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    労務・安全衛生 2026.06.16 約12分で読了

    介護事業所の
    ストレスチェック義務化
    【50人未満対応】完全ガイド2026
    ――法改正で対象拡大、実施体制・実施者選任・集団分析・高ストレス者面接の実装手順

    これまで「50人以上の事業場」に限定されていたストレスチェックの実施義務が、労働安全衛生法改正により50人未満の事業場にも拡大される方向で動いている。介護業界は単独事業所単位では50人未満が大多数。「自分の施設は対象外」と思っていた施設長こそ、今から準備を始める必要がある。本記事では、施設長が今月から動くべき実施体制の作り方を、実務目線で解説する。

    介護事業所のストレスチェック義務化50人未満対応ガイド
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長よりストレスチェックは「やらされ仕事」ではない。職員のメンタル不調による休職・離職は、1人あたり数百万円規模の損失になる。義務化は、ようやく中小事業所も向き合うチャンスを得た、と捉えてほしい。

    この記事でわかること

    • 50人未満事業場へのストレスチェック義務化の背景と施行時期
    • 介護事業所が対象になる単位(事業場の数え方)
    • 実施体制(実施者・実施事務従事者)の作り方
    • 外部委託(産業医・EAP・健診機関)の選び方と費用相場
    • 高ストレス者への医師面接指導の流れ
    • 集団分析(職場改善)の使い方
    • 使える助成金・補助金と申請ポイント

    はじめに:なぜ今、50人未満事業場まで広がるのか

    2015年12月にストレスチェック制度がスタートしたとき、対象は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」に限られていた。50人未満は努力義務のままだった。

    しかし、メンタルヘルス不調による労災請求は年々増え続けている。とくに医療・福祉分野は精神障害の労災認定件数で上位常連だ。

    そこで厚生労働省は、労働安全衛生法を改正し、ストレスチェックの実施義務をすべての事業場に拡大する方向で動いてきた。施行は段階的に進められる見込みで、介護事業所の大半が新たに対象となる。

    「うちは小規模だから関係ない」――その認識は、もう通用しない。

    介護事業所が見落としがちな「事業場」の数え方

    ストレスチェックの対象判定は、法人単位ではなく事業場単位で行う。ここを取り違える施設長が非常に多い。

    事業場の基本ルール

    事業場とは、場所的に独立し、組織的に一つの労務管理がなされている単位を指す。同じ法人でも、所在地が異なる施設・事業所はそれぞれ別の事業場として数える。

    パターン数え方
    同一建物内に特養・デイ・ショート併設原則1事業場(実態次第で別扱い)
    市内に特養とサ高住が別所在地2事業場
    本部事務所と現場が別所在地2事業場(本部も対象)
    訪問介護+訪問看護を同一事務所運営原則1事業場

    「常時使用する労働者」のカウント

    正社員だけでなく、契約社員・パート・登録ヘルパーも、1年以上継続雇用が見込まれ、かつ週の所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば「常時使用する労働者」に含める。

    登録ヘルパーが多い訪問介護事業所では、「常勤換算」ではなく実人数で数えるため、想定より人数が多くなりがちだ。

    実施体制:誰がストレスチェックを「実施」するのか

    実施者になれる人

    ストレスチェックを実施できるのは、法律で定められた以下の有資格者だ。

    ・医師
    ・保健師
    ・歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師のうち、厚労省指定研修を修了した者

    50人未満の介護事業所で、社内に有資格者がいないことは珍しくない。その場合は外部委託が前提になる。

    実施事務従事者

    実施者を補助する役割で、個人結果に触れる業務を担う。守秘義務が課されるため、人事評価・解雇権限のある管理職は就けない。施設長や事務長が「自分でやろう」と引き受けるのはNGだ。

    現場では、事務員・経理担当・労務担当などが実施事務従事者になるケースが多い。

    外部委託先の選び方と費用相場

    50人未満の介護事業所では、産業医・EAP事業者・健診機関への外部委託が現実解だ。

    委託先費用目安(1人あたり)特徴
    健診機関のオプション300〜800円健診とセットで割安。集団分析は別料金が多い
    Web型ストレスチェックサービス300〜500円小規模向け。スマホ受検対応・集団分析込み
    EAP事業者800〜1,500円高ストレス者の相談窓口までワンストップ
    産業医契約+実施月額3〜10万円+実施料面接指導までスムーズ。50人未満は地域産業保健センター活用可

    選定のポイントは3つ。①集団分析が標準で含まれるか、②結果通知が職員のスマホで受け取れるか、③高ストレス者の医師面接ルートが用意されているか。これらが揃わないと、実施しても「やりっぱなし」になる。

    実施までの全体スケジュール

    初めて実施する事業所が、ゼロから準備するときの標準的な工程はこうだ。

    時期やること
    準備2〜3か月前実施方針の策定・衛生委員会(または代替会議)で審議
    準備2か月前外部委託先の選定・契約、実施者・実施事務従事者の決定
    準備1か月前職員説明会・実施規程の周知・受検案内
    実施月受検(質問票配布または Web 受検、受検期間2〜3週間)
    実施後1か月結果通知・高ストレス者からの面接申出受付
    実施後2〜3か月医師面接指導の実施・就業上の措置検討
    実施後3か月集団分析・職場改善計画の策定・労基署への報告

    高ストレス者への医師面接指導の流れ

    ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された職員から申出があった場合、事業者は遅滞なく医師面接を実施する義務がある。

    50人未満で産業医契約がない場合は、地域産業保健センター(地さんぽ)が無料で面接指導を提供している。これは多くの施設長が見落としている重要な資源だ。

    注意点

    ・申出をしたことを理由に不利益取扱いをしてはならない
    ・面接結果に基づき、就業場所の変更・労働時間短縮等の措置を検討する
    ・面接記録は5年間保存する
    ・申出を促す働きかけは可能だが、強制してはならない

    集団分析を「やって終わり」にしないために

    集団分析は職場単位(10人以上推奨)でストレス傾向を可視化する分析だ。努力義務だが、これをやらないとストレスチェックは「ただの自己診断ツール」で終わる。

    介護現場で集団分析を活用する典型パターンは以下だ。

    夜勤帯と日勤帯の比較:夜勤シフトの仕事量・コントロール度をスコア化
    ユニット別比較:管理者のマネジメントスタイルの影響を可視化
    職種別比較:介護職・看護職・相談員の負担構造の違いを把握

    結果が出たら、衛生委員会または職場改善ミーティングで原因を議論し、シフト見直し・業務再配分・ICT導入などの具体策に落とし込む。これが処遇改善加算の「職場環境等要件」の取り組み実績にも活用できる。

    使える助成金・補助金

    ① 産業保健関係助成金(独立行政法人労働者健康安全機構)

    「ストレスチェック助成金」「心の健康づくり計画助成金」など、年度により名称・要件が変動する。50人未満事業場が対象になることが多い。

    ② 地域産業保健センター(地さんぽ)の無料サービス

    50人未満限定で、医師面接指導・健康相談・職場巡視などが無料で受けられる。各都道府県の産業保健総合支援センターから紹介を受ける。

    ③ エイジフレンドリー補助金

    高年齢労働者の労働災害防止のための取り組み(メンタルヘルス対策含む)に対する補助。介護現場は対象になりやすい。

    よくある失敗と防ぎ方

    失敗①:施設長が実施事務従事者を兼ねてしまった

    個人結果を知る立場の人が人事評価権を持つと、回答が歪む(職員が本音を書けない)。防ぎ方:事務員・外部スタッフに役割を分離する。

    失敗②:受検率が低くて集団分析ができない

    受検が任意であっても、案内が弱いと受検率は5割を切る。防ぎ方:勤務時間内に受検時間を設ける・スマホ受検にする・管理職から個別に声をかける。

    失敗③:高ストレス者が出ても申出がない

    「上司に知られる」と思って申出をためらう職員は多い。防ぎ方:申出窓口を外部EAPや実施者本人に設定し、施設長を経由しない動線にする。

    失敗④:集団分析を見て終わり

    結果を共有するだけで職場改善につなげない。防ぎ方:分析後に必ず「改善アクション1つ」を決め、3か月後にフォロー会議を入れる。

    失敗⑤:労基署への報告を忘れた

    事業者は実施結果を労働基準監督署に報告する義務がある(対象事業場)。防ぎ方:実施規程に報告期限を明記し、年間スケジュールに組み込む。

    施設長の今すぐ確認リスト

    • 自施設が「事業場」として何単位に分かれるか整理した
    • 各事業場の「常時使用する労働者」の人数を実数で把握した
    • 実施者になれる有資格者が社内にいるか確認した
    • 外部委託先候補を2〜3社リストアップし見積もりを取った
    • 実施事務従事者を人事評価権のない職員に決定した
    • 地域産業保健センターの連絡先を把握した
    • 衛生委員会または代替会議で実施方針を審議する予定を立てた
    • 集団分析を活用する職場改善ミーティングを年間計画に組み込んだ
    ストレスチェックは「やる」のが目的ではなく、「職員のメンタル不調を未然に防ぎ、離職を止める」ことが目的だ。

    編集長・深瀬久博からひとこと

    正直に言う。私は「義務化」という言葉が好きではない。やらされ仕事はうまくいかないからだ。

    しかし、ストレスチェックの50人未満拡大は、介護業界にとって追い風だ。なぜなら、メンタル不調による離職・休職は、これまでブラックボックスのまま現場を蝕んできたからだ。

    「うちの職員は元気だから大丈夫」と思っていた施設長ほど、初回の集団分析の数字に驚く。本当だ。

    義務化を「コスト」と捉えるか、「離職予防の投資」と捉えるか。それで施設の3年後は変わる。

    今月、まず自施設の事業場数と労働者人数を整理することから始めてほしい。

    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師