【介護】老健・介護医療院の多床室、室料負担は広がるのか
2027年度改定に向けた論点と、施設長が今から備えること

2025年8月から、一部の老健と介護医療院の多床室で、利用者に室料を負担してもらう仕組みが始まりました。対象の施設では、利用者や家族への説明、契約書の見直し、請求の変更に追われたのではないでしょうか。
その室料負担が、再び議論の対象になっています。2026年9月3日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、老健と介護医療院の多床室の室料負担の在り方が、2027年度の介護報酬改定に向けた論点として示されました。
現時点では何も決まっていません。ただ、議論の行方によっては、今は対象外の老健・介護医療院にも室料負担が広がる可能性があります。この記事では、審議会の資料をもとに、これまでの経緯と今回の論点、施設長が今から備えておきたいことを整理します。
これまでの経緯:室料負担は段階的に広がってきた
介護保険施設の居住費(部屋代)は、これまで何度か見直されてきました。
| 時期 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 2005年10月 | 介護保険施設の個室 | 室料と光熱水費を保険給付の対象外に(多床室は光熱水費のみ負担) |
| 2015年度 | 特別養護老人ホームの多床室 | 一定の所得がある入所者に室料負担を導入 |
| 2025年8月 | 「その他型」「療養型」の老健、「Ⅱ型」の介護医療院の多床室 | 室料負担を新たに導入(月額8千円相当) |
2025年8月の見直しでは、対象となる多床室(1人あたり8㎡以上)の利用者について、基本報酬から1日26単位が差し引かれ、その分を利用者が室料として負担する形になりました。
ただし、所得の低い利用者負担第1〜3段階の人については、補足給付によって負担が増えない仕組みになっています。負担が増えるのは、主に第4段階の人です。
今、室料負担がある施設・ない施設
現在の状況を整理すると、次のとおりです。
| 施設の類型 | 多床室の室料負担 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム | あり(2015年度から) |
| 老健「その他型」「療養型」 | あり(2025年8月から) |
| 老健「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」 | なし |
| 介護医療院「Ⅱ型」 | あり(2025年8月から) |
| 介護医療院「Ⅰ型」 | なし |
今回の議論の焦点は、2025年8月の見直しで対象外とされた類型です。
実際に、室料相当額を差し引いている事業所は、老健で3.3%、介護医療院で23.0%にとどまっています(2025年11月審査分)。つまり、老健のほとんどは今のところ対象外です。もし対象が広がれば、多くの老健が新たに対象になります。
多床室の居住費の基準となる金額(基準費用額)も、室料の有無で変わります。
| 施設 | 多床室の居住費の基準費用額(日額) | 月額の目安 |
|---|---|---|
| 老健・介護医療院(室料を徴収する場合) | 697円 | 約2.1万円 |
| 老健・介護医療院(室料を徴収しない場合) | 437円 | 約1.3万円 |
| 特別養護老人ホーム | 915円 | 約2.8万円 |
※2025年8月以降の金額
9月3日の審議会で示された論点
厚生労働省が示した論点は、老健と介護医療院の多床室の室料負担の在り方について、在宅との負担の公平性や施設の機能、利用の実態を踏まえ、2027年度改定に向けた老健・介護医療院の議論も念頭に置きながら、どのように考えるかというものです。
「広げる」「広げない」のどちらかを示したわけではなく、問いかけの段階です。
見直しを求める意見
財政制度等審議会は、2026年6月の建議で、2025年8月の見直しで室料負担の導入が見送られた類型についても、多床室の室料相当額を基本報酬から外す見直しを提言しています。
その根拠として、次のような利用実態が挙げられています。
- 介護医療院は、特養と同じく家庭への復帰が限られており、実質的に生活の場になっている
- 老健の平均在所日数は400日を超えている
- 老健に入所した当初の目的が「他の施設への入所待ち」という利用者が3割いる
- 長期入所者が退所できない理由として「特養の入所待ち」が38%、「家族の希望」が25%
慎重な意見
一方、社会保障審議会の介護保険部会では、次のような意見が出ています。
- 介護保険法上、老健は住まいではなく、在宅復帰や在宅療養を支援する施設と位置付けられている。住まいではないところから室料を取るのは適切ではないのではないか
- 室料負担は2025年8月に新しい見直しが始まったばかりであり、財源が厳しいから自己負担を取るというだけでは説得力に欠ける
介護保険部会の意見書(2025年12月)では、これらの意見も踏まえつつ、介護給付費分科会で在り方を検討する必要があるとされていました。今回の論点提示は、その流れを受けたものです。
老健の場合、「類型」の意味がこれまで以上に大きくなる
2025年8月の見直しで室料負担の対象になったのは、在宅復帰や在宅療養支援の機能が低い「その他型」でした。つまり、施設がどんな機能を果たしているかが、室料負担の線引きに使われたことになります。
老健の類型の割合は、この数年で大きく変わっています。超強化型は2018年5月時点の7.8%から2025年11月時点で33.2%に増え、基本型は51.1%から20.7%に減りました。
今回の議論が、類型をどう扱うかは分かりません。ただ、在宅復帰の機能を高めてきた老健にとっては、「住まいではなく、在宅復帰を支える施設である」ことを実績で示せるかどうかが、これまで以上に問われる可能性があると考えられます。
施設長が今から備えておきたい3つのこと
1. 利用者・家族への説明の準備を、早めに始める
対象が広がった場合、負担が増えるのは主に所得段階が第4段階の利用者です。2025年8月に対象になった施設では、説明に苦労したという声も少なくないはずです。
2026年8月には食費の基準費用額も引き上げられており、利用者や家族にとって負担の変更が続いています。「また上がるのか」という不安を持たれやすい時期だからこそ、決まってから慌てるのではなく、補足給付の仕組みや負担が増えない人の条件を、分かりやすく説明できる準備をしておくと安心です。
2. 自施設の入所者の所得段階の内訳を把握しておく
室料負担が導入された場合に、実際に負担が増える人が何人いるのかは、入所者の所得段階の内訳で決まります。第4段階の入所者が多い施設ほど、説明や問い合わせの対応が増えます。今のうちに内訳を確認しておくと、影響の大きさを見積もれます。
3. 請求・契約まわりの変更に備える
前回の見直しでは、基本報酬からの控除、基準費用額の変更、重要事項説明書や契約書の見直しが必要になりました。同じ形で広がるかは分かりませんが、請求ソフトの対応や書類の改定には時間がかかります。前回の対応で使った資料や手順を、すぐに取り出せる形で残しておくことをおすすめします。
負担の説明を受け止めるのは、現場の職員
制度が変わるたびに、利用者や家族からの質問や不満を最初に受け止めるのは、支援相談員や事務職員、フロアの職員です。説明の資料や施設としての統一した答え方がなければ、職員は一人ひとりがその場で対応するしかありません。
2026年10月からは、カスタマーハラスメント対策も事業者の義務になっています。負担が変わる時期の説明は、利用者のためだけでなく、職員が一人で矢面に立たされない体制をつくることでもあります。
制度の変化に備えることは、職員が安心して働き続けられる職場を守ることにもつながります。採用で人を補い続けるより、今いる職員を守る準備を、制度が決まる前から始めておきたいところです。
今後、分科会で具体的な方向性が示されたら、情熱介護でも改めてお伝えします。
この記事の出典
- 厚生労働省「第264回社会保障審議会介護給付費分科会 資料5 多床室の室料負担」(令和8年9月3日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001744921.pdf - 厚生労働省「第264回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75593.html
※資料5には、社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和7年12月25日)、財政制度等審議会「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」(令和8年6月26日)、介護給付費等実態統計等の内容が掲載されています。
※本記事は2026年9月時点の審議会資料をもとにしています。制度の内容は今後の議論で変わる可能性があります。実際の運用にあたっては、指定権者(都道府県・市区町村)にご確認ください。
精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者