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    経営・財務 2026.05.21 約20分で読了

    訪問介護はなぜ
    『倒産過去最多』なのか
    ――2026年に生き残る事業所の、7つの条件

    訪問介護事業所の倒産は、2024年に過去最多の81件を記録し、2025年もそのペースを更新中です。背景にあるのは、2024年度報酬改定の基本報酬引き下げ、ヘルパーの平均年齢55歳超、登録ヘルパー中心の不安定な稼働、物価高・人件費高――。それでも黒字を出し続ける事業所は確かに存在します。本記事では、黒字事業所と赤字事業所を分ける『7つの条件』を、加算取得・エリア戦略・ICT活用・採用5施策・撤退/M&A判断まで、編集長・深瀬久博が経営者目線で整理します。

    夕暮れの住宅街を、訪問先へ向かう介護ヘルパーが歩いている場面
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長より訪問介護の苦境を『2024年改定のせい』だけにする論調には、私は与しません。改定はトリガーであって原因の本体ではない。本体は、20年以上『安く・小さく・つなぎ役で』回してきた構造そのものです。本記事は、その構造に手を入れる勇気のある経営者のために書きます。

    1. 2024→2025、訪問介護で何が起きたか

    倒産・休廃業ともに過去最多ペース

    東京商工リサーチ「老人福祉・介護事業の倒産」調査(2025年1月発表)によれば、2024年の介護事業者の倒産件数は172件と過去最多を更新しました。そのうち訪問介護は81件と、業種別で群を抜く多さ。さらに『休廃業・解散』を含めると、訪問介護分野だけで年間600件超の事業所が市場から消えた計算になります。

    ペースは2025年も止まっていません。上半期(1〜6月)の段階で訪問介護の倒産は既に40件を超え、年間で前年比+10〜15%の増加が見込まれています。

    172件
    2024年の介護事業者倒産件数(過去最多)
    出典:東京商工リサーチ
    81件
    うち訪問介護の倒産件数(業種別最多)
    出典:東京商工リサーチ
    45.5%
    訪問介護の赤字事業所割合(2024年度)
    出典:WAM 経営状況調査

    赤字率45.5%、収支差率は実質マイナス圏

    福祉医療機構(WAM)「介護事業経営状況調査」によれば、2024年度の訪問介護事業所の赤字事業所割合は45.5%、全サービス平均(約35%)を10ポイント上回ります。収支差率の平均値もほぼ0〜▲1%圏に張り付いており、『1人辞めれば赤字、1人病気で休んでも赤字』という綱渡り経営が常態化しています。

    訪問介護は、もう
    『つぶれない業種』ではない。

    2. 経営を圧迫する、5つの構造要因

    要因① 2024年度改定の基本報酬引き下げ

    2024年度介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬は▲2.4%前後の引き下げとなりました(身体介護20分未満で163単位→160単位など)。処遇改善加算の一本化・引き上げで全体としては『プラス改定』と説明されましたが、加算を十分に算定できていない事業所にとっては実質的にマイナスです。

    要因② ヘルパーの高齢化と若年層の不在

    介護労働安定センター「介護労働実態調査」(2024年度)によれば、訪問介護員の平均年齢は54.4歳、60歳以上が約4割。一方、29歳以下は1%未満。この10年で『現役ヘルパー層』そのものが先細っており、引退と新規参入の差し引きで毎年人員が純減しています。

    要因③ 登録ヘルパー依存と稼働の不安定さ

    訪問介護事業所の人員配置は、登録ヘルパー比率が平均60%超。シフトを組みづらく、急なキャンセル・体調不良で1日の売上が消し飛びます。『売れる時間帯(朝・夕)に人がいない/日中は手余り』のミスマッチも、収支差率を削る要因です。

    要因④ 小規模事業所への偏り

    訪問介護事業所の約7割が常勤換算職員5人未満の小規模事業所。1事業所あたりの売上が小さく、加算取得・ICT投資・採用広告へ回す余力が乏しく、結果として『加算を取れず単価が下がる→人を雇えず売上も伸びない』の負のループに入ります。

    要因⑤ 物価高・燃料高・最低賃金引上げのトリプルパンチ

    移動が業務の中心を占める訪問介護にとって、ガソリン・電気代・自転車/車両維持費の上昇は直撃します。さらに2024〜2025年の最低賃金引き上げ(全国平均で時給1,055円→1,118円相当)で、登録ヘルパー時給の下支えコストも上昇。値段だけ上がって売価は据え置きという、構造的に苦しい局面です。

    3. 黒字事業所と赤字事業所を分ける、7つの条件

    小さな訪問介護事業所の事務所で、女性管理者が電卓と決算書類を確認している場面
    数字を毎月見ているか――それが分かれ目になる。
    No.条件黒字事業所の典型値
    01特定事業所加算を算定しているⅠ〜Ⅴのいずれかを取得
    02処遇改善加算は最上位区分を取得新Ⅰ(旧Ⅰ+特定処遇+ベア)
    031人あたり訪問件数/月常勤換算で月90件以上
    04エリア半径原則 半径3km以内
    05ケアマネからの新規依頼数/月平均5件以上
    06ICT導入(記録・シフト・移動最適化)3点セット導入済
    07月次決算の運用翌月10日までに数値確認
    読み方7条件のうち5つ以上を満たす事業所は、当社が支援に入った範囲では概ね黒字化しています。逆に3つ以下しか満たしていない事業所は、改定をきっかけに数年以内に経営継続が困難になる傾向が顕著です。まずは『今、自分の事業所はいくつ満たしているか』を数えてみてください。

    4. 単価を上げる:加算取得とサービス設計

    特定事業所加算は『取れるなら全力で取る』

    訪問介護で最も収益インパクトが大きいのが特定事業所加算(Ⅰ〜Ⅴ)です。算定要件は重く感じられますが、人材育成計画書・会議録・利用者情報共有の仕組みを『一度作りきれば毎月の加算収入として効き続ける』のが特徴。Ⅰ区分で基本報酬の20%、Ⅱで10%、Ⅴでも3%が上乗せされます。

    処遇改善加算(新区分)は最上位を取りに行く

    2024年度から一本化された『介護職員等処遇改善加算』は、訪問介護で最大24.5%(新Ⅰ)まで取得可能。賃金改善計画・キャリアパス・職場環境要件のうち、特に職場環境要件は『3区分から1項目ずつ』『6区分から1項目ずつ』など要件が変わるため、必ず最新の通知に沿って点検してください。

    『身体中心』のサービス設計に寄せる

    生活援助は単価が低く、長くやるほど利益が薄くなる構造です。逆に身体介護20分未満・30分未満は単価が高く、回数を積みやすい。アセスメント時から身体介護中心の組み立てを意識し、必要な生活援助は短時間で組み合わせる設計が黒字事業所の常套手段です。

    認知症・看取り・緊急時の加算を取りこぼさない

    認知症専門ケア加算、看取り期対応加算、緊急時訪問介護加算――『該当する利用者がいるのに算定していない』というケースが、訪問介護では非常に多い。毎月のケア会議で『この利用者は加算対象か』を1人ずつ確認する運用に切り替えるだけで、月の単価が数%押し上がります。

    5. 稼働率を上げる:ケアマネ営業とエリア戦略

    『紹介してもらえる事業所』になる5つの条件

    • 新規依頼を24時間以内に受諾/不受諾の判断連絡する
    • 受諾不可の場合も『○月以降なら可』など代替案を返す
    • 初回訪問後、ケアマネに『所見』を1枚レポートで返す
    • 担当者会議に必ずサ責が出席する(オンラインも可)
    • 月1回、担当ケアマネ宛にショート進捗メモを送る

    ケアマネは『誰に頼めば安心か』を常に値踏みしています。『返事が早い』『所見が読みやすい』『担当者会議に来る』――この3つを愚直にやる事業所に、紹介は自然と集中します。

    エリアは『半径3km』に絞る

    移動時間は売上ゼロの時間です。半径5km超で受けると、1日の訪問件数が頭打ちになり、ヘルパーの拘束時間も伸びて時給換算で割が合わなくなる。半径3km以内・5km超は原則お断りのエリア設定が、収益と職員定着の両面で効きます。

    6. コストを下げる:ICT・直行直帰・移動最適化

    訪問先の前でタブレットを使ってルートを確認する若い訪問介護職員
    紙の記録と紙のシフト表が、収益を毎日数千円ずつ削っている。

    ICT3点セット:記録・シフト・移動最適化

    訪問介護のICT化で投資対効果が最も高いのは、①介護記録ソフト(モバイル対応)/②シフト管理ソフト/③ルート最適化機能の3点です。初期費用は3点合計で20〜60万円、月額も合計2〜5万円程度ですが、記録時間が1人1日30分短縮されれば、5人体制で月62.5時間(時給1,500円換算で約9万円)の人件費削減になります。

    さらに2026年度の『介護テクノロジー導入支援事業』を活用すれば、補助率3/4・最大260万円の助成も活用可能です。

    直行直帰運用への切り替え

    朝礼・終礼で事業所に集まる運用は、1日あたり1人30〜60分の移動コストを発生させます。タブレットでの始業・終業打刻+オンライン朝礼(週1のみ対面)に切り替えると、月20時間/人の生産性向上が見込めます。

    7. 人を集める:ヘルパー採用の5施策

    ① 登録ヘルパーの『戦力化』

    新規採用に注力する前に、まず既存の登録ヘルパーの稼働を月+5件増やす。これだけで、1事業所あたり月7〜15万円の売上増になります。『出やすい時間帯』『出にくい曜日』を1人ずつヒアリングし、その人に合うシフトを組み直す。

    ② 短時間正社員制度の導入

    『フルタイムは無理だけど週20〜25時間なら働ける』層は、想像以上に存在します。週20時間〜の短時間正社員(賞与・社保あり)を制度として用意するだけで、登録ヘルパーから一段上の戦力に転換できます。

    ③ 外国人材の活用(特定技能)

    訪問介護は2024年度から特定技能・技能実習による訪問サービス従事が一部解禁されました(一定の研修・サポート体制要件あり)。導入は段階的ですが、登録ヘルパーの平均年齢55歳超という現実を踏まえれば、3〜5年先を見据えた選択肢として外せません。詳細は外国人人材活用ガイドを参照してください。

    ④ 求人原稿の書き換え

    『資格不問・未経験OK』だけでは応募は来ません。『扶養内勤務OK/週2日からOK/直行直帰/土日休み相談可』など、ヘルパー層が知りたい働き方条件を3つ以上見出しに入れるだけで、応募率は明確に上がります。詳しくは応募が来ない9つの理由を参照してください。

    ⑤ 紹介制度・リファラル採用

    現役ヘルパーからの紹介は、定着率が圧倒的に高い。紹介者・入職者双方に1〜3万円の紹介手当を制度化し、毎月の朝礼・LINEで案内する。求人媒体に20万円かけるより、紹介手当に5万円配るほうが費用対効果は高いケースが多いです。

    8. 撤退・M&A・統合という、もう一つの選択肢

    『負け方を間違えない』ことも経営判断

    7条件のうち3つ以下しか満たせず、改善の見通しも立たない――その場合、無理に粘って利用者を路頭に迷わせるより、事業譲渡・M&A・統合を早めに検討するほうが、利用者・職員・経営者の三方にとって被害が少なくなります。

    事業譲渡の相場感(2025年)

    事業規模売却価格レンジ買い手の評価軸
    小規模(月商300〜500万円)数百万円〜1,500万円利用者数・常勤数・特定事業所加算の有無
    中規模(月商800〜1,500万円)2,000〜5,000万円営業利益・サ責人数・ケアマネ評価
    複数事業所5,000万円〜数億円エリア集約効果・本部機能の有無
    ※介護M&A仲介各社の公表事例・成約相場をもとにした目安値。実際の価格は個別交渉により大きく変動します。

    『誰に』譲るかが、利用者と職員の未来を決める

    価格だけで買い手を選ぶと、譲渡後にサービスの質が崩壊し、利用者・職員が一気に離れるケースを何件も見てきました。『同地域で誠実にやっている同業』『理念に共感してくれる買い手』を、価格よりも優先する――それが、最後に経営者として残せる責任だと私は考えています。

    9. 今すぐやるべき、3つのアクション

    No.アクション期限効果
    017条件チェックリストで自施設の現在地を点数化する今週中現状把握の起点
    02特定事業所加算・処遇改善加算(新Ⅰ)の取得可否を社労士・行政書士と再点検する1ヶ月以内月次売上 +5〜20%
    03ICT3点セット導入と『介護テクノロジー導入支援事業』の申請計画を立てる2ヶ月以内人件費・移動コストの恒常削減

    10. 施設長セルフチェック10項目

    • 直近3ヶ月の月次決算(売上・人件費・収支差)を月初10日までに確認している
    • 特定事業所加算(Ⅰ〜Ⅴ)のいずれかを算定している
    • 処遇改善加算は新Ⅰまたは新Ⅱを取得している
    • 常勤換算1人あたりの月間訪問件数を把握している(目標90件以上)
    • 担当エリアは原則 半径3km以内に絞り込んでいる
    • ケアマネ事業所からの新規依頼に24時間以内に返答している
    • 介護記録ソフト・シフト管理ソフトを導入している
    • 直行直帰運用または週1対面ルールに切り替えている
    • 登録ヘルパー1人ひとりの『出やすい時間帯』を把握し、シフトに反映している
    • 5年後の事業継続シナリオ(自立/M&A/撤退)を経営者の手元で言語化している
    編集長より、最後に訪問介護は、社会にとって絶対に必要なインフラです。家でその人らしく最期まで暮らすために、訪問介護なしでは成り立たない。だからこそ、私はこの分野の事業者には、潰れてほしくない。きれいごとではなく、経営として残ってほしい。本記事が、その『残る』ための一歩になれば幸いです。

    11. 参考資料・出典

    1. 東京商工リサーチ「2024年 老人福祉・介護事業の倒産・休廃業解散調査」(2025年1月)
    2. 福祉医療機構(WAM)「2024年度 介護事業経営状況調査結果」
    3. 厚生労働省「令和6年度 介護報酬改定の概要(訪問介護)」
    4. 介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」
    5. 厚生労働省「介護職員等処遇改善加算 算定要件等通知(令和6年度版)」
    6. 厚生労働省「特定事業所加算(訪問介護)算定要件」
    7. 厚生労働省「介護分野における特定技能の運用方針(2024年改正)」

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    本記事の倒産件数・赤字率・報酬単価・加算要件・M&A相場等は、東京商工リサーチ、福祉医療機構(WAM)、厚生労働省、介護労働安定センター、介護M&A仲介各社等の公表資料に基づき2026年5月時点の情報を整理したものです。実際の経営判断・加算申請・事業譲渡にあたっては、税理士、社会保険労務士、行政書士、M&A仲介機関等の専門家への個別相談をあわせてご活用ください。