2026年5月18日 / 情熱介護編集部