介護の人材紹介会社の、選び方
――手数料・返金規定・トラブル回避と『失敗しない』7つの比較軸【2026年版】
『1人採用するのに100万円。なのに3ヶ月で辞められた』――介護人材紹介の現場で、いまも繰り返されている経営者の悲鳴です。手数料相場は理論年収の20〜30%。1人で80〜150万円。これだけの投資をするからこそ、紹介会社の選定は経営判断そのものです。本記事では、優良エージェントの見極め方、返金規定・トラブル回避、複数社の並行運用、そして自社採用との使い分けまで、編集長・深瀬久博が経営者目線で整理します。

1. 介護人材紹介市場の『いま』
市場規模は数百億円、紹介会社数は数千社
厚生労働省「医療・介護・保育分野における職業紹介事業に関する調査」によれば、医療・介護・保育分野の有料職業紹介事業所は数千社規模に達し、市場規模も拡大基調にあります。介護特化型エージェント、医療・介護横断型、看護師起点で介護に拡張した事業者など、プレイヤーは多様化しています。
手数料相場は『理論年収の20〜30%』
一般的な相場は、採用決定者の理論年収(月給×12+賞与)の20〜30%。介護福祉士・正社員夜勤あり(年収380〜420万円)であれば、1人あたり80〜120万円。管理者・看護職クラスでは150万円を超えるケースも珍しくありません。
『早期離職トラブル』が常態化
厚労省は近年、医療・介護・保育分野の有料職業紹介事業者に対し、『お祝い金』『転職勧奨』『高額手数料』『早期離職』といった問題に重点的に指導を行っており、2021年・2024年と指針・指導の強化が続いています。施設側にも『契約を読まずに署名し、返金規定で揉める』ケースが多発しています。
紹介会社の選定は、
『広告費』ではなく『経営判断』である。
1人で100万円が動くのだから。
2. 紹介を使うべき施設/使うべきでない施設
使うべき施設
・自社求人広告・ハローワーク・リファラルでの応募が3ヶ月以上ゼロ〜1名の状態が続いている
・夜勤可・有資格者・管理者候補など、市場に少ない層を急ぎ確保したい
・新規開設・増床で期日までに人員配置基準を満たす必要がある
こうしたケースでは、紹介を使わない方が機会損失が大きくなります。
使うべきでない施設
・離職率が25%超で、入れても抜ける状態が続いている(先に定着策が必要)
・求人原稿・採用ページが整っていない(自社採用の伸びしろが残っている)
・手数料を払う体力がないのに、なし崩しに使い続けている
この場合、紹介に頼るほど経営は悪化します。まず定着と自社採用の立て直しが先です。
3. 失敗しない『7つの比較軸』

軸① 手数料率と『理論年収の定義』
同じ『手数料30%』でも、何を理論年収に含めるかで実額は大きく変わります。基本給×12のみか/賞与込みか/夜勤手当・処遇改善加算を含むか――必ず算定式を契約書ベースで確認してください。口頭の『相場通りです』は信用しない。
軸② 返金規定(リファンドポリシー)の中身
最重要。一般的には『入社1ヶ月以内:80〜100%返金/3ヶ月以内:50%/6ヶ月以内:0〜30%』が目安。『自己都合退職に限る』『施設都合は対象外』『試用期間中の解雇は返金対象外』など、除外条項に必ず目を通すこと。返金規定が緩い会社ほど、定着への責任意識も高い傾向があります。
軸③ 『お祝い金』を出していないか
2021年4月の職業安定法施行規則改正で、医療・介護・保育分野の『お祝い金・転職勧奨』は明確に禁止されました(厚労省指針)。違反業者と取引すること自体が施設のリスク。確認方法は『御社は転職お祝い金や転職祝い金、ギフト券を求職者に提供していますか?』と単刀直入に聞き、書面で回答をもらうこと。
軸④ 求人票・候補者推薦の『質』
良いエージェントは、求職者の希望と施設の文化のマッチングに時間をかけます。雑にスカウトメールを撒き、面接設定だけ取ってくる事業者は、入社後すぐ離職するケースが多い。事前に『当社にミスマッチが起きやすいタイプは?』と質問して、答えに具体性があるかをチェック。
軸⑤ 介護業界への理解度
キャリアアドバイザーが介護保険制度・夜勤体制・職位別の業務内容を最低限理解しているか。『特養と老健の違い』『処遇改善加算とは何か』『初任者研修・実務者研修・介護福祉士のキャリアラダー』を説明させてみると、力量がはっきり見えます。
軸⑥ 担当者の継続性と組織体制
担当が頻繁に変わる会社は、社内の離職率が高い=候補者情報の引き継ぎが甘いサイン。年1回以上の担当変更が常態化している事業者は要注意。担当の在籍年数も遠慮なく確認すべき項目です。
軸⑦ 入社後フォロー体制
入社1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月のフォロー面談を提供しているか。フォローを通じて早期の離職予兆を共有してくれる会社は、結果として返金規定にも頼らずに済むケースが増えます。フォロー実績を数字で出せる会社を選ぶ。
4. 契約書で必ずチェックすべき10条項
- 手数料率と理論年収の算定式(賞与・夜勤手当・処遇改善加算の扱い)
- 返金規定(期間/返金率/自己都合・施設都合の扱い/試用期間中の扱い)
- 請求タイミング(入社日/勤務開始日/試用期間満了日のいずれか)
- 支払い期日と延滞時の遅延損害金
- 採用辞退・内定取り消し時の費用負担
- 同一候補者の競合斡旋に関する取り決め
- 個人情報の取り扱い・候補者情報の保管/破棄ルール
- 転職勧奨・お祝い金を禁止する条項の明記
- 契約期間と解約条件(最低契約期間・違約金の有無)
- 紛争解決方法(管轄裁判所・あっせん・調停の規定)
5. 複数社の『並行運用』のコツ
原則① 2〜4社で止める
10社・20社と契約しても、現場の対応工数が爆発するだけ。『特化型1社+総合型1〜2社+スポット1社』の3〜4社体制が現実解。少数の優良エージェントと深く付き合う方が、紹介精度は上がります。
原則② 同一候補者の重複応募ルールを決めておく
『先に推薦を受けた会社が優先』が業界慣行。複数社から同じ求職者が推薦されると、後から手数料トラブルになります。推薦日時を必ずメール記録に残す運用にしてください。
原則③ 評価サイクルを四半期で回す
紹介社別に『紹介数/面接設定数/内定数/入社数/3ヶ月定着数』を四半期で集計。定着率の低い会社から契約解除していくことで、ポートフォリオの質が上がります。データを見せると、エージェント側の本気度も変わります。
6. 紹介と自社採用の『最適な配分』

戦略① 急ぎは紹介、土台は自社
欠員補充・新規開設の『短期戦』は紹介、長期の母集団形成は自社採用(求人原稿・採用ページ・採用広報)で。両輪を回す施設は、紹介依存度を年々下げていけます。
戦略② リファラル採用で『紹介手数料の半分』を職員に還元
既存職員からの紹介(リファラル)に10〜30万円のインセンティブを出す制度を整える。紹介会社に100万円払うなら、職員に30万円払って自社採用する方が、定着率も高く、コストも1/3で済みます。
戦略③ 採用広報に予算の一部を恒常的に振る
紹介手数料の10〜20%を、自社の採用広報(記事・SNS・職員インタビュー動画)に毎年回す。3年継続すれば、紹介に頼らず応募が来る体質に近づきます。
7. トラブル事例と回避策
事例① 入社3週間で離職、返金は『50%のみ』
契約書をよく読むと『1ヶ月以内100%返金』の条件が『勤務日数20日以上経過後』だった――というケース。日数カウント方法の確認を怠らないこと。
事例② 入社後すぐ別のエージェントから転職勧奨
お祝い金を提示して引き抜くケース。違反業者は厚労省へ通報可能(職業安定法違反)。契約段階で『当社の入社者への転職勧奨が判明した場合、契約解除と損害賠償請求対象とする』旨を盛り込むのも有効。
事例③ 経歴詐称が後で発覚
介護福祉士証の現物確認・前職在籍確認を、紹介会社に書面で求める。優良エージェントは身分証・資格証のコピー提出と前職確認をルーティン化しています。
8. 今すぐやるべき、3つのアクション
| No. | アクション | 期限 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 01 | 現契約中の全紹介会社の手数料率・返金規定を一覧化する | 今月中 | 条件の劣る会社が一目で分かる |
| 02 | 直近2年の紹介社別『3ヶ月定着率』を集計する | 2ヶ月以内 | 解約判断と交渉材料が揃う |
| 03 | リファラル採用制度(職員紹介インセンティブ)を制度化する | 3ヶ月以内 | 中長期で紹介依存度を下げられる |
9. 管理者セルフチェック10項目
- 取引中の全紹介会社の契約書を、自分の手元で読み返している
- 手数料の算定式(賞与・各種手当の扱い)を正確に説明できる
- 返金規定の期間・割合・除外条項を把握している
- 請求タイミングが『入社日』ではなく『試用期間満了後』に交渉できているか確認した
- 転職勧奨・お祝い金禁止の条項が契約書に明記されている
- 紹介社別の3ヶ月・6ヶ月定着率を数字で持っている
- 2〜4社に絞った並行運用ができている
- リファラル採用のインセンティブ制度がある
- 自社採用ページ・求人原稿の更新を年1回以上行っている
- 年間採用コストに占める『紹介手数料比率』を経営会議で共有している
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10. 参考資料・出典
- 厚生労働省「医療・介護・保育分野における職業紹介事業に関する調査・指針」
- 厚生労働省「職業安定法施行規則の一部改正(令和3年4月施行)」
- 厚生労働省 雇用環境・均等局「有料職業紹介事業者向け指導関連資料」
- 厚生労働省「介護労働実態調査」(介護労働安定センター)
- 消費者庁・公正取引委員会「役務提供契約に関する解説資料」
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本記事に記載する手数料相場・規定内容は、本稿執筆時点(2026年5月)までに公表されている厚生労働省、職業安定法関連法令、業界実態調査等に基づきます。個別契約の内容は紹介事業者により異なりますので、必ず契約書原本および所管行政(労働局)への確認をお願いします。