記事一覧へ戻る
    制度・報酬改定 2026.09.16 約8分で読了

    処遇改善加算、2027年度改定の議論が始動
    8月の審議会で示された3つの論点と、施設長が今から備えること

    早朝の施設長室で、窓の外を見ながら机に向かう施設長の後ろ姿
    深瀬久博
    執筆・監修
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    2026年6月の臨時改定で、処遇改善加算は大きく変わりました。対象が介護職員から介護従事者に広がり、生産性向上などに取り組む事業所への上乗せ区分(加算Ⅰロ・Ⅱロ)もできました。届出や職員への説明に追われ、ようやく一段落した施設長も多いのではないでしょうか。

    ところが、国の議論はもう次に進んでいます。2026年8月28日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、2027年度の介護報酬改定に向けた処遇改善の論点が示されました。

    現時点では、何かが決まったわけではありません。ただ、資料を読むと「加算を取っていれば安心」という段階の、その先が問われ始めていることが分かります。この記事では、審議会の資料をもとに、議論の中身と施設長が今から備えておきたいことを整理します。

    8月の審議会で示された3つの論点

    厚生労働省が示した資料「介護人材確保に向けた処遇改善等」の最後には、次の3つの論点が挙げられています。いずれも「どのような方策が考えられるか」「どのように考えるか」という問いかけの形で、結論はまだ出ていません。

    論点1:他職種と遜色のない処遇改善と、離職防止をどう進めるか

    2026年7月に閣議決定された骨太方針2026で、次の介護報酬改定では「他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」とされました。これを踏まえ、処遇改善と離職防止の具体策が問われています。

    論点2:加算の取得が進んだことを踏まえ、処遇改善の考え方をどう整理するか

    2025年12月の審議報告では、「加算Ⅰ及びⅡの取得の進展を踏まえた対応」などの観点から、処遇改善の考え方を整理すべきとされています。あわせて、事業所の事務負担の軽減や、保険料・利用者負担とのバランスも論点になっています。

    論点3:加算の仕組みを、どうシンプルにするか

    改定を重ねるたびに加算の種類が増え、要件も複雑になっています。利用者の分かりやすさと事業所の事務負担軽減の観点から、処遇改善加算とサービス提供体制強化加算をどう考えるかが問われています。

    加算Ⅰ・Ⅱの取得は、すでに8割を超えている

    論点2の背景にあるのが、加算の取得状況です。2026年6月サービス分の算定状況は、次のとおりでした。

    区分全サービス合計特別養護老人ホーム介護老人保健施設認知症グループホーム
    加算Ⅰイ8.3%11.1%11.9%8.6%
    加算Ⅰロ(新設)39.3%69.4%59.0%26.4%
    加算Ⅱイ11.3%4.9%6.7%18.0%
    加算Ⅱロ(新設)25.8%10.9%13.9%35.1%
    加算Ⅲ8.6%2.6%4.9%6.8%
    加算Ⅳ2.6%0.7%2.4%2.0%
    算定率(合計)95.8%99.5%98.8%96.8%

    上位の区分である加算ⅠとⅡを合わせると、全サービスで8割を超え、特養では9割を超えています。

    多くの施設が上位区分を取っている状態では、加算を取っていること自体は、もう他の施設との違いになりません。国が「取得の進展を踏まえた対応」を論点にしているのは、こうした状況を受けてのことだと考えられます。

    それでも、全産業との賃金差は残っている

    取得が進む一方で、賃金の差は埋まっていません。

    項目金額(賞与込み・月額換算)
    介護職員31.4万円
    全産業平均(役職者を除く)39.6万円

    ※厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」をもとにした審議会資料より

    加算を取っている施設で見ても、介護職員の基本給等の伸びは、令和6年9月から令和7年7月までで月6,130円(2.5%)でした。一方、2026年の春季労使交渉では、全体の賃上げ率が5.01%と3年連続で5%を超えています。

    介護分野の賃上げが進んでも、他の産業も上がり続けているため、差が縮まりにくい構造があります。

    審議会で出た「職場環境等要件」への意見

    処遇改善加算には、賃金だけでなく職場環境等要件(職場環境の改善に関する取組を行うことを求める要件)があります。

    8月の審議会では、委員から、この要件の中には処遇改善と職場定着の関係が科学的に説明できない項目も含まれており、見直しの余地があるのではないかという意見が出たと報じられています。

    国の調査で、職場環境等要件の各項目がどれくらい実施されているかを見ると、項目によって大きな差があります(令和7年7月時点)。

    実施率が高い項目実施率
    ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化92.1%
    事故・トラブルへの対応マニュアル等の整備88.9%

    一方で、実施率が5割を下回る項目もあります。

    実施率が低い項目実施率
    エルダー・メンター制度等の導入47.9%
    事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修の制度構築49.1%
    介護ロボットやインカム等のICT機器の導入49.6%

    「実施している」と答えることと、それが本当に職員の定着につながっていることは、別の話です。要件が見直されるかどうかは今後の議論次第ですが、自施設の取組が形だけになっていないかを確認しておく価値はあります。

    職員が辞める理由は、賃金だけではない

    処遇改善を考えるうえで、見落とせないデータがあります。介護労働安定センターの調査で、介護の仕事を辞めた人に理由を聞いた結果です(複数回答)。

    1. 職場の人間関係に問題があったため(27.3%)

    2. 勤務先の事業理念や運営のあり方に不満があったため(21.0%)

    3. 他に良い仕事・職場があったため(17.2%)

    4. 収入が少なかったため(15.7%)

    5. 結婚・妊娠・出産・育児のため(14.0%)

    「収入」は4位でした。賃金は大切ですが、辞める理由の上位は人間関係や運営のあり方です。

    同じ調査で、事業所が「職場定着に効果があった」と答えた方策は、次のとおりです(主なものを3つ回答)。

    1. 有給休暇等の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり(43.6%)

    2. 人間関係が良好な職場づくり(40.5%)

    3. 職場内での仕事上のコミュニケーションの円滑化(面談、ミーティング、意見交換会など)(32.3%)

    4. 賃金水準の向上(31.7%)

    ここでも、賃金は4位です。休みの取りやすさ、人間関係、日々のコミュニケーションが上位に並んでいます。

    施設長が今から備えておきたい3つのこと

    1. 賃上げが「職員に伝わっているか」を確認する

    6月の臨時改定で賃金を上げても、職員が「上がった」と実感していなければ、定着への効果は限られます。何の加算で、いくら、どの職種に配分したのかを、職員に分かる形で説明できているか。改定の議論が進む前に、足元を確認しておくことをおすすめします。

    2. 職場環境等要件の取組を「中身」で見直す

    加算の区分を取るために取組を「実施」していても、職員がその効果を感じていなければ意味がありません。たとえば「ミーティングを開いている」なら、そこで出た職員の意見が実際に何か変わることにつながっているか。取組の数ではなく、中身を確認する視点が大切です。

    なお、加算Ⅰ・Ⅱを取っている事業所には、職場環境等要件の具体的な取組内容を、介護サービス情報公表システム等で公表することが求められています。取組の中身は、求職者や関係機関からも見られるものになっています。

    3. 「賃金以外の辞める理由」に手を打つ

    処遇改善の財源が限られる中で、賃金だけで他産業に追いつくのは簡単ではありません。一方、辞める理由の上位にある人間関係や運営への不満、休みの取りにくさは、施設の工夫で変えられる部分が大きい領域です。

    「加算を取る」から「職員が辞めない理由をつくる」へ

    処遇改善加算は、多くの施設にとって「取っていて当たり前」の制度になりつつあります。だからこそ、2027年度改定に向けて問われるのは、加算で得たお金と取組を、本当に職員が働き続けたいと思える職場づくりにつなげられているかだと考えます。

    職員が辞めるたびに採用コストをかけ、残った職員の負担が増える。その流れを変えるのは、加算の区分そのものではなく、日々の職場の中身です。

    採用で穴を埋め続けるより、今いる職員が続けられる理由をつくる。今回の議論は、その視点で自施設を見直すきっかけになるはずです。

    今後、分科会で具体的な方向性が示されたら、情熱介護でも改めてお伝えします。

    この記事の出典

    ※資料1には、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、介護労働安定センター「令和7年度介護労働実態調査」、令和7年度老人保健健康増進等事業「介護職員等の職場環境や処遇に関する実態調査結果」等のデータが掲載されています。

    ※本記事は2026年9月時点の審議会資料をもとにしています。制度の内容は今後の議論で変わる可能性があります。加算の算定については、指定権者(都道府県・市区町村)にご確認ください。

    深瀬久博
    この記事を書いた人
    深瀬 久博(情熱介護 編集長)
    重度認知症デイケアでの臨床経験を経て、大手有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の管理者を歴任。現在は介護現場の管理職・経営層に向けた研修講師として全国に登壇。
    精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    関連記事

    【無料】制度改正の要点と、現場で使える対応策を、月2回お届けします。

    売り込みのメールは送りません。施設運営に役立つ情報だけをお届けします。

    メールで受け取る