【2026年10月1日義務化】
介護事業所のカスハラ対策完全実装ガイド告示51号の5つの柱・運営規程改訂・相談体制・職員研修と、2027年度に控える運営基準の義務化
2026年10月1日、労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策が全介護事業所に雇用管理上の措置義務として課されます。厚生労働省告示第51号が求める措置の内容、運営規程・重要事項説明書への記載、相談窓口設置、職員研修までの実務手順を施設長向けに解説します。さらに介護事業者には、2027年度介護報酬改定で運営基準への義務付けという第二段階が控えています。
この記事は、施行前(2026年7月28日時点)に書いたものです。2026年10月1日、労働施策総合推進法の改正が施行され、カスハラ対策は全ての事業主の義務になりました。
本文の準備スケジュールは、施行前の時点で書いたものです。施行後の今、何を確認すべきかは、記事の最後に追記した「施行後に確認すべき5つのこと」をご覧ください。

この記事でわかること
- 何が義務化されるのか(法律の根拠と対象事業所)
- カスハラの正確な定義と「正当な苦情」との違い
- 事業主に求められる5つの措置義務の具体的な内容
- 運営規程・重要事項説明書への記載が必要な箇所
- 相談窓口の設置と職員研修の実施方法
- 10月1日までに整えるための優先順位と実務手順
- 2027年度介護報酬改定で予定される「運営基準への義務付け」との関係
はじめに:「利用者だから我慢する」が終わる日
介護現場では長年、利用者や家族からの暴言・暴力・過度な要求が「現場の我慢」として処理されてきた。
厚生労働省の調査(2018年度)によると、利用者から被害を受けた経験のある介護職員はサービス種別によって4〜7割、家族から被害を受けた経験がある職員は1〜3割にのぼる。
より新しい調査もある。公益財団法人介護労働安定センターが2023年1月から2月にかけて実施した「介護事業所のハラスメントに関する調査」では、この1年間に利用者からハラスメントを「受けた」と回答したのは、サービス提供責任者で34.9%、訪問介護員で30.4%、介護支援専門員で18.6%だった。
利用者の家族等から「受けた」は、介護支援専門員で15.9%、サービス提供責任者で14.8%、訪問介護員で5.6%。利用者または家族のどちらか一方から受けた人は、サービス提供責任者で40.3%、訪問介護員で32.0%、介護支援専門員で26.5%にのぼる。
受けた内容は、いずれの職種でも「大声を発する、怒鳴る」が最も多い。第2位は職種によって分かれ、訪問介護員は「個人の尊厳や人格を傷つけるようなことを言われる」、介護支援専門員は「サービスの適正な範囲を超えた理不尽なサービスを要求する」だった。
ただしこの調査の対象は訪問介護事業所と居宅介護支援事業所、およびそこに勤務する職員である。入所系施設の数値ではない。施設系は家族対応の比重が大きくなるため、被害の構造そのものが異なる点に注意してほしい。
この現実に対して、2026年10月1日、制度が正式に向き合う日が来た。
労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策が全ての事業主の雇用管理上の措置義務となる。この義務に違反した事業主は、報告徴求命令・助言・指導・勧告・公表の対象となる。
「利用者だから仕方ない」ではなく「事業所として毅然と対応できる根拠」が、制度として整備される。
準備を整えることで、職員を守り、施設の信頼を守ることができる。
何が義務化されるのか:法律の正確な理解
根拠となる法律:二段階で来る義務化
介護事業者にとって、カスハラ対策の義務化は二段階で来る。この違いを理解しておかないと、2026年10月に対応して終わりだと誤解することになる。
第一段階:2026年10月1日 ── 労働施策総合推進法の改正
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、カスハラ対策が全事業主の雇用管理上の措置義務となる。労働者を1人でも雇用していれば対象で、中小企業・個人事業主も含まれ、経過措置はない。
事業主が講ずべき措置の内容は、2026年2月26日に公布された「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)が定めている。
これは労働法上の義務である。違反しても罰則はないが、行政指導や企業名公表の対象となる。
第二段階:2027年度介護報酬改定 ── 運営基準への義務付け
介護事業者には、これに加えてもう一段階ある。
2025年10月27日に開かれた第127回社会保障審議会介護保険部会で、厚生労働省は2027年度介護報酬改定において、カスハラ対策を各サービスの運営基準に義務付ける方針を提示し、大筋で了承された。
2021年度介護報酬改定では、セクハラ・パワハラ対策がすでに運営基準で義務化されている。一方カスハラについては、これまで通知による推奨にとどまっていた。この差が埋まることになる。
なぜ第二段階のほうが重いのか
介護事業者にとって影響が大きいのは、実は第二段階のほうだ。
労働法上の義務違反は行政指導・企業名公表にとどまるが、運営基準違反は指定権者による指導・監査の対象となり、状況によっては指定の取消や報酬返還につながる。事業継続に直結する。
2026年10月の対応は、2027年度の運営基準への対応をそのまま先取りすることになる。今整えておけば、次期改定時に慌てる必要がない。逆に「労働法の話だから総務に任せておこう」と処理してしまうと、次期改定で運営基準として降ってきたときに一から作り直すことになる。
なお、2027年度改定に向けた具体的な基準の内容は今後の審議で固まる。確定した内容ではない点に注意してほしい。
対象となる事業所
規模も種別も問わず、すべての介護事業所が対象となる。
「うちは小規模だから」「個人経営だから」という例外はない。訪問介護・通所介護・特養・老健・グループホーム・居宅介護支援——全てのサービス種別が対象だ。
カスハラの正確な定義
厚生労働省の定義
厚生労働省はカスタマーハラスメントを以下のように定義している。
「顧客等の言動であって、社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」
この定義で重要なのは「社会通念上許容される範囲を超える」という部分だ。
利用者からの苦情のすべてがカスハラになるわけではなく、社会通念上許される範囲のものは「正当な申し入れ」であって、カスハラには当たらない——指針はそうはっきり書いている。
カスハラ・正当な苦情・グレーゾーンの見分け方
| 区分 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 正当な苦情 | ケアの内容・方法への具体的な意見 | 誠実に対応する |
| グレーゾーン | 感情的だが要求に合理性がある | 内容を整理して対応 |
| カスハラ | 暴言・威圧・繰り返しの長時間拘束・根拠のない要求 | 毅然と対応・記録を残す |
事業主に求められる5つの措置義務
2026年2月26日、厚生労働省は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)を公布した。この告示が、事業主が何をすべきかを定めている。
告示が定める措置は5つの区分、全10項目で構成される。ここでは告示の記載順に沿って解説する。
なお2026年4月24日には、実務上の疑問に答える解釈事項も公表されている。判断に迷う場面では、告示本文と併せて確認してほしい。
措置①:事業主の方針等の明確化と周知・啓発
「カスハラに対してどう対応するか」という事業所としての方針を明確にし、職員・利用者・家族に周知する。
具体的にやること:
- 「カスハラ対応方針」を文書化する
- 運営規程・重要事項説明書に記載する
- 利用者・家族への説明資料を作成し、入居・利用開始時に説明する
- 職員への周知(朝礼・会議・掲示板等)
文章例(方針):
「当施設は、職員がその能力を十分に発揮できるよう、利用者・家族等からの暴言・威圧的言動・合理的理由のない要求等のカスタマーハラスメントに対して、組織として毅然と対応します。」
措置②:相談に応じ適切に対応するための体制の整備
職員がカスハラ被害を相談できる窓口を設ける。
具体的にやること:
- 施設内の相談担当者を指定する(管理者または人事担当)
- 相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないことを明文化する
- 外部相談窓口(社労士・弁護士・都道府県の相談窓口等)も案内する
データが示す、相談窓口の意味
相談窓口の設置は「義務だから作る」ものとして扱われがちだ。しかし調査データは、別の側面を示している。
介護労働安定センターの調査で、利用者からハラスメントを「受けた」割合を相談窓口の有無で分けると、いずれの職種でも窓口がない人のほうが高かった。
| 職種 | 相談窓口がある | 相談窓口はない |
|---|---|---|
| 訪問介護員 | 26.1% | 42.0% |
| サービス提供責任者 | 30.6% | 55.6% |
| 介護支援専門員 | 16.4% | 24.3% |
訪問介護員で約16ポイント、サービス提供責任者で25ポイントの差がある。
働きやすさについても同じ傾向が出ている。同調査では、相談窓口がある人のほうが「働きやすい」と答えた割合が高く、サービス提供責任者で相談窓口のない人は40.7%にとどまっていた。
ただし、これは相関であって因果関係が証明されたわけではない。窓口があるからハラスメントが減るのか、それとも雇用管理が行き届いている事業所がそもそも窓口を設けているのか、この調査からは判別できない。
それでも施設長が押さえるべきことは変わらない。相談窓口は届出のための書類ではなく、職員の就業環境と実際に相関している要素だということだ。
措置③:事後の迅速かつ適切な対応
告示は事後対応として、事実関係の迅速かつ正確な確認、被害を受けた労働者への配慮の措置、そして再発防止の措置という3つの動きを求めている。
具体的にやること:
- 被害を受けた職員のメンタルケア体制を整備する
- 事案ごとの記録・保存方法を定める
- 必要に応じて担当職員の変更・サービス提供継続の可否を判断する
- 職員向けのカスハラ対応研修を実施する(年1回以上推奨)
- 事案の記録を蓄積し、傾向を分析する
- 研修内容・対応マニュアルを定期的に見直す
記録が効く理由
同じ調査で、ハラスメントを受けた頻度をたずねた結果、「1人から何度も受けた」がすべての職種で最も多かった(訪問介護員51.1%、サービス提供責任者44.2%、介護支援専門員53.1%)。
カスハラは不特定多数から散発的に起きるのではなく、特定の相手が繰り返す形が主流だということだ。
だからこそ記録が効く。日時・言動の具体的な内容・対応した内容を蓄積すれば、「またあの人か」という現場の感覚が、組織として動くための根拠に変わる。1回の対応記録は使い道が少ないが、蓄積された記録は契約継続の判断材料にも、行政や警察への説明資料にもなる。
措置④:カスハラの抑止のための措置
告示は、「労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針」をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行える体制を整備することを求めている。
告示が挙げる対処の例は次のとおりだ。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する
- 行為者に対して警告文を発出する
- 法令の制限内において、行為者に対して商品の販売やサービスの提供をしない
- 行為者に対して施設への出入りを禁止する
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる
ただし告示は、この方針を検討するにあたって「各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに留意」するよう明記している。介護事業者にとっては、この一文が極めて重要になる。詳しくは後段で述べる。
カスハラが発生した場合に、誰が・どのように対応するかの手順を定める。
具体的にやること:
- カスハラ対応マニュアルを作成する
- 初期対応者(現場職員)→ 上長・管理者へのエスカレーションフローを明確にする
- 警察・法律相談への連絡基準を設ける
- サービス契約解除の手順(最終手段)を定める
措置⑤:併せて講ずべき措置(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)
告示は、①から④までの措置を講じるにあたって、併せて次の2つを講じなければならないと定めている。独立した義務であり、他の措置の付随事項ではない。
一つ目は、相談者等のプライバシーの保護だ。相談者の情報はプライバシーに属するものとして、相談対応と事後対応の両方で保護措置を講じ、その旨を職員に周知する必要がある。告示は、保護すべき情報に性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれると明記している。
二つ目は、不利益取扱いの禁止だ。カスハラについて相談したこと、事実確認に協力したこと、都道府県労働局に相談・紛争解決の援助の求め・調停の申請を行ったこと、調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を定め、職員に周知・啓発する。
具体的にやること:
- 相談者のプライバシー保護のために必要な事項をマニュアルに定める
- 相談窓口の担当者にプライバシー保護についての研修を行う
- 相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を、就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定する
- 上記を職員に周知する(掲示・研修・書面配布のいずれか)
小規模事業所での注意点
介護現場では、相談窓口が管理者本人であることが多い。規模が小さいほど「誰が相談したか」は特定されやすく、この措置の実効性が問われる。
告示は相談窓口について、外部の機関に相談への対応を委託することも認めている。外部相談窓口を併設し、職員が選べる状態にしておくことが実効性を高める。
告示のなかで、介護事業所が特に読むべき4か所
告示は全産業に共通する文書だが、介護事業所にとって読み落とせない記述が含まれている。ここを押さえておくかどうかで、実務の判断が変わる。
1. 「顧客等」に施設の利用者とその家族が明記されている
告示は「顧客等」の範囲を具体的に列挙しており、そのなかに「施設・サービスの利用者及びその家族」が明示されている。さらに「施設の近隣住民」も含まれる。
介護施設にとっては、利用者本人・家族・近隣住民のいずれもが対象になるということだ。「顧客」という言葉から連想される小売や飲食の話ではない。
また告示は、施設の利用者について「駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者」と定義し、今後利用する可能性のある者も含むとしている。入所前の見学者や問い合わせ段階の家族も範囲に入る。
2. サービス提供義務との衝突を、告示自身が認識している
これが介護事業所にとって最も重要な記述だ。
告示は措置の内容を定める柱書で、次のように述べている。各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して、適切に対応する必要がある、と。
介護保険法令上、事業者は正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない。一方で告示は、抑止のための措置としてサービスの提供をしないことや施設への出入り禁止を例示している。この二つは正面から衝突する。
告示はこの衝突を認識したうえで、抑止のための措置の方針を検討するにあたっては「各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに留意」するよう求めている。
つまり、他業種向けのカスハラ規程のひな型をそのまま流用すると、介護事業所では機能しない。「悪質な場合は出入り禁止」と書いても、介護保険法上の提供拒否の制限との整理ができていなければ、現場は動けない。
この論点は、2027年度介護報酬改定に向けた審議のなかで、運営基準としてどう整理されるかが焦点になる。現時点で確定した基準はない。当面は、契約解除や提供中止を検討する段階に至った時点で、指定権者や顧問弁護士に個別に相談する運用が現実的だ。
3. 障害特性・認知症症状との線引きに、告示の根拠がある
告示は、障害者から労働者に対して、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たらないと明記している。そのうえで、負担が過重でないときは合理的配慮を提供しなければならないことに留意が必要だとしている。
さらに措置の柱書でも、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務に留意し、内閣府が公開する障害特性に応じた事例等も参考にしながら、建設的対話を重ねて事案に応じて適切に対応する必要があると述べている。
介護現場で長年曖昧だった「認知症の症状による言動をどう扱うか」という問題に、告示は直接の答えを出していない。ただ、障害や特性に起因する意思表明そのものはカスハラではないという線は明示している。
現場の判断基準としては、行為の背景に疾患や障害があるかを確認したうえで、ケアとしての対応と、職員保護のための対応を切り分けることになる。両者は排他的ではない。背景を理解した対応を行いつつ、職員の安全確保のための措置を同時に講じることは矛盾しない。
4. 「継続的」でなくても、1回で該当し得る
告示は、就業環境が害されたかどうかの判断について、言動の頻度や継続性は考慮するとしながら、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は1回の言動でも就業環境を害する場合があり得ると明記している。
「何度も繰り返されたわけではないから様子を見よう」という判断は、告示の考え方とずれる。1回の暴力や重大な暴言は、それだけで対応の対象になる。
なお告示は「職場」の範囲について、労働者が業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外も含まれるとし、顧客の自宅等も該当するとしている。訪問系サービスの利用者宅は「職場」だ。
また、告示が定める対処の内容の例には「可能な限り労働者を一人で対応させないこと」が含まれている。訪問時の複数人対応が、告示の例示に沿った措置であることの根拠になる。
運営規程・重要事項説明書への記載
記載が必要な箇所
介護事業所の運営規程および重要事項説明書に、カスハラ対策に関する事業所の方針を記載することが求められる。
運営規程への追記例:
「利用者またはその家族等による、職員への暴言・暴力・威圧的言動・合理的理由のない要求など、社会通念上許容される範囲を超える行為(カスタマーハラスメント)については、職員の就業環境の確保を目的として、当法人は組織として対応する。悪質な場合はサービス提供の継続を中止することがある。」
重要事項説明書への追記例:
「当施設は、職員に対するカスタマーハラスメント防止のため、社内規程に基づき、毅然として対応します。暴言・暴力・威圧的言動・過度な要求等が認められた場合、改善を求めるとともに、状況によってはサービスの提供を継続できない場合があります。」
職員研修の実施
研修で伝えるべき内容
カスハラ義務化に対応した職員研修で最低限カバーすべき内容は以下だ。
- カスハラの定義と「正当な苦情」との違い
- 自施設のカスハラ対応方針・手順
- 初期対応の具体的な言い方・やり方
- 記録の残し方(日時・言動の具体的な内容・対応した内容)
- 相談窓口の場所と使い方
研修の方法
外部講師を招く必要はない。厚生労働省が公開している「管理者向け研修のための手引き」「職員向け研修のための手引き」を活用すれば、施設内で研修を実施できる。無料でダウンロード可能だ。
準備のための優先順位(施行前に推奨していた進め方)
以下は、施行前に推奨していた進め方です。まだ着手できていない項目がある場合は、上から順に進めてください。
| 優先順位 | やること |
|---|---|
| 1 | カスハラ対応方針を文書化する |
| 2 | 運営規程・重要事項説明書の改訂を完了する |
| 3 | 相談体制を整備し、対応マニュアルを完成させる |
| 4 | 職員研修を実施する |
| 5 | 利用者・家族への説明を行う |
着手が遅れている場合は、第1段階と第2段階を優先してください。方針の文書化と運営規程の改訂は、外部から確認できる最も基本的な措置です。職員研修は施行後の実施でも、記録が残っていれば「措置を講じている」という説明が可能です。
なお、運営規程を変更した場合、指定権者への変更届出が必要になることがあります。届出の要否と期限は自治体によって運用が異なるため、管轄の指定権者に必ず確認してください。
施設長の今すぐ確認リスト
- 自施設のカスハラ対応方針が文書化されているか確認した
- 運営規程にカスハラ対策の記載があるか確認した
- 重要事項説明書にカスハラ対策の記載があるか確認した
- カスハラ発生時の対処手順(マニュアル)が存在するか確認した
- 職員が相談できる窓口が設定されているか確認した
- 職員向けのカスハラ研修を実施する予定を立てた
- 利用者・家族への説明資料を準備した
【2026年10月 追記】施行後に確認すべき5つのこと
義務化が始まりました。ここからは「整えた仕組みが、実際に動くか」が問われます。施行後に確認しておきたい点を5つ挙げます。
1. 現場の職員が、相談窓口を知っているか
規程に相談窓口を書いても、職員が「誰に、どう言えばいいか」を知らなければ機能しません。朝礼やシフト表の掲示など、日常的に目に入る場所で繰り返し伝わっているかを確認してください。
相談したことで不利益な扱いを受けないことも、あわせて伝える必要があります。「相談したら、担当を外されるのではないか」と思われていれば、報告は上がってきません。
2. 「報告するほどではない」で終わっていないか
カスハラの判断で難しいのは、1回ごとの出来事が小さい場合です。暴言を1度言われた、強い口調で要求された。この程度では報告しない、という空気が残っていれば、記録は残りません。
記録が残らなければ、繰り返されていることにも気づけず、組織として対応する根拠も作れません。「判断は後でするので、まず記録してほしい」と伝えておくのが現実的です。
3. 認知症の症状による言動と、区別できているか
介護現場に特有の難しさがあります。認知症の症状や障害の特性による言動は、カスハラとして扱うものではありません。ここを区別せずに「カスハラだから毅然と対応する」と運用すると、ケアの質が下がります。
職員が迷ったときに、一人で判断せずに相談できる体制になっているかを確認してください。
4. 利用者・家族への説明が済んでいるか
重要事項説明書を改訂しても、すでに利用している方への説明が済んでいなければ、いざというときに「聞いていない」となります。新規の利用者だけでなく、既存の利用者・家族にどう伝えたかを確認しておきましょう。
5. 記録の様式が、現場で使えるものになっているか
カスハラの記録は、日時、相手、具体的な言動、対応した内容、対応者を残すのが基本です。ただ、書式が複雑すぎると、忙しい現場では書かれません。
最初はメモ程度でもよいので、「残すこと」を優先する運用にしておくと、記録が蓄積されます。蓄積された記録は、契約の見直しや警察への相談が必要になったときに、唯一の根拠になります。
違反した場合はどうなるか
労働施策総合推進法に基づく義務ですので、違反した場合は、厚生労働大臣による報告徴求、助言、指導、勧告の対象となります。勧告に従わない場合は、企業名が公表されることがあります。
ただし、施行直後にただちに処分が行われるというより、職員から労働局に相談が入ったときに、体制が整っているかを問われるという形が現実的です。「何かあったときに、説明できる状態にしておく」ことが実務上の備えになります。
この記事の出典
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策に関する法令・指針等」(労働施策総合推進法の改正、2026年10月1日施行)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html - 厚生労働省「介護現場における介護職員等に対するハラスメント対策」(研修の手引き等)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199640_00008.html - 厚生労働省「第263回社会保障審議会介護給付費分科会 資料5 介護現場におけるハラスメント対策」(令和8年8月28日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75439.html
※本記事は2026年10月時点の情報をもとにしています。介護保険の運営基準での位置付けは、今後の議論により変わる可能性があります。実際の対応にあたっては、都道府県労働局および指定権者(都道府県・市区町村)にご確認ください。
編集長より
介護現場の職員が「利用者だから」「家族だから」と我慢してきた言動に、制度として線が引かれました。
これは職員を守るための制度です。
ただ、制度ができても、施設長が動かなければ現場は変わりません。「うちはまだ大丈夫」「問題が起きてから考える」という発想では、職員は守れません。
まだ整っていない部分があっても、今から始めれば間に合います。まず「うちのカスハラ対応方針はどうなっているか」「職員は相談窓口を知っているか」を確認するところから始めてください。
この記事に関連する実務ガイド
- 介護事業所のカスハラ防止法対応【2026年施行・完全実装マニュアル】(規程ひな型・記録票・契約解除と警察連携の判断基準はこちら)
- 介護現場のハラスメント防止完全ガイド2026(パワハラ・セクハラを含むハラスメント全体の整理はこちら)
- 【2026年6月25日公布】改正介護保険法の全施行スケジュール完全整理