【2026年最新】
介護事業所のBCP義務化完全ガイド
――未策定の事業所が、今週から始める実践5ステップ
2024年4月、すべての介護サービス事業者にBCP(業務継続計画)の策定が義務化されました。2025年4月には経過措置が終了し、減算制度が本格適用――。それでも、策定完了は約4割。今この瞬間、未策定の事業所には『減算の遡及返還』と『災害発生時の安全配慮義務違反』という二重のリスクが静かに積み上がっています。本記事では、最新の一次情報をもとに、運営指導で指摘される5つの危険信号と、小規模事業所でも1週間で完成させる実践5ステップを、編集長・深瀬久博の現場視点で整理します。

1. 2026年・BCP義務化の現状
策定率は約4割、6割が未策定のまま
2024年4月、すべての介護サービス事業者に対して業務継続計画(BCP)の策定が完全義務化されました。しかし、2026年5月現在、策定完了率は依然として低い水準にとどまっています。
つまり、義務化から2年が経過した2026年現在でも約6割の事業所が未策定または不完全な状態です。人手不足、書類業務の多さ、何から手を付けてよいか分からない――現場の苦しさは痛いほど分かります。ただし、状況はすでに『努力義務』ではなく『減算と返還』のフェーズに入っています。
2025年4月から、減算制度が本格適用
2025年3月31日で経過措置が終了し、2025年4月から減算が本格適用されました。減算率は施設・居住系サービスで所定単位数の3%、訪問・通所等のその他のサービスで1%。対象は居宅療養管理指導や特定福祉用具販売など一部を除く、ほぼすべての介護サービスです。
『策定して終わり』ではない――訓練・研修も義務
減算対象を回避するには、以下の3要件をすべて満たす必要があります。
- BCPの策定。厚労省様式1〜3(基本方針/感染症/自然災害)に沿って文書化。
- 訓練の実施。施設系は年2回以上、在宅系は年1回以上。机上訓練・実地訓練のいずれも可。
- 研修・周知の実施。全職員(非常勤・夜勤職員含む)への周知と、年1〜2回の研修。
未策定減算は、
『今月から』ではなく、
『2025年4月まで遡って』返還です。
2. BCP未策定がもたらす、3つのリスク
リスク① 介護報酬の減算と、最長12ヶ月の遡及返還
運営指導でBCP未策定が指摘された場合、基準を満たさなかった期間まで遡って減算が適用されます。仮に2026年4月に運営指導が入り未策定が判明した場合、減算開始の2025年4月以降の最大12ヶ月分が返還対象になり得ます(具体的な返還範囲は事案ごとに自治体が判断します)。
| 事業所タイプ | 月間報酬 | 減算率 | 月額減算 | 12ヶ月累計 |
|---|---|---|---|---|
| 特養(100名規模) | 1,000万円 | 3% | 30万円 | 360万円 |
| 通所介護(50名定員) | 300万円 | 1% | 3万円 | 36万円 |
この返還額は、訴訟リスクや風評被害を別にしても、小規模事業所の経営を直撃します。「とりあえず今月は」と先送りした結果、半年後に1ヶ月分の人件費以上を一括返還――この構図は、現実に進行しています。

リスク② 災害・感染症発生時の、法的・道義的責任
BCPが未策定または形骸化している状態で災害や感染症クラスターが発生し、利用者に被害が生じた場合、安全配慮義務違反として民事上の責任を問われる可能性があります。過去の大規模災害でも、避難計画の不備を巡って利用者家族から提訴された事例が報告されています。減算より重いのは、こちらの責任です。
リスク③ 利用者・家族・職員からの、信頼喪失
『BCP未策定』『訓練未実施』が利用者家族や紹介元のケアマネに知られた場合、新規利用者の獲得困難、既存利用者の退所、職員の離職(『この施設は危機管理ができていない』との判断)――静かに、確実に、信頼が抜けていきます。
3. 運営指導で指摘される、5つの危険信号
運営指導でBCPが論点になったとき、調査官は『文書の有無』ではなく『運用の実態』を見ます。以下の5つに1つでも該当すれば、今週中に手を打ってください。
危険信号① BCP文書はあるが、職員が内容を知らない
調査官は、夜勤職員や非常勤職員に直接『BCPの内容を説明してください』と質問することがあります。対策:全職員への周知記録(日付・参加者・説明内容)を残し、新任職員研修にBCP説明を組み込んでください。
危険信号② 訓練記録が『形式的』または『未実施』
訓練の実施日時、参加者、内容、振り返り、BCPへのフィードバックが記録されているか。対策:訓練は『15分のミニ訓練』でも可。月1回のミーティング時に実施し、必ず記録に残してください。
危険信号③ 備蓄品が『想定』のみで、実物確認がされていない
備蓄品リストはあるが、賞味期限切れ・非常用電源未稼働・調理不可――この『書類だけ』状態が最も多い指摘事項です。対策:3ヶ月に1回、備蓄品の実物確認と使用訓練を実施してください。
危険信号④ 感染症BCPと自然災害BCPの、片方しか作っていない
両方が必要です(様式2と様式3)。対策:厚労省の公式テンプレートを使用し、両方を作成。
危険信号⑤ BCPの見直しが、1年以上行われていない
職員の退職・異動、利用者の状況変化、ハザードマップの更新を反映していないBCPは『生きていない』と判定されます。対策:年1回の見直しを必ず実施し、更新日と更新内容を記録。
4. 1週間で完成させる、実践5ステップ
小規模事業所(職員10名未満)でも、合計約12時間で『策定→初回訓練→記録作成』まで完結できます。今週中に着手しましょう。

ステップ1:基本情報の整理(所要2時間)
厚労省『介護施設・事業所におけるBCP作成支援ページ』から、自事業所のサービス種別に該当する公式テンプレート(Excel)をダウンロード。法人名・事業所名・責任者氏名・連絡先・サービス種別を記入し、対策本部メンバー(施設長/管理者/看護師/生活相談員等)を決定します。
ステップ2:感染症BCPの作成(所要4時間)
様式2を埋めます。①平常時の対応(感染症対策委員会の設置、PPE・消毒液の備蓄リスト、職員研修計画)、②初動対応(感染疑い者発生時のフロー)、③感染拡大時の対応(ゾーニング計画、濃厚接触者特定、代替職員の確保方法)、④業務再開の判断基準。『速やかに』『適切に』ではなく『30分以内に施設長が対策本部設置』のように具体的な時間・数値・行動で書くのがコツです。
ステップ3:自然災害BCPの作成(所要4時間)
様式3を埋めます。ハザードマップの確認、備蓄品リスト(水・食料3日分、燃料、医薬品)、避難経路・避難場所、安否確認フロー、医療依存度の高い利用者への対応、業務再開の判断基準まで。地域の医療機関・他施設との相互支援協定をBCPに盛り込み、連絡先と受入可能人数を事前に明文化しておくと、運営指導でも実地でも効きます。
ステップ4:初回訓練の実施(所要1時間)
『今、震度6強の地震が発生した』と想定し、各職員が最初に取るべき行動を口頭で確認する机上訓練。緊急連絡網を使った安否確認訓練(応答時間を記録)。備蓄品保管場所の全員確認と非常用電源の起動。記録項目:実施日時/参加者氏名/訓練内容/うまくいった点/改善点/BCPへのフィードバック。
ステップ5:研修実施と記録作成(所要1時間)
BCP策定の目的と背景(義務化・減算制度)、感染症/災害BCPの概要、各職員の役割分担、緊急連絡網――この4点を全職員に説明。欠席者には別途個別説明し、その記録も残します。
5. 規模別・サービス種別の、実装パターン

小規模訪問介護(職員8名/登録ヘルパー15名)
管理者が書類業務に追われて時間が取れないケース。打ち手は、①厚労省テンプレート(訪問系)の例示を自事業所用に書き換える(所要3日)、②月1回のミーティング時に15分のミニ訓練(『利用者宅で地震発生』を想定、避難誘導と本部連絡の手順確認)、③訓練記録を写真付きで残す。1週間で策定完了、運営指導で『実効性のあるBCPが整備されている』と評価された事例があります。
中規模デイサービス(定員30名/職員12名)
BCPは作成済みだが、職員が内容を知らず訓練も未実施――というよくあるケース。①全職員対象に1時間の研修(内容説明・役割分担確認)、②実地訓練として非常用電源を実際に起動、③地域の特養と相互支援協定を締結して合同訓練を年1回実施。運営指導で訓練記録・研修記録を提示し、減算を回避。職員からも『災害時の不安が軽減された』との声が上がった事例です。
大規模特養(入所者100名/職員80名)
過去の被災経験はあるが、当時のBCPが形骸化して更新されていないケース。①BCP見直しプロジェクトチームを各部署代表で結成、②ハザードマップを最新版に更新(浸水想定区域確認)、③地域医療機関・他施設との相互支援協定を再締結、④年2回の大規模訓練(実地と机上を交互)+月1回のミニ訓練。実際の豪雨災害でBCPが機能し、利用者全員を無事に避難させ近隣施設への移送までスムーズに実施できた事例です。
6. よくある失敗パターンと、回避法
失敗① 『作っただけ』で現場に浸透していない
法人本部が作成し管理者が承認しただけ、現場職員は文書の存在すら知らない――最頻パターンです。回避法:BCP作成に現場職員(各部署1名)を必ず参加させる/完成後に全職員説明会を開催/新任職員研修に組み込む。
失敗② 備蓄品が『想定』のみで、実物確認がされていない
『3日分の食料を備蓄』と書いてあるが、賞味期限切れ・調理不能。回避法:3ヶ月に1回の実物確認、非常用食料の実調理訓練、発電機の定期稼働確認。
失敗③ 訓練が『年1回の形式的なもの』だけ
参加率が低く実効性に欠ける。回避法:大規模訓練(年1〜2回)+月次ミニ訓練(15分)の組み合わせ。訓練後の振り返りを必ずBCP本体にフィードバック。
失敗④ 災害時の連絡手段が、携帯電話のみ
通信途絶時の代替手段が未整備。回避法:集合場所・伝言板・SNS等の代替連絡方法を事前に決定/通信途絶を想定した訓練/無料アプリでも構わないので安否確認システムを導入。
7. 今すぐやるべき、3つのアクション
| No. | アクション | 期限 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 01 | 厚労省テンプレートをDLし、基本情報を記入 | 今週中 | 策定スタート |
| 02 | 感染症・自然災害BCPを策定完了し、初回訓練を実施 | 1ヶ月以内 | 減算リスク解消 |
| 03 | 地域の医療機関・他施設と相互支援協定を締結/月1ミニ訓練を習慣化 | 3ヶ月以内 | 実効性の獲得 |
8. 運営指導対応・チェックリスト
- 感染症BCP(様式2)が策定されている
- 自然災害BCP(様式3)が策定されている
- BCP本体に具体的な時間・数値・行動が記載されている
- 全職員(非常勤・夜勤職員含む)にBCPが周知されている
- 周知記録(日付・参加者・内容)が残されている
- 訓練が実施されている(施設系年2回以上/在宅系年1回以上)
- 訓練記録(日時・参加者・内容・振り返り)が残されている
- 研修が実施されている(年1〜2回)
- 研修記録(日時・参加者・内容)が残されている
- 備蓄品リストが作成され、実物確認が定期的に行われている
- BCPの見直しが年1回以上実施されている
- 最終更新日と更新内容が記録されている
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9. 参考資料・出典
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン/BCP作成支援ページ」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(業務継続計画未策定減算)
- 株式会社エス・エム・エス「介護事業所のBCP策定に関する実態調査」(2024年6月、有効回答1,177件)
- 厚生労働省「介護サービス事業者の業務継続ガイドライン等(感染症/自然災害)」
- 各都道府県・市区町村のBCP策定支援助成金(年度ごとに条件が変動するため最新公式情報を要確認)
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本記事の制度・数値は、厚生労働省、エス・エム・エス調査等の公表資料に基づき2026年5月時点の情報を整理したものです。減算判定・運営指導の具体的対応、自治体助成金の申請にあたっては、最新の一次情報および所管自治体・社会保険労務士等の専門家への個別相談を必ずあわせてご確認ください。