2027年度改定の「基本的な視点」が示された
赤字4割の現実と、5つの視点が意味するもの

2027年度の介護報酬改定に向けた議論は、この春から続いてきました。処遇改善、生産性向上、認知症、多床室の室料負担。個別のテーマごとに論点が出され、施設長としては「結局どうなるのか」が見えにくい状態だったのではないでしょうか。
2026年9月30日、その全体像が示されました。社会保障審議会・介護給付費分科会で、厚生労働省が「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」を提出したのです。
この文書は、4月以降に9回行われた議論と、3回の関係団体との意見交換を踏まえて整理されたものです。言い換えれば、これからの改定論議の「目次」にあたります。今後の議論は、この視点に沿って進みます。
現時点では「案」の段階で、内容は今後変わる可能性があります。ただし、国が何を課題と認識しているかは、はっきり読み取れます。この記事では、資料の中身と、施設長が今から備えておきたいことを整理します。
国は現状をどう見ているか
資料の冒頭で、国は3つの認識を示しています。
認識①:経済状況の変化
ここで、施設長にとって最も重い数字が出てきます。
令和7年度介護事業経営概況調査で、全サービスにおける赤字事業者の割合は約4割。
国はこの状況について、介護サービスは公定価格であり、物価や賃金の上昇によるコストの増加を、事業者が自らサービス価格に反映することは困難だと認めています。そのうえで、経営の安定と、介護人材の確保・定着に向けたさらなる処遇改善が求められるとしています。
一方で、保険料や公費、利用者負担で支えられている制度である以上、安定性と持続可能性の確保も必要だとしています。特に現役世代を中心に、保険料負担の増加への懸念が示されていることにも留意するとしています。
この2つを両立させる方法として挙げられているのが、「報酬の評価の適正化・重点化」と「体系の整理・簡素化」です。
認識②:人口構造の変化
2040年に向けて、医療と介護の両方のニーズを抱える85歳以上の人口が増えます。一方で、高齢化や人口減少の進み方には地域差があり、介護サービスの需要が増える地域と、すでに減り始めている地域に分かれていくと見込んでいます。
2026年6月に成立した改正法で創設された「特定地域サービス」など、中山間・人口減少地域向けの新しい仕組みを確実に機能させることが課題とされています。
また、同じ法律で、生産性向上を推進するための協議会の設置が都道府県の義務になったことにも触れられています。
認識③:地域共生社会と高齢者の安心
認知症や軽度認知障害の高齢者が、65歳以上の約3割を占めることが挙げられています。そのうえで、医療と介護の連携、看取りへの対応、災害や感染症発生時の業務継続、高齢者虐待の防止が必要だとしています。
有料老人ホームの登録制導入にも触れ、サービスの質と運営の透明性の確保が求められるとしています。
示された5つの視点
これらの認識を踏まえ、改定の基本的な視点が5つに整理されました。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| ① 物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善 | 経営状況や賃上げの状況を把握したうえで、物価や賃金の上昇を報酬に適切に反映する。他職種と遜色のない処遇改善を実現し、定着と離職防止の環境を整える |
| ② 人口減少・サービス需要の変化に応じた提供体制の構築 | 地域の実情に応じた体制づくり。「特定地域サービス」が機能するよう、提供のあり方・人員配置基準・報酬を検討。中山間地域の加算の見直しも |
| ③ 地域包括ケアシステムの深化 | 医療との連携、リハビリ、業務継続、虐待防止。認知症の人が役割を果たし社会参加を続けられる環境。有料老人ホームの質と透明性。LIFEを活用した科学的介護 |
| ④ 職場環境の改善と生産性の向上 | 居宅系も含めたAI等のテクノロジー活用、介護助手などへのタスクシフト・シェア。職員の負担を減らし、直接的なケアに注力できる環境づくり |
| ⑤ 制度の安定性・持続可能性の確保 | 限られた財源の有効活用。評価の適正化・重点化と、報酬体系の整理・簡素化 |
施設長が注目すべき3つのポイント
ポイント1:「整理・簡素化」が繰り返し書かれている
資料の中で、「報酬体系の整理・簡素化」という言葉が2か所に出てきます。認識①と、視点⑤です。
加算は改定のたびに増え、要件も複雑になってきました。8月の審議会でも、処遇改善加算とサービス提供体制強化加算をどう考えるかが論点として示されています。
何がどう整理されるかは、まだ分かりません。ただ、今取っている加算の要件が変わる可能性は、頭に入れておく必要があります。特に、算定率が低い加算については、9月の審議会でも「どのように考えるか」が論点になっています。
ポイント2:生産性向上の対象が、施設から居宅系へ広がる
視点④に、「居宅系サービスも含めたAI等の介護テクノロジーの活用」と明記されています。
これまで、見守り機器や介護ロボットの評価は、施設系サービスが中心でした。訪問介護や通所介護を併設している法人にとっては、新たに評価の対象になる可能性があります。
同時に、「介護助手等への業務のタスクシフト/シェア」も繰り返し書かれています。資格を持つ職員が、本来の専門性を発揮できる業務に集中できるよう、周辺業務を切り分ける考え方です。
ポイント3:生み出された時間の使い道まで書かれている
視点④には、見逃せない一文があります。業務の改善や効率化で職員の負担を軽くし、それにより生み出された時間を、直接的な介護ケアの業務に充てることで、サービスの質の確保・向上につなげる、という内容です。
国が求めているのは「人を減らすこと」ではなく、「時間の使い道を変えること」だと読み取れます。生産性向上に取り組んだ結果を問われたとき、「何分減らしたか」だけでなく「その時間を何に使ったか」を説明できるかどうかが、今後の評価の分かれ目になる可能性があります。
今から何をしておくか
改定の具体的な内容が決まるのは、これからです。現時点でできることは限られますが、次の3つは今から着手できます。
1. 自施設の収支の現在地を、数字で把握する
赤字事業者が約4割という数字は、裏を返せば6割は黒字だということでもあります。自施設がどちらなのか、どの部分で収支が動いているのかを、サービスごとに把握しておくことが出発点になります。
10月からは介護経営DB(介護サービス事業者経営情報データベースシステム)の報告受付も再開しています。報告のために資料を整理する作業は、自施設の収支を見直す機会にもなります。
2. 今取っている加算を一覧にしておく
整理・簡素化の議論がどう決着するにせよ、自施設が今どの加算を取っていて、それぞれいくらになっているかを一覧にしておけば、改定内容が出たときにすぐ影響を計算できます。
あわせて、「取れていない加算」とその理由も整理しておくと、要件が緩和されたときにすぐ動けます。
3. 職員の負担軽減の取組を、記録に残す
生産性向上の取組は、2027年4月から委員会の設置が義務になります。何に取り組み、職員の負担がどう変わり、生まれた時間を何に使ったか。この記録は、加算の算定要件としてだけでなく、職員への説明材料としても役立ちます。
「数字が厳しい」からこそ、今いる職員を見る
赤字4割という数字を前にすると、どうしても支出を削る発想になります。しかし、介護施設の支出の中で大きな割合を占めるのは人件費です。そして、人件費を削れば、職員は離れます。
今回の資料で、国が繰り返し使っている言葉があります。「確保・定着」です。人材の確保と、定着。この2つが、ほぼ常に対で書かれています。
職員が1人辞めるたびに、採用費がかかり、残った職員の負担が増え、また次の退職につながる。この連鎖が止まらない限り、どれだけ報酬が改定されても経営は安定しません。
改定の内容が決まるまでの数か月は、制度を待つ時間であると同時に、自施設の足元を整える時間でもあります。今いる職員が働き続けられる職場をつくることは、どの改定内容になっても無駄になりません。
今後、分科会で具体的な方向性が示されたら、情熱介護でも改めてお伝えします。
この記事の出典
- 厚生労働省「第268回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1 令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」(令和8年9月30日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001753962.pdf - 厚生労働省「第268回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76281.html
※本記事は2026年10月時点の審議会資料をもとにしています。資料に示された内容は「案」であり、今後の議論により変わる可能性があります。実際の運用にあたっては、指定権者(都道府県・市区町村)にご確認ください。
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精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者
編集長より
「基本的な視点」という言葉は抽象的で、現場からは遠く感じられるかもしれません。読んでも、明日の夜勤が楽になるわけではありません。
それでも目を通しておく価値があるのは、ここに書かれた言葉が、半年後に加算の要件や基準の文言になって戻ってくるからです。「整理・簡素化」と書かれていれば、何かが減る。「居宅系も含め」と書かれていれば、対象が広がる。先に知っていれば、慌てずに済みます。
赤字4割という数字は重いものです。ただ、この数字を国が認めたうえで議論が始まっている、という事実のほうを見たいと思います。現場の厳しさが、ようやく前提として共有されたところです。
決まるのを待つ間にできることは、自施設の数字を把握しておくことと、今いる職員に目を向けることだけです。遠回りに見えて、これが一番確かな備えになると考えます。