生産性向上推進体制加算の取り方
【2026年版】
――処遇改善加算Ⅰロへの近道・委員会設置・ICT導入・申請手順を施設長向けに完全解説
2024年度改定で新設された生産性向上推進体制加算。「ICTを入れればいい」という誤解が広がっていますが、委員会での検討・機器の活用・厚労省への実績報告がそろって初めて要件を満たします。正しく取り組めば、この加算は処遇改善加算Ⅰロ(職員1人月7,000円上乗せ)への近道にもなります。

この記事でわかること
- 生産性向上推進体制加算とは何か、なぜ今重要なのか
- 加算ⅠとⅡの違いと、どちらから取得すべきか
- 委員会設置・ICT導入・効果測定の具体的な手順
- 処遇改善加算Ⅰロとの関係と取得によるメリット
- よくある失敗パターンと防ぎ方
- 今週施設長がやるべき確認事項
はじめに:ICTを入れるだけでは加算が取れない時代になった
2024年度の介護報酬改定で新設された「生産性向上推進体制加算」。「ICTを入れればいい」という誤解が現場に広がっているが、それだけでは要件を満たせません。
委員会での検討(3か月に1回以上の開催)、介護機器の活用、そして厚労省への実績報告——これらが揃って初めて要件を満たします。正しく取り組めば、この加算は処遇改善加算Ⅰロへの近道にもなります。
令和8年度介護報酬改定(期中改定)では、処遇改善加算の上位区分(ロ区分)を取得するための要件に生産性向上推進体制加算が組み込まれました。つまり、生産性向上推進体制加算は賃上げにも直結する、すべての介護施設にとって見逃せない加算です。
ICTを入れるだけでは、
加算は1円も入らない。
生産性向上推進体制加算とは何か
国が「ICT化を評価する」仕組み
生産性向上推進体制加算とは、介護ロボットやICT等のテクノロジーを活用し、介護サービスの質を保ちながら職員の負担軽減を図る取り組みを評価する加算です。
単に機器を導入するだけでなく、組織として継続的に改善に取り組む仕組みを作ることが加算の本質です。
加算ⅠとⅡの違い
加算(Ⅰ)と加算(Ⅱ)は同時に算定できません。まずは要件の軽い加算(Ⅱ)から取得し、取り組みを3か月以上継続したうえで加算(Ⅰ)へ移行するのが基本の流れです。
ただし、加算(Ⅰ)の要件を満たすことが確認できる場合は、加算(Ⅱ)を算定していなくても、加算(Ⅰ)から算定を始めることもできます。
| 項目 | 加算(Ⅱ) | 加算(Ⅰ) |
|---|---|---|
| 単位数 | 10単位/月(利用者1人あたり) | 100単位/月(利用者1人あたり) |
| 委員会での検討 | 4項目を検討し、実施を定期的に確認 | 4項目に加えて「職員の業務分担の明確化等」も検討 |
| 介護機器 | 3種類のうち1種類以上を活用 | 3種類すべてを活用(見守り機器は全居室、インカム等は同じ時間帯に勤務する全介護職員) |
| 厚労省への実績報告 | 年1回(利用者の満足度/総業務時間・超過勤務/有給取得状況) | 年1回(左記に加えて、職員の心理的負担/機器導入による業務時間の分析) |
| 成果の確認 | 不要 | 必要(3か月以上の継続と、導入前後の比較) |
実際にいくら増えるのか
単位数は、利用者1人あたり・1か月あたりです。1単位の金額は地域によって異なりますが、おおよそ10円から11円程度です。
定員50人の施設で、全員が対象になる場合の目安は次のとおりです。
| 区分 | 1人あたり月額 | 定員50人の場合の月額 | 年額 |
|---|---|---|---|
| 加算(Ⅱ)10単位 | 約100円 | 約5,000円 | 約6万円 |
| 加算(Ⅰ)100単位 | 約1,000円 | 約5万円 | 約60万円 |
加算(Ⅱ)だけでは、金額としては大きくありません。それでも取得する意味があるのは、処遇改善加算Ⅰロの要件になっているからです。この点は、記事の後半で説明します。
対象となるサービス
特養・老健・通所介護・訪問介護・グループホームなど、多くのサービス種別が対象です。対象外のサービスもあるため、自法人のサービス種別を必ず確認してください。
取得に必要な3つの柱
柱①:生産性向上推進委員会の設置と運営
委員会を設置し、議事録を残します。開催は3か月に1回以上です。月1回の開催は求められていません。
委員会は、管理者だけでなく、ケアを行う職員やユニットリーダー等を含む幅広い職種で構成します。テレビ電話等を使った開催も認められています。
委員会で検討し、実施を定期的に確認する項目は、次の4つです。
- 介護機器を活用する場合の、利用者の安全とケアの質の確保
- 職員の負担の軽減と、勤務状況への配慮(休憩時間の確保など)
- 介護機器の定期的な点検(不具合のチェック、メーカーとの連携)
- 業務の効率化・ケアの質の確保・職員の負担軽減のための職員研修
加算(Ⅰ)を算定する場合は、これに加えて「職員の業務分担の明確化等」についても検討します。
よくある失敗:委員会を設置したものの、形式的な開催だけで議事録が残っていない。加算の届出には、要件を満たすことが分かる委員会の議事概要を提出する必要があります。また、指定権者から求めがあった場合は、根拠書類をすみやかに提出しなければなりません。議事録は必ず作成・保存してください。
柱②:ICT機器の導入と活用
対象になる介護機器は、次の3種類と決まっています。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| ① 見守り機器 | 利用者がベッドから離れようとしている状態、または離れたことを感知し、職員に通報できる機器 |
| ② インカム等 | 職員間の連絡調整を速くするICT機器。ビジネス用のチャットツールも含まれます |
| ③ 介護記録ソフト等 | 介護記録の作成を効率化するICT機器。データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するもの |
加算(Ⅱ)は、このうち1種類以上を活用すれば要件を満たします。ただし、②インカム等を選ぶ場合は、同じ時間帯に勤務する全ての介護職員が使用する必要があります。
加算(Ⅰ)は、3種類すべてが必要です。さらに、①見守り機器は全ての居室に設置し(全ての利用者を個別に見守れる状態)、②インカム等は同じ時間帯に勤務する全ての介護職員が使用することが求められます。
なお、見守り機器を居室に設置する際は、利用者のプライバシーに配慮する観点から、利用者または家族に説明して同意を得る必要があります。本人や家族の意向で、機器の使用を停止する運用も認められています。
機器を選ぶときは、先に自施設の課題を洗い出すことが求められています。国の通知でも、現状の把握と課題の洗い出しを行い、業務内容を整理したうえで、職員それぞれが担う業務と機器の活用方法を明確にしてから、必要な機器を選ぶこととされています。
機器ありきで選ぶと、導入しても使われないまま終わります。
柱③:効果測定と厚労省への実績報告
加算(Ⅰ)(Ⅱ)のどちらを算定する場合も、事業年度ごとに、取組の実績を厚生労働省に報告する必要があります。
報告する項目は、区分によって異なります。
| 報告項目 | 加算(Ⅱ) | 加算(Ⅰ) |
|---|---|---|
| 利用者の満足度等 | 必要 | 必要 |
| 総業務時間と超過勤務時間 | 必要 | 必要 |
| 年次有給休暇の取得状況 | 必要 | 必要 |
| 職員の心理的負担 | 不要 | 必要 |
| 機器導入等による業務時間の分析 | 不要 | 必要 |
加算(Ⅰ)を算定するには、このうち上の3項目について、機器の導入前後を比べて次の成果が確認できることが必要です。
- 利用者の満足度等が、悪化していないこと
- 総業務時間と超過勤務時間が、短縮していること
- 年次有給休暇の取得状況が、維持または増加していること
比較には、導入前の調査(事前調査)と、取組を3か月以上続けた後の調査(事後調査)が必要です。導入前のデータがない場合の取り扱いは、国のQ&Aで示されています。
外部専門家の関与は、要件ではありません
「外部の専門家に年1回以上みてもらわないと加算が取れない」と説明されることがありますが、これは加算の要件ではありません。
国の解釈通知では、委員会について「生産性向上の取組に関する外部の専門家を活用することも差し支えない」とされているだけです。活用してもよい、という書き方であって、義務ではありません。
ただし、自施設だけで進めるのが難しい場合、外部の力を借りる選択肢はあります。費用をかけずに使えるものとして、各都道府県の「介護生産性向上総合相談センター」があります。相談も専門家の派遣も無料です。
申請の流れ
STEP 1:自施設のサービス種別が対象か確認する
まず、自法人で運営している全サービス種別が加算対象となるかを確認します。
STEP 2:委員会を設置し、規程・議事録様式を整備する
委員会の設置を決定し、委員会規程(誰が委員か・開催頻度・議事録の管理方法等)を文書化します。
STEP 3:ICT機器を導入・活用し始める
現場の課題に合った機器を選定し、実際に業務で使い始めます。
STEP 4:体制届を提出する
管轄の介護保険担当窓口(市区町村または都道府県)に体制届を提出します。届出月の翌月から算定開始となります。早く届出を出すほど、早く加算が入ってきます。
処遇改善加算Ⅰロとの関係
今回の2026年6月改定で新設された処遇改善加算Ⅰロ(月7,000円上乗せ)の取得要件には、以下のいずれかが必要です。
- 生産性向上推進体制加算の取得(この記事のテーマ)
- ケアプランデータ連携システムへの加入・利用
- 社会福祉連携推進法人への所属
つまり、生産性向上推進体制加算を取得することで、処遇改善加算Ⅰロへの道が開けるということです。
職員の賃上げ財源を確保しながら、現場の業務効率も改善できる——これが今最も費用対効果の高い加算取得の戦略です。
2027年4月から、委員会の設置は「義務」になります
ここまで加算の話をしてきましたが、委員会の設置そのものは、加算とは別に義務化されます。
2024年度の改定で、短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスに、委員会の設置が義務付けられました。ただし3年間の経過措置があり、2027年3月31日までは努力義務とされています。つまり、2027年4月1日からは義務になります。
つまり、こういうことです。
| 時期 | 委員会の位置づけ |
|---|---|
| 2026年度まで | 努力義務(設置していなくても、ただちに違反ではない) |
| 2027年4月から | 義務(設置していなければ運営基準違反) |
どのみち委員会は作らなければなりません。であれば、作った委員会で加算の要件も満たしたほうが合理的です。
委員会の運営について詳しくは、こちらの記事で解説しています。
生産性向上委員会、2027年4月から義務化|「忙しくて開けない」施設が、負担を増やさずに始める方法
加算(Ⅰ)を取れている施設は、ごく一部です
2026年8月28日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、この加算の算定状況が報告されました。
特別養護老人ホームでは、加算(Ⅱ)を算定している施設が50.3%あるのに対し、加算(Ⅰ)はわずか4.3%です。認知症グループホームでは、加算(Ⅰ)が3.6%、加算(Ⅱ)が22.7%でした。
なぜ加算(Ⅰ)に進めないのか
同じ資料に、加算(Ⅱ)を算定している事業所が(Ⅰ)を算定しない理由が載っています。
- 見守り機器を利用者全員分そろえるのが難しい……61.6%
- インカム等を全職員分そろえるのが難しい……56.3%
つまり、手続きや書類の問題ではなく、機器をそろえる費用の問題です。
加算(Ⅰ)の100単位は、定員50人なら年間60万円程度。一方、見守り機器は1台あたり平均で約25万円(中央値15万円)という調査結果があります。全室分をそろえれば、数百万円の投資になります。加算だけで回収するには、何年もかかる計算です。
だからこそ、補助金とセットで考える
機器の導入には、補助率3/4・上限260万円の「介護テクノロジー導入支援事業」があります。自己負担を4分の1に抑えられれば、投資回収の計算は大きく変わります。
補助率3/4・最大260万円|令和8年度『介護テクノロジー導入支援事業』を使い切る経営戦略
加算(Ⅰ)を目指すなら、機器の購入を決める前に、補助金の公募時期を確認することをおすすめします。
2027年度改定で、この加算はどうなるか
2026年9月30日の審議会で、2027年度の介護報酬改定に向けた「基本的な視点(案)」が示されました。そこには、「報酬体系の整理・簡素化」という言葉が2か所に出てきます。
また、2026年8月と9月の審議会では、算定率が低い加算をどう考えるかが論点として挙がっています。この加算の(Ⅰ)は、算定率が5%を下回るサービスもあります。
今後どうなるかは、まだ分かりません。要件が緩和される可能性も、区分が整理される可能性もあります。ただ、今の要件のまま放置されるとは考えにくい状況です。
今から機器の導入を検討する場合は、改定の議論を追いながら進めることをおすすめします。
2027年度改定の「基本的な視点」が示された|赤字4割の現実と、5つの視点が意味するもの
施設長の今週確認リスト
- 自法人のサービス種別が加算対象かを確認した
- 生産性向上推進委員会が設置されているか確認した
- 委員会規程・議事録様式が整備されているか確認した
- 3か月に1回以上、委員会が開催されているか確認した
- 対象ICT機器が実際に業務で使われているか確認した
- 効果測定の記録が保存されているか確認した
- 委員会で検討すべき4項目が議事に含まれているか確認した
- 体制届の提出が完了しているか確認した
- 処遇改善加算Ⅰロの届出に反映しているか確認した
編集長より
生産性向上推進体制加算は「ICTを入れれば取れる加算」ではない。
委員会を動かし、効果を測定し、記録を残し続ける——この継続的な取り組みが評価される。
逆に言えば、正しく取り組んだ施設は、現場の業務効率が上がり、職員の負担が減り、処遇改善加算も上位区分が取れる。一石三鳥の取り組みだ。
「うちはICTを入れていない」という施設も、介護ソフトのタブレット入力がすでにICT活用に該当することが多い。まず現状を確認するところから始めてほしい。
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この記事の出典
- 厚生労働省「生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について」(老高発0329第1号・令和6年3月29日改正)
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める基準」(平成27年厚生労働省告示第95号)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(老企第25号)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.5)」(令和6年4月30日)
- 厚生労働省「第263回社会保障審議会介護給付費分科会 資料2 介護現場の生産性向上等の推進」(令和8年8月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001743315.pdf - 厚生労働省「第268回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1 令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」(令和8年9月30日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001753962.pdf
この記事に関連する実務ガイド
本記事の制度・要件は、2026年6月時点で公表されている厚生労働省・関連自治体の情報をもとに整理したものです。生産性向上推進体制加算の対象サービス、加算ⅠとⅡの要件、実績報告の方法、体制届の様式等については、最新の一次情報および所管自治体への個別相談を必ずあわせてご確認ください。