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    制度・処遇改善 2026.06.14 約13分で読了

    処遇改善加算の「配分ルール」設計ガイド
    【2026年版】
    ――重点配分・フラット配分・年収440万円要件の正しい理解と施設長が今月決めるべき配分方針の作り方

    2026年6月改定で処遇改善加算の原資が増えた一方、「誰にいくら配るか」で悩む施設長が増えています。国が定めているルールと事業所の裁量、年収440万円要件の正確な意味、重点配分とフラット配分の特徴、職員トラブルを防ぐ伝え方まで——今月中に方針を決めるための実務ガイドです。

    処遇改善加算の配分ルールを検討する施設長のイメージ
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長より配分ルールに「絶対の正解」はありません。ベテラン重点も均等配分も、施設の方針と整合していれば正解です。大切なのは「なぜそのルールにしたか」を職員に説明できること——この一点に尽きます。

    この記事でわかること

    • 処遇改善加算の配分ルールで国が定めていること・いないこと
    • 「重点配分」と「フラット配分」それぞれのメリット・デメリット
    • 年収440万円要件の正確な意味と弾力運用の内容
    • 2026年6月改定で対象が「介護職員」から「介護従事者」に拡大された意味
    • 配分ルールをめぐる職員トラブルを防ぐための伝え方
    • 今月中に施設長がやるべき配分方針の決め方

    はじめに:「誰にいくら配れば正解か」で悩んでいる施設長へ

    2026年6月の改定で処遇改善加算の原資が増えた。

    職員への賃上げが実現する一方で、施設長が頭を抱えているのが「誰にいくら配るか」という配分ルールの問題だ。

    「ベテランに厚く配ると新人が不満を持つ」「均等に配ると加算Ⅰの要件を満たせなくなるかもしれない」「ケアマネや看護師も対象になったが、どう扱えばいいか」——この悩みは全国の施設長が共通して持っている。

    この記事では、国が定めていること・いないことを正確に整理した上で、現場で機能する配分ルールの設計手順を解説する。

    配分ルールに「正解」はない。
    あるのは「説明できる方針」だけだ。

    まず「国が定めていること」を正確に理解する

    配分ルールで迷う理由の多くは、「国のルール」と「事業所の裁量」の境界線が曖昧になっているためだ。

    国が定めている配分の原則

    厚生労働省が示している配分の原則は次の通りだ。

    「介護従事者への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分することとするが、事業所内で柔軟な配分を認める」

    これがすべての基本だ。ここから読み取れることは3点だ。

    • 配分対象は「介護従事者」(2026年6月改定で介護職員から拡大)
    • 経験・技能のある職員に重点配分することが基本
    • ただし事業所内の柔軟な配分を認める

    つまり「全員均等」でも「ベテラン集中」でも、事業所の判断として認められる。国が禁止しているのは「配分しないこと」と「介護従事者以外への流用」だ。

    2026年6月から「介護従事者」に拡大された意味

    今回の改定で最も重要な変化のひとつが、配分対象の拡大だ。

    区分配分対象
    改定前介護職員(ヘルパー・介護福祉士等)が主な対象
    改定後介護従事者全体(ケアマネ・看護師・リハビリ職・事務職等も含む)

    ただし「介護従事者以外への配分は事業所の判断」であり、義務ではない。看護師やケアマネへ配分するかどうかは、各事業所が判断できる。

    2つの配分パターンとそれぞれの特徴

    現場で使われている配分パターンは大きく2つに分類できる。

    パターン①:重点配分(経験・技能優遇型)

    経験年数・資格・役職に応じて配分額に差をつける方式だ。

    主なメリット:

    • キャリアアップへの動機づけになる
    • 加算Ⅰ上位区分の要件である「経験・技能職員への重点配分」を自然に満たせる
    • ベテラン職員の定着率向上につながりやすい

    主なデメリット:

    • 新人・若手職員の不満が出やすい
    • 配分基準が複雑になり、説明に時間がかかる
    • 「なぜ自分は少ないのか」という個別相談が増える

    設計例:

    職員区分月額配分目安
    介護福祉士10年以上・リーダー職+20,000円
    介護福祉士5〜10年+15,000円
    介護福祉士5年未満+10,000円
    無資格・パート職員+5,000円

    ※あくまで設計例。加算原資の総額に応じて調整が必要だ。

    パターン②:フラット配分(均等型)

    職種・経験年数にかかわらず、全員に均等に配分する方式だ。

    主なメリット:

    • 説明がシンプルで職員の理解を得やすい
    • チームワーク重視の施設文化と合いやすい
    • 個別対応の手間が少ない

    主なデメリット:

    • ベテラン職員の「頑張っても同じ」という不満が出やすい
    • 上位加算区分(加算Ⅰ)の要件である「重点配分」を形式的に満たすための工夫が必要
    • キャリアアップへの動機づけが弱くなりやすい

    実務上の注意点:完全均等配分でも、加算の算定は可能だ。ただし加算Ⅰを取得している事業所では、「経験・技能のある職員への重点配分」という趣旨と整合するよう、配分ルールの説明を丁寧に行う必要がある。

    年収440万円要件の正確な意味

    加算Ⅱ以上を算定する事業所が特に注意すべきなのが、キャリアパス要件Ⅳだ。

    要件の正確な内容

    「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金が年額440万円以上であること」

    この要件について、正確に理解すべきポイントが4つある。

    ①「介護福祉士」でなくてもよい:経験・技能のある介護職員は、介護福祉士の資格を持っていなくてもよい。能力評価等に基づき柔軟に設定できる。

    ②勤続年数は他法人の経験を通算できる:自施設での勤続年数だけでなく、他の介護事業所での経験も通算して判断できる。10年未満でも要件を満たすことが可能だ。

    ③法人単位申請の場合は1人以上でよい:複数事業所を一括申請する法人の場合、申請する事業所の数以上の対象職員がいれば足りる。事業所ごとに1人ずつ配置する必要はない。

    ④440万円にはどこまで含まれるか:440万円の判断には、基本給・手当・賞与等が含まれる。ただし社会保険料の事業主負担分は含めない。

    2026年度の弾力運用

    2026年度においては、申請時点で440万円要件を満たせない事業所も、「2027年3月末までに達成することを誓約」することで、申請時点から要件を満たしているものとして扱われる。

    この弾力運用を活用すれば、段階的に賃金水準を引き上げながら上位加算を算定できる。

    配分ルールをめぐる職員トラブルを防ぐ

    配分ルールで最も多いトラブルは「なぜ自分はこの金額なのか」という不満だ。これを防ぐための3つのポイントを押さえてほしい。

    ポイント①:処遇改善計画書を職員に開示する

    処遇改善計画書は、職員への周知が義務付けられている。「どのようなルールで配分するか」を事前に明示することで、後からの不満を防げる。

    ポイント②:配分ルールの「なぜ」を説明する

    「ベテランに厚く配分する理由」「均等配分にした理由」を、施設の経営方針と紐付けて説明する。「国のルールだから」ではなく、「この施設がどんなキャリアを評価するか」という視点で伝えることが重要だ。

    ポイント③:1回限りにせず、毎年見直す姿勢を示す

    配分ルールは固定ではなく、毎年見直す仕組みにする。「今年はこうだが、来年は状況に応じて変える」という姿勢を示すことで、職員の納得感が高まる。

    今月中に施設長がやるべき配分方針の決め方

    以下の手順で、今月中に配分方針を決定してほしい。

    STEP 1:今月の処遇改善加算の総原資を試算する

    加算率×報酬請求額で概算できる。経理担当または介護ソフトで確認する。

    STEP 2:対象職員を一覧化する

    正職員・パート・各職種を一覧にし、配分対象者を確定させる。

    STEP 3:配分パターンを選択する

    重点配分かフラット配分か、またはその組み合わせかを決定する。施設の人材戦略・文化に合ったパターンを選ぶ。

    STEP 4:一人あたりの配分額を試算する

    総原資を対象職員数・配分比率で割り、現実的な配分額を試算する。

    STEP 5:処遇改善計画書に反映し、職員に周知する

    計画書の配分ルール欄に記載し、職員向けの説明資料を作成する。

    施設長の今月確認リスト

    • 2026年6月以降の処遇改善加算の総原資を試算した
    • 配分対象となる介護従事者を一覧化した
    • ケアマネ・看護師・リハビリ職への配分方針を決めた
    • 重点配分かフラット配分か方針を決定した
    • 年収440万円要件の対象職員を特定した
    • 弾力運用(誓約)を活用するか判断した
    • 処遇改善計画書の配分ルール欄を更新した
    • 職員への周知資料を作成した

    編集長・深瀬久博からひとこと

    配分ルールに「正解」はない。

    ベテランを厚遇して離職を防ぐことも正しいし、全員に均等配分してチームの一体感を作ることも正しい。

    施設長が決めるべきなのは「どんな施設を作りたいか」という方針だ。その方針と配分ルールが整合していれば、職員は納得する。

    ルールよりも「なぜそのルールにしたか」を丁寧に説明できる施設長は、職員から信頼される。

    今月、配分ルールを決め、職員に伝えてほしい。それだけで、来月の現場の空気は変わる。

    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師