特養の建設費が過去最高・平米単価44万円超【WAM調査2026年7月】|施設整備を計画する施設長が知るべき数字の読み方と今後の経営判断
WAMが2026年7月22日に公表した調査で、特養の建設費が過去最高を記録しました。平米単価442千円、定員1人あたり建設費2,566万円の数字が示す意味と、施設整備を計画する施設長が今から取るべき経営判断を完全解説します。

この記事でわかること
- WAM調査の最新数字(平米単価・定員1人あたり建設費)の正確な意味
- 建設費が過去最高になった背景にある3つの要因
- 「延床面積を抑制する」という施設側の対応トレンドとそのリスク
- 施設整備を計画中の法人が今から検討すべき経営判断
- 建設費高騰の中で施設整備を進める施設の現実的な選択肢
- 施設整備を「しない」という判断の合理性
はじめに:「建てたくても建てられない」時代が来た
2026年7月22日、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が福祉・医療施設の建設費に関する最新の調査結果を公表した。
特養の平米単価は442千円、定員1人あたり建設費は25,656千円となり、いずれも調査開始以降の最高額を記録した。
定員1人あたり建設費が約2,566万円ということは、定員50名の特養を新築する場合、建物だけで約12億8,000万円が必要になる計算だ。
10年前の水準と比較すると、同規模の施設を建てるのに必要な費用は1.5〜2倍に膨らんでいる。
「施設整備を計画していたが、建設費が高すぎて計画を見直さざるを得なくなった」という声が全国の法人から聞かれるようになっている。
この記事では、今回のWAM調査の数字を正確に読み解いた上で、施設整備を計画する施設長が今から取るべき経営判断を解説する。
WAM調査の数字を正確に読む
今回の調査結果(2024年度・2026年7月22日公表)
| 指標 | 数値 | 調査開始以降の順位 |
|---|---|---|
| 特養(ユニット型)平米単価 | 442千円(44.2万円) | 過去最高 |
| 特養 定員1人あたり建設費 | 25,656千円(約2,566万円) | 過去最高 |
| 特養 定員1人あたり延床面積 | 42.0平米 | 前年度から減少 |
「定員1人あたり延床面積が減少」が示すもの
特養の定員1人あたりの延床面積は全国平均で42.0平米と前年度から減少した。平米単価が跳ね上がるなか、施設側が延床面積を抑制して全体の費用を抑えようとする動きが出ている可能性がある。
つまり「建設費が高くなりすぎるため、施設の規模を小さくして対応しようとする動き」が統計に表れている。
この動きには注意が必要だ。延床面積を削ることで建設費を抑えることはできるが、定員あたりの居住空間が狭くなることは、入居者のQOL(生活の質)に影響する。また将来の稼働率や運営効率にも影響しかねない。
「コストを抑えるために小さく建てる」という判断が、長期的な運営に悪影響を及ぼさないかを慎重に検討する必要がある。
なぜ建設費は上がり続けているのか
要因①:建築資材の高騰
鉄鋼・木材・コンクリートなどの建築資材価格が2022年以降、円安・エネルギー高騰・国際的なサプライチェーンの混乱を背景に大幅に上昇し、高止まりが続いている。
円安の影響による物価高や法改正による人件費の高騰などを受けて2026年以降もさらなる建築費の増大が想定される。
要因②:建設業界の人件費高騰
2024年4月から建設業界に時間外労働の上限規制が適用され(いわゆる「2024年問題」)、建設業の人件費が上昇している。
熟練職人の高齢化と後継者不足も続いており、施工能力そのものが落ちているとも言われる。
要因③:福祉施設の高機能化・バリアフリー対応コスト
介護施設に求められる設備水準が年々高くなっている。感染対策・BCP対応・ICT機器の組み込み・医療連携に対応した設備・バリアフリー基準の強化など、施設に求められる機能が増えるほど、建設コストは上昇する。
施設整備を計画中の法人が直面する現実
試算の見直しが必要になっている
多くの法人が「5年前・10年前の建設費見積もりで資金計画を立てていたが、実際の建設費が大幅に乖離してしまった」という状況に直面している。
数年前の試算で10億円と見込んでいた計画が、今の水準では12〜15億円になるケースも珍しくない。
この差額をどう手当てするか。借入増加・自己資金の積み増し・補助金の活用・設計仕様の見直し——どの手段をとるにしても、経営判断が求められる。
WAMの融資条件も変化している
WAM(福祉医療機構)は介護・福祉施設の建設に対して低利融資を行っているが、建設費の高騰に伴い借入額が増加し、返済負担も増えている。
返済能力のシミュレーションを、現時点の建設費水準で改めて行うことが不可欠だ。「10年前の計画書」をベースに稟議が進んでいる場合は、今すぐ数字を更新してほしい。
建設費が上がったからといって、建てるべきだとは限らない。
建てない判断も、経営者の責任だ。
施設整備を進める場合の現実的な選択肢
選択肢①:設計段階でのコスト最適化
建設費を抑えるために最も有効なのは「設計段階での工夫」だ。着工後のコスト削減は難しく、設計時点で仕様を適切に設定することが重要だ。
具体的には以下の点を設計事務所・施工業者と議論してほしい。
- 延床面積と定員のバランス(1人あたり面積を適切に設定する)
- 共用スペースの配置最適化
- ICT・IoT機器の組み込み設計(後付けより安い)
- 将来の増改築に対応できる構造の選択
選択肢②:既存施設の改修・増改築
新築ではなく既存施設の改修・増改築を選択する法人が増えている。新築と比べてコストを抑えられるケースがある一方で、既存の構造・設備に制約を受けるため、設計の自由度は下がる。
老朽化した施設をどのタイミングで建て替えるかは、中長期の経営計画に組み込んで検討することが重要だ。
選択肢③:M&A・既存施設の取得
新築ではなく、既存施設の取得(M&A)という選択肢も現実的だ。建設費高騰の影響を受けずに施設数を増やせるメリットがある一方で、取得後の改修費や運営体制の統合に課題が生じることも多い。
選択肢④:施設整備を「しない」という判断
率直に言う。「今の建設費水準では事業として成立しない」という判断も、合理的な選択肢だ。
建設費の返済負担が重すぎて経営を圧迫するリスクがある場合、無理に建設を進めることは施設長としての責任ある判断とは言えない。
施設整備の計画を「凍結・延期」し、建設費の動向を見ながら判断するという選択も検討してほしい。
補助金・融資の最新動向
施設整備費補助金
介護施設の新築・増改築については、都道府県・市区町村から施設整備費補助金が交付される場合がある。補助単価は自治体によって異なるが、建設費高騰を反映して補助単価の見直しを行っている自治体もある。
計画地の都道府県・市区町村の補助単価の最新値を確認することが、資金計画の出発点だ。
介護テクノロジー導入支援事業
建設費そのものとは別に、ICT機器・介護ロボットの導入については補助率3/4・最大260万円の補助が活用できる。施設整備と合わせてICT投資を計画している場合は、この補助を活用することで実質的な整備コストを下げられる。
施設長の今月確認リスト
- 施設整備計画がある場合、最新の建設費水準で試算を更新した
- WAMの融資条件・返済シミュレーションを最新版で確認した
- 都道府県・市区町村の施設整備費補助の最新単価を確認した
- 設計段階でのコスト最適化について設計事務所と協議した
- 「建設する」「改修する」「M&A」「凍結」のいずれかの方針を検討した
- 中長期の施設整備計画を経営計画に明記した
編集長・深瀬久博からひとこと
「建てれば利用者が来る」という時代は終わった。
今は「建てるコストが回収できるかどうか」を、着工前に徹底的に検証する必要がある。
平米単価44万円という数字は、2008年の調査開始時点の1.5倍以上だ。同じ規模の施設を建てるのに、かつての1.5倍以上の投資が必要になる。
それでも建設を進めるのか、既存施設の改修に切り替えるのか、M&Aで施設を増やすのか、あるいは現状維持で経営を安定させるのか。
施設長が今から向き合うべきは、「建設費がいくらか」ではなく「その投資が将来の経営を豊かにするかどうか」という問いだ。