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    経営・労務・制度対応 2026.07.30 約14分で読了

    【2026年7月28日答申】最低賃金+55円で介護施設の人件費はどう動くか
    賃金圧縮・10月ダブル負担・業務改善助成金9月申請までの実務手順

    2026年7月28日、中央最低賃金審議会が令和8年度の目安を答申。全国加重平均1,176円(+55円)。報酬が動かない介護施設で、この55円は何を壊すのか。影響人数の棚卸しから賃金表の再設計、業務改善助成金の申請期限まで、8月中に終える実務を整理します。

    人件費の試算をする介護施設の管理者
    深瀬久博
    執筆・監修
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    やっと処遇改善加算の実績報告を出し終えた矢先に、次の数字が降ってきました。

    2026年7月28日、中央最低賃金審議会が令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました。引上げ額の目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円。目安どおりなら全国加重平均は1,176円(上昇額55円、引上げ率4.9%)です。

    多くの解説記事は「過去最大だった前年度を下回った」「伸びが鈍化した」と報じています。ただ、介護施設の経営者にとって、その言い方はほとんど意味を持ちません。報酬が動かない業種では、上げ幅が55円でも66円でも、原資がないという事実は変わらないからです。

    この記事では、答申の数字を確認したうえで、施設長が8月中に終えるべき実務を4ステップで整理します。あわせて、9月1日に申請受付が始まる業務改善助成金の使い方も扱います。

    本記事の前提本記事の数値は、厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)および同省「業務改善助成金」制度概要を基にしています。
    都道府県別の金額と発効日は、本記事の執筆時点でまだ確定していません。 目安を受けて各地方最低賃金審議会が審議し、異議申出の手続きを経て、都道府県労働局長が決定します。確定額は必ずお住まいの都道府県労働局の公表で確認してください。

    01 答申で示された数字

    ランク別の目安額

    ランク対象引上げ額の目安
    Aランク埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪(6都府県)+54円
    Bランク28道府県+56円
    Cランク13県+56円

    全国加重平均は1,121円から 1,176円 へ、+55円・+4.9%です。

    注目すべきは、AランクよりB・Cランクが2円高いことです。 前年度はA〜Cランクとも同額の63円で地域差をつけていませんでしたが、今回あえてAを2円低くしたのは、骨太方針2026が地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げると明記したことを反映したものとみられます。

    つまり、地方の施設ほど引上げ幅が大きいということです。都市部より地方の方が負担が軽い、という従来の前提は崩れています。

    前年度との比較

    引き上げ額は過去最大だった前年度の目安(63円)を下回りました。物価上昇率が昨年同時期よりも鈍化していることなどが踏まえられています。

    ここで注意が必要です。目安は上限ではありません。 前年度は目安63円に対し、地方審議会が相次いで目安を上回る答申を出し、最終的に全国加重平均は66円・1,121円で着地しました。今年も目安を超える県が出る可能性は十分にあります。

    発効日が読めない

    前年度から、発効日の様相が変わりました。例年は10月1日前後に一斉発効でしたが、前年度は東京の10月3日を皮切りに発効を遅らせる県が続出し、最も遅い県は翌年3月末の発効となりました。引上げ額を大きくする代わりに企業の準備期間を確保する、という地方審議会の調整の結果です。

    自県の発効日は8月下旬〜9月にかけて順次判明します。 この日付が、後述する助成金の申請期限に直結します。

    02 なぜ介護施設で、この55円が重いのか

    一般企業なら、人件費の上昇は商品・サービス価格への転嫁で吸収する選択肢があります。介護にはそれがありません。理由は3つです。

    理由① 価格が公定されている

    介護報酬は公定価格です。人件費が上がっても、単価を上げることはできません。そして 次の本格的な介護報酬改定は令和9年度(2027年度) です。2026年6月に臨時改定が入りましたが、それは処遇改善加算の再編が中心でした。

    つまり、最低賃金は毎年上がるのに、収入の基礎単価は3年に1度しか動かないという構造的なズレの中にいます。

    理由② 費用の6割以上が人件費

    厚生労働省「介護事業経営実態調査」では、施設サービスの収入に対する給与費の割合はいずれも60%を超えています。費用の6割が人件費という構造では、賃金の1%上昇はほぼそのまま利益率を削ります。

    仮に年間収入3億円・給与費比率62%の特養を想定します。パート職員20名の時給を平均55円引き上げた場合、1人あたり年間1,000時間勤務として、

    試算55円 × 1,000時間 × 20名 = 年間110万円

    さらに社会保険料の事業主負担(概ね15%前後)が乗るため、実質の増加は 年間125万円前後 になります。加えて、後述する賃金カーブの是正を行えば、この数倍に膨らみます。

    理由③ 10月に社会保険適用拡大が重なる

    2026年10月には、介護・障害福祉施設を含む社会保険の適用拡大が施行されます。最低賃金の発効と、社会保険料の事業主負担増が、同じ月に重なります。

    この2つを別々に試算している施設が多いのですが、資金繰りへの影響は合算で見なければ意味がありません。社会保険適用拡大の詳細は【2026年10月施行】介護・障害福祉施設の社会保険適用拡大で扱っています。

    03 本当の問題は「賃金圧縮」です

    ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。

    最低賃金の引上げで直接影響を受けるのは、最賃近傍で働くパート職員です。多くの施設で、それは新人・短時間勤務者・無資格者に集中しています。

    一方、中堅職員や有資格者の賃金は、報酬が動かないので据え置かれます。

    その結果、何が起きるか。

    賃金差が消えます

    職員現在の時給改定後(+56円)
    入職1年目・無資格パート1,120円1,176円
    勤続5年・介護福祉士パート1,200円1,200円(据え置き)24円

    勤続5年で資格を取った職員と、入りたての無資格職員の時給差が、24円になります。 時給差1%未満です。

    これを本人はどう受け取るか。「5年やって、資格も取って、この差か」です。

    これは制度の問題ではなく、放置の問題です

    賃金圧縮そのものは、最低賃金制度が持つ構造的な副作用で、避けられません。避けられないのは、放置した場合に起きることです。

    離職理由の調査で常に上位に来るのは、賃金額そのものより「評価の不透明さ」「不公平感」です。介護労働安定センターの調査でも、収入の低さは離職理由の1位ではありません。辞める理由は「安いこと」ではなく「納得できないこと」です。

    最低賃金の改定は、その納得を静かに壊します。しかも壊れたことは、施設長には見えません。誰も「時給差が24円になったので辞めます」とは言わないからです。

    だから、賃金表を触るタイミングになります

    逆に言えば、このタイミングは賃金体系を見直す正当な理由が立つ数年に一度の機会です。「最低賃金が上がったので、あわせて全体の等級と時給表を再設計します」という説明は、職員にとって最も納得しやすい形の一つです。

    何もしなければ不公平感が残り、手を入れれば納得が生まれる。同じ55円が、真逆の結果を生みます。

    04 施設長が8月中に終える4ステップ

    ステップ1:影響人数と必要額の棚卸し(所要2時間)

    まず、自施設の「事業場内最低賃金」を確定させます。 これは事業場で最も低い時間給の職員の額です。月給者も時間換算して確認します。

    確認項目記録すること
    事業場内最低賃金最も低い職員の時間換算額
    改定後の地域別最低賃金を下回る職員人数・氏名・現在の時給・不足額
    ボーダー付近(+50円以内)の職員人数(次年度に影響する層)

    注意点: 時間換算の際、対象に入らない手当があります。精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与などは、最低賃金の計算に含めません。これを含めて「うちは足りている」と判断すると、違反になります。

    ステップ2:合算での資金インパクト試算(所要2時間)

    10月に重なるものを、1枚にまとめます。

    項目年間増加額
    最低賃金対応(直接影響者)____円
    賃金カーブ是正(中堅層への波及)____円
    上記に伴う社会保険料の事業主負担増____円
    社会保険適用拡大による負担増____円
    合計____円

    3行目を忘れる施設が多いのですが、賃上げ額に対して概ね15%が社会保険料の事業主負担として上乗せされます。この一覧は、金融機関との資金繰り相談でもそのまま使えます。

    ステップ3:賃金表を「最低賃金連動型」に組み替える(所要1日)

    毎年、下回る職員だけを個別に直す運用をやめます。等級ごとの下限額を、地域別最低賃金からの加算額で定義します。

    等級時給の下限(設計例)
    1等級(無資格・入職時)地域別最低賃金 + 0円
    2等級(初任者研修修了)最低賃金 + 30円
    3等級(介護福祉士)最低賃金 + 80円
    4等級(リーダー・プリセプター)最低賃金 + 150円

    ※金額は例です。自施設の原資と現在の分布に合わせて設定してください。

    この形にすれば、最低賃金が上がっても等級差は自動的に維持されます。 毎年の作業が「最低賃金の額を1箇所書き換える」だけになります。

    等級と評価の設計そのものは介護事業の人事評価・キャリアパス制度構築ガイド、原資の作り方は処遇改善加算の「配分ルール」設計ガイドで扱っています。

    ステップ4:職員への説明(発効日の1か月前まで)

    賃金表を変えたら、必ず全員に説明します。個別通知だけで済ませないでください。「なぜ全体を見直したのか」を伝えないと、上がらなかった層に不満だけが残ります。

    • 最低賃金が改定されたこと(外部要因であること)
    • 下限だけでなく、等級全体を見直したこと
    • 今後は毎年、この表で連動させること

    05 業務改善助成金:今年は9月1日開始です

    最低賃金対応と設備投資を同時に行う場合、業務改善助成金が使えます。ただし令和8年度は制度が変わっており、例年のつもりで動くと申請期間を逃します。

    令和8年度の変更点

    項目内容
    申請受付開始9月1日(例年より後ろ倒し。4〜8月は原則申請不可)
    締切地域別最低賃金の発効日前日、または11月末の早い方
    コース30円コース廃止。50円・70円・90円の3コースに再編
    助成率事業場内最低賃金1,050円未満:4/5 / 1,050円以上:3/4
    上限最大600万円

    締切の設計に注意してください。 「発効日前日または11月末の早い方」です。発効日が10月上旬の県では、実質的な申請可能期間が1か月程度しかありません。

    特例事業者に該当するか

    以下のいずれかに該当する場合、助成上限が拡大され、通常は対象外のパソコン・タブレット等も対象になります。

    • 事業場内最低賃金が1,050円未満
    • 物価高騰等により 利益率が前年同期比で3ポイント以上低下 している

    介護施設の多くは前者に該当します。後者も、光熱費と食材費の上昇で該当する施設が相当数あるはずです。該当するかどうかを、8月中に決算数値で確認してください。

    介護施設で対象になりやすい投資

    • 介護記録ソフト・音声入力システム
    • シフト作成システム
    • 見守りセンサー・インカム
    • 業務用洗濯機・厨房機器などの省力化設備

    介護テクノロジー導入支援事業などの他制度と目的が重なる場合、二重取りはできません。 どちらが有利かの比較は、介護事業者のための補助金・助成金完全ガイドで扱っています。

    06 8月から10月までのスケジュール

    時期やること担当
    7月末〜8月上旬事業場内最低賃金の確定・影響人数の棚卸し事務・管理者
    8月上旬10月合算での資金インパクト試算経営者・事務
    8月中旬賃金表(等級別下限)の再設計経営者・管理者
    8月中旬特例事業者に該当するか決算数値で確認経営者・事務
    8月下旬導入する設備の選定・見積取得管理者
    8月下旬〜9月自県の確定額と発効日を労働局公表で確認事務
    9月1日業務改善助成金の交付申請(早期申請が有利)経営者・事務
    発効日1か月前全職員への説明・就業規則および賃金規程の改定管理者
    発効日新賃金の適用開始事務

    太字の行が最重要です。確定額と発効日が分からなければ、助成金の申請期限も、賃金改定の実施日も決まりません。

    07 参考資料

    • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)
    • 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
    • 厚生労働省「業務改善助成金」
    • 厚生労働省「介護事業経営実態調査」
    編集長メッセージ最低賃金の通知が届いたとき、私が施設長として最初にやっていたのは、下回る職員だけを探して個別に直すことでした。毎年それを繰り返し、そのたびに賃金表の中で差が縮んでいくことに、正直気づいていませんでした。

    気づいたのは、勤続7年の職員から「新しく入った子と、いくら違うんですか」と聞かれたときです。答えられませんでした。差は、ほとんどありませんでした。

    55円は、コストとして見れば重い数字です。ただ、賃金表を作り直す理由としては、これ以上のものはありません。今年は下限を直すだけでなく、上も一緒に動かしてみてください。

    情熱介護 編集長 深瀬 久博

    賃金表の再設計や助成金活用について、編集部へのご相談を受け付けています。

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    最終更新:2026年7月30日 / 情熱介護編集部