人員基準欠如減算は「1人辞めた」では終わらない
3割減算の金額インパクトと、穴埋めシフトが次の退職を生む構造
夜勤ができる職員が1人辞めた。翌月のシフトは残った職員で埋めた。この判断が3か月後に2人目の退職を生み、そこで初めて人員基準を下回ります。月600万円の減算は、突然起きるのではなく、1人目が辞めた日から予約されています。

夜勤ができる職員が1人辞めた。翌月のシフトは、残った職員の勤務を増やして埋めた。
この判断が、3か月後に2人目の退職を生みます。そして2人目が出たとき、今度はシフトでは埋まりません。人員基準を下回り、利用者全員分の報酬が3割減ります。
人員基準欠如減算については、すでに多くの解説があります。ただ、そのほとんどは「何割減算か」「計算式はどうか」という制度の説明で終わっています。施設長が本当に知りたいのは、そこではありません。
1人欠けると、月にいくら失うのか。そして、その穴を埋める判断が、なぜ次の欠員を呼ぶのか。この記事ではその2点を扱います。
本記事は、各サービスの人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)および「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」等の関連告示・通知を基にしています。
人員基準の内容・欠如の判定方法・減算の適用開始月は、サービス種別によって細部が異なります。 また、届出の様式や運用は指定権者(都道府県・市町村)ごとに定められています。実際の判断にあたっては、必ず自施設の該当基準と指定権者の要領を確認してください。
01 制度の骨子:3割減算という重さ
何が起きるか
人員基準上必要な員数を下回った場合、利用者全員について、所定単位数の70%で算定することになります。一部の利用者ではありません。全員です。
ここが最も誤解されやすい点です。「1人足りないから、その分だけ減る」ではありません。欠員が1人でも、報酬全体が3割落ちます。
いつから減算されるか
適用開始月は、欠如の程度によって分かれます。
| 欠如の程度 | 減算の開始 |
|---|---|
| 必要員数の1割を超える欠如 | 翌月から、解消される月まで |
| 必要員数の1割以内の欠如 | 翌々月から、解消される月まで |
1割以内の欠如については、翌月末までに解消できれば減算は適用されません。つまり実質的な猶予は1〜2か月程度です。
介護支援専門員(計画作成担当者)の欠如についても、翌々月からの適用となります。
届出が必要です
人員基準欠如が生じた場合、指定権者への届出が必要です。
ここを飛ばす施設があります。「すぐ補充できるだろう」と考えて届出をせず、減算もせずに請求を続けるケースです。
これは不正請求として扱われます。人員基準を満たしていないのに満たしているものとして報酬を請求した場合、報酬の返還を求められ、行政処分の対象となります。
さらに、著しい人員基準欠如の状態が続く場合には、定員の見直しや事業の休止を指導され、それに従わない場合は指定の取消しに至る可能性があります。減算しておけば人員基準を満たさない状態を続けてよい、という制度ではありません。
02 いくら失うのか:金額で見る
制度の説明はここまでです。ここからが本題です。
特養100床のケース
前提を置きます。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 定員 | 100床(従来型・要介護3〜4中心) |
| 介護報酬収入 | 月額 約2,400万円 |
| うち減算対象となる所定単位数部分 | 約2,000万円と仮定 |
この施設で人員基準欠如減算が適用された場合、
2,000万円 × 30% = 月額600万円の減収
3か月続けば 1,800万円 です。
補充にかけられる金額との比較
ここで施設長が直面するのは、次の比較です。
| 選択肢 | コスト |
|---|---|
| 減算を1か月受ける | 約600万円 |
| 人材紹介会社で1名採用(年収400万円・手数料30%) | 約120万円 |
| 派遣職員を1名、1か月配置 | 約50〜60万円 |
数字だけを見れば、紹介手数料も派遣費用も、減算1か月分より遥かに安いということになります。
多くの施設長がこの計算をした結果、紹介会社への依存が深まります。そして、その判断自体は目先では合理的です。
ただし、この計算には抜けがあります
比較の左側にある「減算600万円」は、欠員を放置した場合の金額です。実際には、施設長は減算を避けるために別の手を打ちます。
残った職員の勤務を増やして埋める、という手です。
このとき、コストはゼロに見えます。既存職員のシフトを組み替えるだけだからです。だから、ほとんどの施設がまずこれを選びます。
そして、ここから2人目が出ます。
03 穴埋めシフトが次の退職を生む構造
何が起きているか
1人欠けた分を残りの職員で埋めると、現場では次のことが同時に起こります。
- 夜勤回数が月1〜2回増える
- 希望休が通らなくなる
- 早番と遅番の間の休息時間が短くなる
- 「今月だけ」と言われた状態が3か月続く
- 誰かが体調を崩すと、さらに別の人にしわ寄せがいく
そして最も重いのが、辞めた人の穴を埋めているのが、辞めなかった人だという構図です。
残った職員から見れば、真面目に続けている人ほど負担が増えます。この不公平感が、次の退職の起点になります。
「あと1人」の重さが違う
ここが構造の核心です。
1人目が辞めたとき、施設は「まだ基準は満たしている」状態です。だから減算は起きません。問題が数字に表れないので、施設長には緊急事態に見えません。
しかし現場では、その時点で既に限界近くまで負荷が上がっています。
2人目が辞めると、今度は基準を下回ります。しかも2人目は、1人目の穴を埋めていた職員である可能性が高いのです。
つまり、
- 1人目が辞める(減算なし・数字に表れない)
- 残った職員で埋める(コストゼロに見える)
- 負荷が上がり、2人目が辞める
- 基準を下回り、月600万円の減算が始まる
減算は、突然起きるのではありません。1人目が辞めた時点から、3か月かけて予約されています。
だから、見るべきは離職率ではありません
離職率は、辞めた後にしか分かりません。3か月かけて進行する事態を、結果でしか捉えられないということです。
見るべきは、辞める前に表れる兆候です。具体的には以下が該当します。
| 見る対象 | 何を見るか |
|---|---|
| 希望休の充足率 | 通らなかった希望休が、誰に何回集中しているか |
| 夜勤回数の分布 | 平均ではなく、最も多い人が月何回か |
| 有給取得率 | 職員間の差。取れていない人が固定化していないか |
| 時間外の分布 | 特定の職員に集中していないか |
| 遅刻・当日欠勤 | 増加は、限界の初期サインとして表れることがある |
これらは、シフト表と勤怠データから今日すぐ出せます。離職の予兆は、感情ではなく数字に出ます。
この考え方については介護職が3ヶ月で辞める本当の理由|離職率を下げる7つの定着施策で扱っています。
04 欠員が出たときの実務手順
構造の話をしたうえで、実際に欠員が出た場合の手順を整理します。
ステップ1:基準を満たしているか正確に判定する(当日)
まず、本当に基準を下回っているのかを確認します。
判定方法はサービス種別で異なります。看護職員は1か月間の職員数の平均で、介護職員は1か月の勤務延時間数を本来確保すべき勤務延時間数で除して算出する、といった具合です。
この計算を感覚でやらないでください。「1人辞めたから足りないはずだ」と思い込んで不要な減算届を出したり、逆に「なんとかなっている」と思い込んで請求を続けたりすることが、どちらも起こり得ます。
ステップ2:解消可能かを月末基準で判断する(3日以内)
1割以内の欠如であれば、翌月末までに解消できれば減算は適用されません。
ここで判断すべきは「採用できるか」ではなく、「翌月末までに勤務可能な人を確保できるか」です。内定が出ても入職が翌々月なら間に合いません。
現実的な選択肢は以下です。
- 派遣職員の配置
- 法人内の他事業所からの応援
- 短時間勤務者の勤務時間延長(本人合意が前提)
- 既に退職した職員への声かけ
ステップ3:解消できない場合は、速やかに届出(判断後すぐ)
解消の見込みが立たない場合、届出をして、減算した金額で請求します。
繰り返しますが、届出をせずに満額請求を続けることは不正請求です。減算は痛みますが、返還請求と行政処分はそれ以上の打撃になります。
ステップ4:残った職員への説明(同時並行)
これを飛ばさないでください。
欠員が出たとき、現場の職員が最も不安に思うのは「この状態がいつまで続くのか」です。期限が示されないまま負荷だけが増える状態が、最も辞める確率を上げます。
伝える内容は3つです。
- 現在の採用の進捗(具体的に。「頑張っています」ではなく「◯名面接済み」)
- いつまでこの体制が続く見込みか
- その間、誰の負担をどう調整するか
見込みが立っていない場合は、「立っていない」と伝えてください。曖昧にすると、職員は最悪の想定をします。なお、この局面で最も負荷が集中するのは管理者自身です。その構造については「もう限界です」と言えない管理者へ|介護現場リーダーが疲弊する4つの構造と回復の道筋で整理しています。
ステップ5:負担の集中を数字で確認する(毎月)
穴埋め期間中は、毎月シフトを数字で点検してください。
- 夜勤回数が最も多い職員は誰か、月何回か
- 希望休が通らなかった回数が最も多いのは誰か
- 連続勤務が最も長いのは誰か
この3つに同じ名前が並んだら、その人が次に辞めます。
05 平時に決めておくこと
減算は、欠員が出てからでは防げません。以下は今日決められることです。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 基準に対する余裕人数 | 常時、基準+何名を維持するかを数値で決める |
| 欠員時の代替手段の順序 | 派遣・法人内応援・時間延長の優先順位と、依頼先を平時に確保 |
| シフト負担の上限 | 夜勤の月上限回数、連続勤務日数の上限を明文化 |
| 月次で見る指標 | 希望休充足率・夜勤回数の最大値・有給取得率の分布 |
| 退職の申出を受けたときの初動 | 誰が面談するか、いつまでに何を確認するか |
1行目が最も重要です。基準ぴったりで運営している施設は、1人辞めた瞬間に減算圏内に入ります。余裕人数を「あったらいい」ではなく「経営上必要なバッファ」として位置づけてください。
月600万円の減算リスクに対して、職員1名分の人件費は月30万円前後です。バッファを持つことは、コストではなくリスクヘッジです。
補助金や加算を活用した体制整備については介護事業者のための補助金・助成金完全ガイド2026、採用面での打ち手は介護施設の人手不足を解消する9つの実践策で扱っています。
06 参考資料
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(厚生労働省告示)
- 各指定権者が定める体制届出等の要領
施設長時代、職員が辞めると言ってきたとき、私が最初に考えたのは「シフトをどう回すか」でした。翌月の表を作り直して、なんとか埋まったとき、正直ほっとしていました。
そのシフトで一番きつい部分を引き受けてくれていた職員が、3か月後に辞めました。そのときも私は、シフトをどう回すかを考えました。
減算という数字は、そこまで来て初めて見えます。ただ、始まっていたのは、最初の1人が辞めた日でした。
人が足りないことと、人が辞めることは、別の問題ではありません。前者への対応が、後者を作っています。
情熱介護 編集長 深瀬 久博
最終更新:2026年7月31日 / 情熱介護編集部