【2026年10月1日義務化】
介護事業所のカスハラ対策完全実装ガイド5つの柱・運営規程改訂・相談体制・職員研修まで残り64日で整える実務手順
2026年10月1日、労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策が全介護事業所に雇用管理上の措置義務として課されます。5つの措置義務・運営規程・重要事項説明書への記載・相談窓口設置・職員研修まで、残り64日で整える実務手順を施設長向けに完全解説します。

この記事でわかること
- 何が義務化されるのか(法律の根拠と対象事業所)
- カスハラの正確な定義と「正当な苦情」との違い
- 事業主に求められる5つの措置義務の具体的な内容
- 運営規程・重要事項説明書への記載が必要な箇所
- 相談窓口の設置と職員研修の実施方法
- 残り64日で整えるための優先順位と実務手順
はじめに:「利用者だから我慢する」が終わる日
介護現場では長年、利用者や家族からの暴言・暴力・過度な要求が「現場の我慢」として処理されてきた。
厚生労働省の調査(2018年度)によると、利用者から被害を受けた経験のある介護職員はサービス種別によって4〜7割、家族から被害を受けた経験がある職員は1〜3割にのぼる。
この現実に、2026年10月1日、制度として正式に向き合う転機が来る。
労働施策総合推進法の改正により、カスハラ対策が全ての事業主の雇用管理上の措置義務となる。この義務に違反した事業主は、報告徴求命令・助言・指導・勧告・公表の対象となる。
「利用者だから仕方ない」ではなく「事業所として毅然と対応できる根拠」が、制度として整備される。
残り64日。今すぐ準備を始めることで、職員を守り、施設の信頼を守ることができる。
何が義務化されるのか:法律の正確な理解
根拠となる法律
今回の義務化の根拠は2つの法律だ。
①労働施策総合推進法の改正(2026年10月1日施行)
全産業の事業主に対してカスハラ対策を「雇用管理上の措置義務」として課す。
②介護保険運営基準への位置付け(厚労省が検討中)
介護事業固有の運営基準にもカスハラ対策が組み込まれる方向で検討が進んでいる。つまり「労働法上の義務」と「介護法令上の義務」の二軸で対応が求められる。
対象となる事業所
規模も種別も問わず、すべての介護事業所が対象となる。
「うちは小規模だから」「個人経営だから」という例外はない。訪問介護・通所介護・特養・老健・グループホーム・居宅介護支援——全てのサービス種別が対象だ。
カスハラの正確な定義
厚生労働省の定義
厚生労働省はカスタマーハラスメントを以下のように定義している。
「顧客等の言動であって、社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」
この定義で重要なのは「社会通念上許容される範囲を超える」という部分だ。
利用者からの苦情のすべてがカスハラになるわけではなく、社会通念上許される範囲のものは「正当な申し入れ」であって、カスハラには当たらない——指針はそうはっきり書いている。
カスハラ・正当な苦情・グレーゾーンの見分け方
| 区分 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 正当な苦情 | ケアの内容・方法への具体的な意見 | 誠実に対応する |
| グレーゾーン | 感情的だが要求に合理性がある | 内容を整理して対応 |
| カスハラ | 暴言・威圧・繰り返しの長時間拘束・根拠のない要求 | 毅然と対応・記録を残す |
事業主に求められる5つの措置義務
厚生労働省の指針に基づき、事業主が講じなければならない措置は以下の5つだ。
措置①:カスハラ対応方針の策定と周知
「カスハラに対してどう対応するか」という事業所としての方針を明確にし、職員・利用者・家族に周知する。
具体的にやること:
- 「カスハラ対応方針」を文書化する
- 運営規程・重要事項説明書に記載する
- 利用者・家族への説明資料を作成し、入居・利用開始時に説明する
- 職員への周知(朝礼・会議・掲示板等)
文章例(方針):
「当施設は、職員がその能力を十分に発揮できるよう、利用者・家族等からの暴言・威圧的言動・合理的理由のない要求等のカスタマーハラスメントに対して、組織として毅然と対応します。」
措置②:カスハラ発生時の対処手順の整備
カスハラが発生した場合に、誰が・どのように対応するかの手順を定める。
具体的にやること:
- カスハラ対応マニュアルを作成する
- 初期対応者(現場職員)→ 上長・管理者へのエスカレーションフローを明確にする
- 警察・法律相談への連絡基準を設ける
- サービス契約解除の手順(最終手段)を定める
措置③:相談体制の整備
職員がカスハラ被害を相談できる窓口を設ける。
具体的にやること:
- 施設内の相談担当者を指定する(管理者または人事担当)
- 相談したことを理由に不利益な取り扱いをしないことを明文化する
- 外部相談窓口(社労士・弁護士・都道府県の相談窓口等)も案内する
措置④:発生後の適切な対応
カスハラが発生した後の対応体制を整える。
具体的にやること:
- 被害を受けた職員のメンタルケア体制を整備する
- 事案ごとの記録・保存方法を定める
- 必要に応じて担当職員の変更・サービス提供継続の可否を判断する
措置⑤:再発防止のための取り組み
事案の記録・振り返りを行い、再発を防ぐ体制を作る。
具体的にやること:
- 職員向けのカスハラ対応研修を実施する(年1回以上推奨)
- 事案の記録を蓄積し、傾向を分析する
- 研修内容・対応マニュアルを定期的に見直す
運営規程・重要事項説明書への記載
記載が必要な箇所
介護事業所の運営規程および重要事項説明書に、カスハラ対策に関する事業所の方針を記載することが求められる。
運営規程への追記例:
「利用者またはその家族等による、職員への暴言・暴力・威圧的言動・合理的理由のない要求など、社会通念上許容される範囲を超える行為(カスタマーハラスメント)については、職員の就業環境の確保を目的として、当法人は組織として対応する。悪質な場合はサービス提供の継続を中止することがある。」
重要事項説明書への追記例:
「当施設は、職員に対するカスタマーハラスメント防止のため、社内規程に基づき、毅然として対応します。暴言・暴力・威圧的言動・過度な要求等が認められた場合、改善を求めるとともに、状況によってはサービスの提供を継続できない場合があります。」
職員研修の実施
研修で伝えるべき内容
カスハラ義務化に対応した職員研修で最低限カバーすべき内容は以下だ。
- カスハラの定義と「正当な苦情」との違い
- 自施設のカスハラ対応方針・手順
- 初期対応の具体的な言い方・やり方
- 記録の残し方(日時・言動の具体的な内容・対応した内容)
- 相談窓口の場所と使い方
研修の方法
外部講師を招く必要はない。厚生労働省が公開している「管理者向け研修のための手引き」「職員向け研修のための手引き」を活用すれば、施設内で研修を実施できる。無料でダウンロード可能だ。
残り64日で整えるための優先順位
| 時期 | やること |
|---|---|
| 今週中 | カスハラ対応方針の草案を作成する |
| 8月中 | 運営規程・重要事項説明書の改訂を完了する |
| 9月中 | 職員研修を実施する |
| 9月末まで | 相談体制の整備・マニュアル完成・利用者家族への説明 |
| 10月1日 | 義務化施行日 |
施設長の今すぐ確認リスト
- 自施設のカスハラ対応方針が文書化されているか確認した
- 運営規程にカスハラ対策の記載があるか確認した
- 重要事項説明書にカスハラ対策の記載があるか確認した
- カスハラ発生時の対処手順(マニュアル)が存在するか確認した
- 職員が相談できる窓口が設定されているか確認した
- 職員向けのカスハラ研修を実施する予定を立てた
- 利用者・家族への説明資料を準備した
編集長・深瀬久博からひとこと
介護現場の職員が「利用者だから」「家族だから」と我慢してきた言動に、制度として線が引かれる。
これは職員を守るための制度だ。
しかし制度ができても、施設長が動かなければ現場は変わらない。「うちはまだ大丈夫」「問題が起きてから考える」という発想では、職員は守れない。
10月1日まで64日。今週から動けば、全ての対応を余裕を持って完了できる。
まず今週、「うちのカスハラ対応方針はどうなっているか」を確認するところから始めてほしい。