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    看取り・ターミナルケア 2026.05.29 約26分で読了

    介護施設の看取り・ターミナルケア体制構築ガイド2026
    ――ACP・看取り加算・家族支援で『最期まで選ばれる施設』になる施設長の実装手順

    『看取り介護加算は取りたいが、職員が怖がる』『家族とのACP(人生会議)がうまく進まない』『夜間の急変時、救急搬送と看取りの線引きが現場でぶれる』『見送ったあと、職員が傷ついたまま次の勤務に入っている』――。介護施設の看取り・ターミナルケアは、入居者の尊厳・家族の納得・職員の成長・加算収益を同時に実現する、極めて経営的なテーマです。本稿では、ACPの進め方から、看取り介護加算の算定要件、夜間急変時の意思決定フロー、職員のグリーフケアまで、施設長が今日から着手できる実装手順を整理します。

    介護施設の居室で入居者の手をそっと包む職員の後ろ姿、窓から差し込む朝の光
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長より看取りは、『最後にどう死ぬか』ではなく、『最後までどう生きるか』を支える仕事です。施設長が体制を整えるほど、職員は怖がらず、家族は納得し、入居者は穏やかになります。認知症ケア食事・栄養ケアと並ぶ、施設の質の象徴です。

    1. なぜ今、看取り・ターミナルケアが経営課題なのか

    年間の死亡者数は約160万人を超え、『多死社会』はもはや未来予測ではなく現在進行形です。病院のベッドは逼迫し、自宅で看取れる家族構成も減少。結果として、介護施設が『最期の場所』を担う比重は年々増加しています。

    一方で、看取りを『やる施設』と『やらない施設』の格差が広がっています。看取り体制が整っている施設は、家族からの信頼・看取り介護加算による収益・職員の専門性向上の3つを同時に得られる一方、未整備の施設では『最期だけ病院に送る』選択を強いられ、入居者・家族・職員の3者が不本意な体験を抱えます。

    約4割
    介護老人福祉施設での年間死亡退所のうち、施設内で看取られる割合(増加傾向)
    出典:厚生労働省 介護給付費等実態統計
    1,580単位
    看取り介護加算(Ⅱ)死亡日における算定上限(要件あり)
    出典:令和6年度介護報酬改定
    +18%
    看取り体制を公表している施設の家族満足度(自施設未対応比)
    出典:情熱介護 編集部 取材調査
    『最期まで、ここでいい』。
    その一言を引き出せる施設は、
    次の入居者からも選ばれる。

    2. 看取り介護加算の基本(2024年度改定後)

    多職種チーム(医師・看護師・介護職・ケアマネ)がACPの書類を確認する様子
    看取りは『多職種の合意形成』そのものである。

    看取り介護加算は、特養(介護老人福祉施設)・特定施設・認知症GH等で算定可能。2024年度改定で『(Ⅰ)』『(Ⅱ)』の区分が整理され、(Ⅱ)は配置医師の対応など要件が上乗せされる代わりに単位が高く設定されています。

    区分期間単位(/日・目安)
    死亡日看取り当日1,280〜1,580単位
    死亡日前日・前々日直前2日680〜780単位
    死亡日以前4〜30日27日間144〜144単位
    死亡日以前31〜45日15日間72単位(一部区分)

    ※単位は施設類型・区分により異なるため、必ず最新告示と所管自治体の確認のうえ算定してください。

    算定の主な要件

    • 看取りに関する指針を定め、入居・契約時に本人・家族に説明し同意を得ている
    • 医師・看護職・介護職・介護支援専門員等による看取り介護計画を作成
    • 看取り介護に関する職員研修を定期実施
    • 看取り後に、家族・職員を含むカンファレンス(振り返り)を実施
    • 個室または静養できる環境を確保((Ⅱ)は配置医師の早朝・夜間対応要件あり)

    3. ACP(人生会議)の進め方

    ACP(Advance Care Planning/人生会議)は、本人・家族・多職種が、最期までの過ごし方について繰り返し話し合うプロセスです。『書類1枚で完結』ではなく、状態変化のたびに更新する『生きた計画』として扱うのが正解です。

    ACPの4つのタイミング

    • 入居時:価値観・大切にしてきたこと・延命処置の希望を初回ヒアリング
    • 状態変化時:肺炎・骨折・嚥下障害の進行など、節目ごとに更新
    • 看取り期に入る前:医師の医学的判断+家族の心の準備を擦り合わせ
    • 看取り直前:救急搬送するか/施設で見送るかの最終確認
    ACPで聞くべきは『何をしてほしいか』ではなく『どう過ごしたいか』。『最期はどこで』『誰に会いたいか』『食べたいもの』『流したい音楽』――その人の人生を引き出す問いが、家族の納得を生みます。

    4. 夜間急変時の意思決定フロー

    ベッドサイドで看取り介護記録に丁寧に書き込む職員の手元
    看取り記録は、家族と職員のためのもう一つのカルテ。

    看取り体制で最も現場が迷うのが、夜間・休日の急変時に『救急搬送するか/施設で見送るか』の判断です。判断軸が曖昧だと、夜勤者の心理的負荷が極大化し、結果として『とりあえず救急車』になり、本人の希望と乖離します。

    段階確認事項行動
    第1判断看取り介護計画書あり/延命処置の事前意思あり施設対応継続。配置医師・看護職へ第一報
    第2判断家族の意向が直近で揺らいでいないか家族へ第一報。意向再確認のうえ続行か搬送か判断
    第3判断看取り計画なし/本人意思不明/家族の意向対立原則救急搬送。後日カンファで体制再構築
    記録判断根拠・連絡時刻・家族応答時系列で詳細記録(後日の家族説明・行政対応の基盤)

    5. 家族支援:『悔いなく見送る』を設計する

    家族の満足度は、『どれだけ医療的に頑張ったか』ではなく『どれだけ寄り添ってもらえたか』で決まります。看取り期に入ったら、家族との関わりを意図的に設計しましょう。

    看取り期の家族支援チェック

    • 状態変化のたびに、数値ではなく言葉で家族に伝える(『呼吸が穏やかになっています』など)
    • 面会時間の柔軟化(深夜・早朝も可)/付き添い宿泊のスペース提供
    • 本人の好きだった音楽・写真・思い出の品を居室に持ち込む
    • 家族が『一緒にケアできる場面』を意図的に作る(口腔ケア・手浴等)
    • 遠方家族向けに電話・ビデオ通話での状態共有
    • 見送り後、『お別れの時間』を急かさず確保

    6. 職員のグリーフケア:『傷つかせない設計』

    看取りが続く施設で起きやすいのが、職員のバーンアウトです。『今日見送って、明日また別の入居者のレクをやる』――この感情の切り替えは、想像以上に重い負荷を職員に強いています。

    グリーフケアの実装3点

    • 看取り後カンファレンスを必ず実施。『良かった点・改善点』だけでなく『つらかったこと』も語れる場に
    • 看取り当日・翌日のシフト調整(夜勤明けに連続看取りを当てない)
    • 新人職員には先輩とペアで初看取りを経験させる

    心理的安全性がある現場ほど、職員は看取りに前向きに関われます。逆に、看取りが『黙って耐えるもの』になっている施設は、必ず離職に跳ね返ります。

    7. 医療連携:協力医療機関との関係づくり

    看取り体制の生命線は、配置医師・協力医療機関との『顔の見える』関係です。書類上の契約があるだけでは、夜間の電話一本に応えてもらえません。

    • 配置医師との月1回以上の定例カンファ(看取り対象者の状態共有)
    • 夜間・休日連絡先と、不在時の代替連絡先を明文化
    • 訪問看護ステーションとの連携契約(24時間対応加算の活用)
    • 死亡診断書の手配フロー(医師到着までの時間管理)
    • 協力医療機関との入退院ルール(看取り目的の戻り入居も含む)

    8. 看取り体制を『見える化』して選ばれる施設へ

    入居検討者の家族は、ホームページやパンフレットで『最期まで見てもらえるか』を必ずチェックします。看取り体制を整えているのに発信していない施設は、選ばれる機会を失っています。

    • ホームページに『看取り介護への取り組み』専用ページを設置
    • 過去の看取り実績(人数・体制)を匿名化して掲載
    • 『看取り介護加算 算定施設』であることを明示
    • 入居相談時に看取り指針を必ず渡す(後トラブル予防にも)
    • 家族の声(許可を得たもの)を年1回更新

    Web集客口コミ管理の観点からも、看取り発信は最強の差別化要素です。

    9. 経営者セルフチェック10項目

    • 看取りに関する指針を策定し、入居時に本人・家族へ説明しているか
    • ACPを入居時・状態変化時・看取り期に定期更新しているか
    • 看取り介護計画は多職種で作成・共有されているか
    • 夜間急変時の判断フローが夜勤者にも明確か
    • 看取り介護加算の算定要件を満たし、適正算定できているか
    • 配置医師・協力医療機関との夜間連絡体制が機能しているか
    • 看取り後カンファを毎回実施し、職員のグリーフケアにつなげているか
    • 家族の付き添い・宿泊・面会柔軟対応ができる環境があるか
    • 新人職員が初看取りを安心して経験できるペア体制があるか
    • 看取り体制を対外的に発信し、入居検討者に届いているか

    10. 今すぐやるべき、3つのアクション

    No.アクション期限効果
    01夜間急変時の判断フローを紙化し夜勤帯に常備1ヶ月以内夜勤者の心理負荷軽減
    02看取り介護加算の算定状況と要件適合を一斉点検2ヶ月以内取りこぼし加算の回収
    03看取り後カンファをルーチン化+グリーフケア導入3ヶ月以内職員定着・看取りの質向上
    編集長より、最後に看取りは、施設の『総合点』が現れる場面です。日々のケアの質、職員の関係性、家族との信頼、医療連携――すべてが問われます。だからこそ、看取り体制が整っている施設は、ほかのすべての面でも『良い施設』であることが多いのです。

    11. 参考資料・出典

    1. 厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』
    2. 厚生労働省『令和6年度 介護報酬改定の概要』看取り介護加算関連
    3. 厚生労働省 介護給付費等実態統計(死亡退所場所の推移)
    4. 日本老年医学会『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン』
    5. 情熱介護 編集部 取材調査(看取り体制構築の現場運用)

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    本記事で示した加算単位・要件・運用例は本稿執筆時点(2026年5月)の制度・告示・編集部取材に基づく目安です。施設類型・所管自治体の運用や、各施設の協力医療機関の方針により異なる場合があるため、実際の算定・運用は最新の告示と所管自治体・協力医療機関への確認のうえ行ってください。