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    経営・改定動向 2026.07.14 約11分で読了

    「事業が成り立たない危険水域」老施協が2027年度改定へ基本報酬の大胆な底上げを要請――業界団体の動きから読む次期改定の方向性と施設長が今から取るべき経営ポジション

    2026年7月6日、全国老人福祉施設協議会(老施協)が2027年度介護報酬改定に向けて「事業が成り立たない危険水域」という強い言葉で基本報酬の大胆な底上げを要請した。業界団体の要請は改定にどれだけ反映されるのか。次期改定の方向性を読み解き、施設長が今から取るべき2つの経営ポジションを解説する。

    2027年度介護報酬改定 老施協要請 業界団体会議
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)
    編集長より改定は「もらうもの」ではなく「備えるもの」だ。業界団体の要請結果に一喜一憂するのではなく、どのシナリオでも通用する経営基盤を今から作る施設が生き残る。

    この記事でわかること

    • 老施協が2027年度改定に向けて何を要請したのか
    • 「基本報酬の大胆な底上げ」という要請の背景にある経営実態
    • 社保審・介護給付費分科会での議論の現在地
    • 業界団体の要請が実際に改定に反映される確率の考え方
    • 施設長が今から取るべき2つの経営ポジション

    はじめに:業界団体の「声」を読む意味

    介護報酬改定は、厚生労働省と社会保障審議会・介護給付費分科会が中心となって議論を進める。しかし、その議論の場に強い影響力を持つのが業界団体だ。

    全国老人福祉施設協議会(老施協)は、特別養護老人ホームを中心とする介護施設の全国組織であり、介護保険制度の政策決定プロセスにおいて最も発言力のある団体のひとつだ。

    2026年7月6日、老施協は2027年度介護報酬改定に向けた要請を行い、「事業が成り立たない危険水域」という強い言葉で基本報酬の大胆な底上げを求めた。

    この言葉の重みを理解するために、まず業界の経営実態から見ていく。

    なぜ「危険水域」なのか:介護施設の経営実態

    赤字施設が増加している現実

    介護事業者の経営状況は、近年急速に悪化している。

    介護事業経営実態調査の結果では、介護施設・事業所の収支差率(売上に対する利益の割合)が低下傾向にあり、赤字施設の割合が増加している。

    背景には複数の要因が重なっている。

    ①人件費の高騰:処遇改善加算により職員給与は上がっているが、加算収入では人件費上昇の全てをカバーできない事業所も存在する。

    ②物価・光熱費の高騰:食材費・光熱費・消耗品費が2022年以降大幅に上昇し、施設運営コストを押し上げている。

    ③基本報酬の実質的な低下:介護報酬の改定率は名目上プラスでも、インフレ率を考慮した実質ベースでは目減りしているケースがある。

    「加算で稼ぐ」モデルの限界

    近年の介護報酬改定は「基本報酬を抑えながら、加算を積み上げて収益を確保する」設計になっている。

    しかしこの設計には問題がある。加算を取得するためには、人員配置・書類作成・システム導入などの追加コストが必要だ。小規模・地方の事業所ほど、加算取得のためのリソースが不足しており、「加算を取れる事業所と取れない事業所」の格差が広がっている。

    老施協が「基本報酬の底上げ」を求めるのは、加算に頼らず安定的に事業を継続できる経営基盤を全ての施設に保障せよという主張だ。

    社保審・介護給付費分科会での現在の議論

    4月27日のキックオフ論議

    2026年4月27日、社会保障審議会・介護給付費分科会で2027年度改定に向けた議論がスタートした。

    この場での委員からの主な意見は以下の2つの方向に大別される。

    基本報酬引き上げを求める声(業界側):介護事業所・施設の経営安定化に向けて、基本報酬の大幅引き上げを求める声が複数の委員から上がった。処遇改善加算の効果検証を急ぎ、賃上げが実際に進んでいるかを早期に確認すべきとの意見も出た。

    給付の適正化・重点化を求める声(費用負担側):現役世代の保険料負担は限界に近づいており、介護保険制度の持続可能性を確保するためには給付の適正化・重点化が必要という立場からの意見も多く出た。

    この2つの方向性は根本的に対立しており、2027年度改定に向けた議論の難しさを示している。

    2026年冬が次の山場

    2027年度改定に向けたスケジュールでは、2026年冬をめどに介護保険部会が意見をとりまとめる予定だ。

    この意見取りまとめに向けて、今後半年間に業界団体・学識者・保険者(市区町村)・利用者代表など様々なステークホルダーが意見を表明し、分科会での議論が続く。

    老施協の今回の要請は、このプロセスに向けた「業界としての立場の明確化」という意味合いがある。

    業界団体の要請が改定に反映される可能性

    正直な評価

    業界団体の要請が改定に「どの程度反映されるか」について、正直に評価する。

    過去の改定を振り返ると、業界団体の要請が全て反映されたことは一度もない。財政制約の中で、業界側の要望と給付適正化の要求のバランスを取る形で改定率が決まるのが実態だ。

    ただし、要請の内容は議論の出発点に影響を与える。「基本報酬の大胆な底上げ」という強い言葉が使われたことは、次期改定での基本報酬の扱いが重要な論点になることを示している。

    施設長が持つべき2つのシナリオ

    シナリオ内容施設への影響
    A:基本報酬引き上げ基本報酬が一定程度引き上げられる人員配置強化・ICT義務化・重度者対応強化など「条件付き」になる可能性
    B:給付適正化優先引き上げは限定的・給付適正化が進む軽度者見直し・利用者負担増・加算整理統合。収益多様化と経費削減が急務

    どちらのシナリオになっても「ICT化・重度者対応・医療連携の強化」は共通の正解であることは変わらない。

    施設長が今から取るべき経営ポジション

    ポジション①:「改定待ち」をやめる

    改定の内容が確定するのは2027年1〜2月だ。それから準備を始めても遅い。

    今から動ける施設と、改定後に慌てる施設では、2027年4月以降の収益に大きな差が出る。今の時点でできる準備——ICT導入・重度者対応体制・医療連携——を着実に進めることが、どのシナリオになっても通用する経営基盤になる。

    ポジション②:「基本報酬が上がる前提」で計画を立てない

    老施協の要請は強いが、基本報酬が大幅に引き上げられることを前提にした経営計画は危険だ。

    最悪のシナリオ(基本報酬の引き上げが限定的・給付適正化が進む)でも事業を継続できる財務体質を作ることが、施設長の責任だ。

    今のうちに「現在の報酬水準のまま5年間経営した場合のシミュレーション」を作成しておくことを推奨する。

    施設長の今月確認リスト

    • 自施設の直近の収支差率(利益率)を確認した
    • 赤字または収支トントンの場合、主な原因を特定した
    • ICT導入・生産性向上推進体制加算の取得状況を確認した
    • 重度者対応・医療連携体制の現状を確認した
    • 「現在の報酬水準のまま5年間」の財務シミュレーションを作成した(または予定を決めた)
    • 2027年度改定に向けた社保審・介護給付費分科会の議論を継続的にウォッチする体制を整えた

    編集長・深瀬久博からひとこと

    「基本報酬を上げてほしい」という声は、介護業界から毎回の改定前に上がってきた。

    そして毎回、一定の引き上げはあるが「大胆な底上げ」とは言えない結果に終わってきた。

    それでも老施協が今回「危険水域」という言葉を使ったのは、これまでとは異なる切迫感があるからだ。

    施設長としては、要請の結果がどうなるかに関係なく、「今の経営が持続可能かどうか」を今から見直す機会にしてほしい。

    改定は「もらうもの」ではなく「備えるもの」だ。

    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師