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    健康・リスク管理 2026.06.16 約12分で読了

    高齢者の熱中症救急搬送が、過去最多
    ――2026年夏・搬送ゼロを目指す施設長の判断フロー

    2025年夏、全国の熱中症救急搬送者は約9万7千人と過去最多を更新。65歳以上が全体の約58%を占め、住居内発症は4割超に達した。気象庁の3か月予報では、2026年夏も全国的に「平年より高い」気温が予測されている。本記事では、施設内対策だけでなく、通所送迎車内・訪問介護員の労災・救急要請の判断フローまで含めた、2026年版『搬送を出さない』ための実装手順を解説する。

    2026年夏の介護現場で熱中症リスクを評価する施設長
    深瀬久博
    執筆
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    介護福祉士・社会福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
    編集長より毎年6月になると「うちは去年大丈夫だったから」という声を聞きます。けれど、熱中症の搬送統計は過去のデータが通用しなくなっているのが現実です。2025年夏は5月の段階で搬送が前年比2倍。施設内対策が整っていても、送迎・訪問・夜間という『盲点の時間帯』で搬送が出ています。今夏は、その盲点を1つずつ潰す体制を組みましょう。

    この記事でわかること

    • 2025年夏の救急搬送データと2026年夏の気象予測
    • 通所送迎車内・訪問介護員という『施設外』の搬送リスク
    • WBGT速報を職員全員に届ける運用設計
    • 暑熱順化(熱馴化)の2週間プログラム
    • 救急要請『する/しない』を5秒で判断するフロー
    • 労災認定が増えている介護職の熱中症と事業者の責任

    2025年の搬送実績と、2026年夏の気象予測

    総務省消防庁の集計によれば、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送者数は約9万7千人で、現行統計開始以降で最多となった。年代別では65歳以上の高齢者が全体の約58%を占め、発生場所では「住居」が約41%でトップ。次いで「道路」「公衆(屋外)」と続く。

    2026年6月時点で気象庁が発表している3か月予報(6〜8月)では、全国的に気温が「平年より高い」確率が高く、特に7月後半〜8月の猛暑日連続が警戒されている。「去年並み」を前提にした体制では、今夏は確実に足りない。

    過去5年の搬送統計を眺めるな。今年の気象予報を見て、今月のうちに体制を組み直せ。

    『盲点の時間帯』――施設外で起きている搬送

    施設内の温湿度・水分補給の運用は、多くの施設で整いつつある。一方、搬送事例が増えているのは次の3つの『施設外』の場面だ。

    ① 通所介護の送迎車内

    朝の迎え・夕の送りで、停車中の車内温度は短時間で40℃を超える。次の利用者の自宅前で5〜10分待機する間に、すでに乗車している利用者が脱水・熱中症を起こす事例が報告されている。停車中はエンジン停止せずエアコン稼働、または窓開け+日除けを徹底する。送迎ルートは『最も体調変化に弱い利用者を最後に降ろさない』設計に変える。

    ② 訪問介護員の移動・訪問先

    自転車・原付で訪問する介護員は、真夏の屋外を1日5〜8件回る。利用者宅にエアコンがない・つけていない事例も多く、訪問先での介護員自身の熱中症が労災認定されるケースが増加している。事業者は飲料・経口補水液の現物支給、訪問間隔の調整、訪問先のエアコン使用要請を運用ルール化する必要がある。

    ③ 通院介助・外出レクリエーション

    家族の代わりに介護職員が通院介助する場面、屋外レクで散歩・買い物に出る場面は、利用者と職員の双方にリスクがある。WBGT28以上は屋外活動原則中止を、施設の年間運用カレンダーに明記しておく。

    WBGT速報を『現場に届ける』仕組み

    環境省「熱中症予防情報サイト」は、全国841地点のWBGT(暑さ指数)を1時間ごとに更新している。これを管理者だけが見ていても意味がない。当日のWBGTが、朝礼・送迎開始前・午後業務開始前の3回、現場の判断に直結する仕組みが必要だ。

    WBGTレベル施設のアクション
    25未満注意通常運用/給水声かけは平時通り
    25〜28警戒屋外活動は短時間に限定/給水30分間隔
    28〜31厳重警戒屋外活動原則中止/送迎車内エアコン継続稼働
    31以上危険外出・散歩・通院介助も中止検討/全居室28℃以下強制

    運用上の工夫は3つ。(1)朝7時にLINE WORKS等で当日WBGT予測を全職員配信(2)送迎ドライバーの携帯にも同送(3)WBGT31以上の日は施設長が現場対応を一段引き上げる判断を明文化する。判断を個人の感覚に委ねない。

    暑熱順化(熱馴化)――職員と利用者の体を6月のうちに慣らす

    暑熱順化とは、体が暑さに慣れて発汗・体温調節がうまく働くようになる生理的適応だ。個人差はあるが、おおむね2週間程度の段階的な暑さ曝露で順化する。猛暑が始まってからでは間に合わない。

    利用者向け順化プログラム

    6月下旬〜7月上旬にかけて、午前中の涼しい時間帯に屋外散歩を10〜15分から段階的に導入。入浴温度を39〜40℃に保ち、軽い発汗を毎日促す。エアコン設定を一律26℃に固定せず、26〜28℃の範囲で日中の体感に変化を持たせる。

    職員向け順化プログラム

    送迎ドライバー・訪問介護員は、6月後半から屋外作業時間を意識的に確保し、汗をかく機会をつくる。労働安全衛生規則の改正(2025年6月施行)により、WBGT28以上の作業環境では事業者に熱中症対策の実施が義務化されている。介護事業所も労務管理として対象になることを失念しないこと。

    2025年6月施行・労働安全衛生規則改正の要点①作業環境がWBGT28℃以上または気温31℃以上となる屋内外作業について、②自覚症状の有無に関わらず、③事業者は『発見時の措置を定めた手順』『作業中の体調確認体制』『関係労働者への周知』の3点を実施する義務がある。介護事業所の送迎・訪問業務もこの規定の対象になり得るため、就業規則・安全衛生マニュアルへの追記が必要です。

    救急要請『する/しない』を5秒で判断するフロー

    現場で最も迷うのは「救急車を呼ぶか」の判断だ。迷ったら呼ぶが大原則だが、職員が自信を持って即断できるよう、次のフローを掲示する。

    STEP1:意識レベルを確認

    呼びかけに対する反応が鈍い/受け答えがおかしい/意識がない場合――即119番。同時に涼しい場所へ移動、首・脇・足の付け根を冷却。

    STEP2:自力で水を飲めるか

    意識はあるが自力で水を飲めない/嘔吐がある/けいれんがある――即119番。無理に水を飲ませない(誤嚥リスク)。

    STEP3:体温と症状の組み合わせ

    意識清明・自力で飲水可能でも、体温39℃以上+頻脈+発汗が止まっている場合は重症熱中症(熱射病)の可能性が高い――即119番。発汗が止まっている=体温調節破綻のサインで、最も危険。

    STEP4:上記に該当しない軽症・中等症

    涼所移動・冷却・経口補水液で30分以内に改善があれば経過観察。改善しない場合は嘱託医に連絡または救急要請。

    救急要請は『重症かどうか』の判断ではなく、『5分後も自力で水を飲めるか』の判断に切り替えると、現場が迷わなくなる。

    介護職の熱中症が労災認定されるとき

    介護職の熱中症は近年、労災請求件数が増加している。特に訪問介護員・送迎ドライバー・厨房職員のケースが多い。労災認定されると事業者は次の対応を求められる。

    ・労働基準監督署への労働者死傷病報告(休業4日以上)
    ・遺族・本人への補償(療養補償・休業補償)
    ・再発防止策の策定と監督署への提出
    ・場合により安全配慮義務違反による民事賠償

    2025年6月の安衛則改正により、事業者の予防義務が明文化されたため、『対策を取っていなかった』ことが安全配慮義務違反として認定されやすくなった。施設長は職員の労務リスクとして、利用者対策と同じ重みで備える必要がある。

    2026年夏、施設長が今月着手すべき8つの体制

    • 環境省WBGT速報の毎朝配信(LINE WORKS等で全職員+送迎ドライバー)
    • 送迎車のエアコン継続稼働ルール・ルート見直し・乗車中点呼の明文化
    • 訪問介護員への飲料・経口補水液の現物支給と訪問間隔調整
    • 6月下旬〜7月上旬の暑熱順化プログラム(利用者・職員)の実施
    • 安衛則改正対応として安全衛生マニュアル・就業規則の追記
    • 救急要請判断フロー(4ステップ)の各フロア掲示と全職員研修
    • 労災発生時の初動マニュアル(労基署報告・補償手続き)整備
    • 夜間エアコン28℃以下維持・水分提供量/摂取量/残量の3列記録様式

    編集長・深瀬久博からひとこと

    熱中症の搬送が出るたびに思うのは、「気をつけていなかった施設」ではなく、「去年と同じことをしていた施設」で起きているということだ。

    気候は毎年変わる。法令も変わった(2025年6月の安衛則改正)。職員の年齢構成も、利用者の重度化も、毎年変わっている。同じ対策を続けるという選択は、実は『去年より弱い対策』になっている

    今月、WBGT配信の仕組みを1つ作る。送迎車のエアコンルールを1行書き換える。安全衛生マニュアルに熱中症の項目を1ページ追加する。――その3つで、今夏の搬送リスクは確実に下がります。

    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師