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    人材戦略・組織運営 2026.06.14 約14分で読了

    介護施設の人手不足は
    本当に解決できるのか
    ――2026年に施設長が打つべき9つの手

    有効求人倍率4倍超、離職率14.4%、2040年に69万人不足。「採用を強化すればなんとかなる」という発想だけでは、介護現場の人手不足は絶対に解決しない。求人・定着・業務設計・外国人・ICT・地域連携まで、2026年に効く9つの打ち手を構造的に解説します。

    人手不足の介護現場で夜勤シフト表を見つめる施設長
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長より「人手不足対策」というと、多くの施設は反射的に「求人媒体を増やす」「人材紹介を使う」と動きます。けれど、本当に効くのはその手前――『辞めさせない構造』と『1人あたりの負担を下げる業務設計』です。順番を間違えると、いくら採っても穴の空いたバケツに水を注ぐことになります。

    この記事でわかること

    • 介護人手不足の最新データ(有効求人倍率・離職率・2040年見通し)
    • 「採用すれば解決する」という発想がなぜ間違っているか
    • 定着・採用・業務改革・外国人・ICT・地域連携の9つの打ち手
    • 2026年に効く打ち手と、効かなくなった打ち手の見分け方
    • 施設長が今月から着手すべき優先順位の付け方

    介護人手不足の現在地:データで現実を直視する

    感覚的に「人が足りない」と感じている施設長は多い。だが、その「足りなさ」がどの程度なのかを、まず客観的な数字で押さえておきたい。

    ① 有効求人倍率は全産業平均の3〜4倍

    厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、介護関係職種の有効求人倍率は近年4倍前後で推移している。全産業平均が1.2〜1.3倍であることを踏まえると、「介護職1人を採るために、他産業の3〜4倍の労力がかかる」という構造だ。

    ② 離職率14.4%、入職率を上回る年も

    介護労働安定センター「介護労働実態調査」では、介護職員の離職率は14.4%前後。全産業平均(約15%)とほぼ同水準ではあるが、問題は「入職率が離職率に追いついていない事業所」が4割近く存在することだ。出入りが激しいまま、純減し続ける現場が確実にある。

    ③ 2040年に約69万人不足という公的試算

    厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員必要数」では、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人の介護職員が必要と推計され、現状の供給ペースでは2040年に約69万人不足するとされている。これは「現場の感覚」ではなく、国の公式試算だ。

    人手不足はもう「景気の波」ではない。介護を選ぶ世代そのものが、構造的に減っていく。

    「採用を強化すれば解決する」は、なぜ間違いなのか

    多くの施設で最初に発動するのは、「求人広告を出す」「人材紹介会社を増やす」という対策だ。だが、これが効きづらくなっている理由は2つある。

    1つ目は、供給そのものが減っていること。母集団が縮小している以上、媒体を増やしても応募の絶対数は伸びにくい。

    2つ目は、採用コストが急上昇していること。人材紹介手数料は介護職1人あたり60〜100万円超が珍しくなく、採用したのに1年以内に辞めたら大赤字になる。

    つまり、出口(離職)を放置したまま入口(採用)を広げても、コストだけが膨らみ続ける。これが「採れない・辞める・また採る」の悪循環の正体だ。

    2026年に施設長が打つべき9つの手

    ここからは、優先順位の高い順に「9つの打ち手」を整理する。順番に意味があるので、上から読んでほしい。

    打ち手①:まず「辞める理由」を構造で潰す(定着)

    人手不足対策の出発点は、採用ではなく定着だ。退職者にヒアリングし、人間関係・夜勤負担・評価制度・賃金・キャリアパスの5領域で、何が一番効いていたかを見える化する。1年離職率を10ポイント下げられれば、年間で数百万円の採用コストが浮く。

    打ち手②:「夜勤・シフト負担」を物理的に減らす(業務改革)

    夜勤明けに「もう辞めたい」と思わせている時点で、定着策の上限は決まる。夜勤回数の平準化、勤務間インターバル、見守りセンサーによる巡視削減など、シフト設計を抜本的に見直す。労働基準法改正による14連勤禁止・勤務間インターバル努力義務化への対応とセットで進めるのが効率的だ。

    打ち手③:管理者・リーダー層の疲弊を止める(組織)

    現場で最も削れているのは、実はユニットリーダーや管理者だ。彼らが倒れると、芋づる式に若手が辞める。管理職へのコーチング、業務の権限委譲、メンタルヘルス支援は、人手不足対策の隠れた最優先項目になる。

    打ち手④:求人原稿と募集導線を「応募される設計」に作り直す(採用)

    定着の手当てができてから、ようやく採用の話だ。応募が来ない求人の9割は、原稿の構造に問題がある。条件の羅列ではなく、「誰のどんな1日を、どう変える仕事か」を1枚絵で語る。求人媒体・自社サイト・SNS・Indeedの導線を「同じ言葉」でつなぐ。

    打ち手⑤:リファラル(紹介)採用を常設の制度にする(採用)

    媒体経由の応募が細る中、職員紹介ほどコスパが良いチャネルは他にない。紹介手当・推薦経路・受け入れまでの導線をルール化し、毎月の評価ミーティングで紹介状況を可視化する。「人を紹介したくなる職場かどうか」が、そのまま採用力の指標になる。

    打ち手⑥:外国人人材(特定技能・EPA・技能実習)を中期戦略に組み込む(多様化)

    もはや「補欠的選択肢」ではなく、中期人員計画の柱の1本になる。受入機関の選定、日本語教育、生活支援、キャリアパスの提示まで含めた「定着まで設計された受入れ」ができる施設だけが、外国人介護職を戦力化できる。

    打ち手⑦:ICT・介護ロボット・生成AIで「1人あたり負担」を下げる(DX)

    人を増やせないなら、1人あたりの負担を下げるしかない。記録AI、見守りセンサー、移乗支援機器、介護ソフトの再構築は、令和8年度の介護テクノロジー導入支援事業(補助率3/4・最大260万円)と組み合わせれば、現実的な投資回収が見える。

    打ち手⑧:処遇改善加算とキャリアパスを「賃上げ+将来像」で設計し直す(賃金)

    2026年6月臨時改定で対象職種が拡大した処遇改善加算と、人事評価・キャリアパス制度を連動させる。単発の「ベースアップ」だけでなく、「3年後の給与カーブ」を職員に示せる施設は、定着率が明確に違う。

    打ち手⑨:地域・学校・潜在介護福祉士に取りに行く(地域連携)

    媒体を経由しない、地域を直接耕すルートを持つ。介護福祉士養成校・高校との連携、潜在介護福祉士(資格はあるが現場を離れた人)への復職支援、地域の生活支援人材の育成。これらは即効性は低いが、3年後の採用力を決める投資になる。

    「もう効かなくなった打ち手」と「これから効く打ち手」

    同じ「人手不足対策」でも、2026年の市場ではコスパが大きく変わっている。

    効きづらくなった打ち手これから効く打ち手
    求人媒体を増やす求人原稿の構造を作り直す
    人材紹介に頼り切るリファラル+直接応募の比率を上げる
    単発のベースアップキャリアパスと連動した昇給設計
    「気合と根性」のシフトセンサー・AI・勤務間インターバル
    外国人=補欠扱い中期戦略の柱に据える

    施設長が今月から着手すべき優先順位

    9つすべてを同時に動かす必要はない。むしろ、優先順位を間違えなければ、3つに絞っても結果は出る。

    • 第1ステップ(〜1ヶ月):直近1年の退職者ヒアリングをやり直す。原因分析と打ち手①〜③のうち、自施設に効きそうな1つを決める。
    • 第2ステップ(1〜3ヶ月):採用の入口を作り直す。求人原稿の書き直し、リファラル制度の常設化(打ち手④⑤)。
    • 第3ステップ(3〜6ヶ月):外国人受入・ICT・補助金活用を中期計画に組み込む(打ち手⑥⑦)。
    • 第4ステップ(6〜12ヶ月):賃金・キャリア・地域連携を制度として設計する(打ち手⑧⑨)。
    注:本記事のデータについて掲載している有効求人倍率・離職率・2040年必要数は、厚生労働省「職業安定業務統計」「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員必要数」、介護労働安定センター「介護労働実態調査」等の公表値をもとに記述しています。最新の数値・指標は各統計の最新版をご確認ください。

    施設長の今月確認リスト

    • 直近1年の退職者ヒアリングを5名以上完了している
    • 離職理由を「人間関係/夜勤/評価/賃金/将来不安」で分類している
    • 夜勤回数の偏りと勤務間インターバルを点検している
    • 管理者・リーダー層のメンタル不調サインを月1で把握している
    • 求人原稿を半年以内に書き直している
    • リファラル制度(紹介手当・推薦経路)が文書化されている
    • 外国人人材の受入計画が3年スパンで存在する
    • 介護テクノロジー導入支援事業の活用可否を検討している
    • 処遇改善加算とキャリアパスが連動している

    編集長・深瀬久博からひとこと

    「人手不足はもう構造問題で、施設1つでは解決できない」――そう諦めかけている施設長の声を、現場でよく聞く。

    確かに、マクロな労働人口減はどう頑張っても止められない。けれど、同じ商圏で、同じ条件なのに、人が集まり続けている施設は確実にある。違いは、運やブランドではなく、「順番」だ。

    辞めない構造を作る → 採れる入口を整える → 多様化と仕組み化を進める。この順番を守れる施設は、3年後にもまだ採用できる。逆に、入口だけ広げ続ける施設は、3年後にもまだ求人広告を打ち続けている。

    9つの打ち手を一気にやる必要はない。今月、退職者にもう一度話を聞きにいく。それが、いちばん効く第1歩だと、私は信じている。

    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師