【2027年4月完全義務化】協力医療機関が見つからない施設のための交渉ガイド
3要件の分解・断られたときの代替設計・確保計画の書き方
残り8か月。すでに確保できている施設には不要な記事です。読んでいただきたいのは、地域に候補が少ない施設、既存の嘱託医が高齢で新体制を組めない施設、複数の病院に断られている施設です。3要件を交渉可能な単位に分解します。

協力医療機関の義務化について、制度の説明はもう十分に出回っています。3つの要件、届出のルール、経過措置の期限。どの解説記事にも同じことが書かれています。
書かれていないのは、「探したけれど、引き受けてくれる医療機関がない」という状態のときにどうするかです。
残り8か月です。すでに確保できている施設は、この記事を読む必要がありません。読んでいただきたいのは、地域に候補が少ない施設、既存の嘱託医が高齢で新しい体制を組めない施設、複数の病院に断られている施設です。
この記事では、3要件を「交渉可能な単位」に分解したうえで、断られたときにどう組み替えるかを扱います。
本記事は、令和6年度介護報酬改定に伴う各サービスの人員、設備及び運営に関する基準の改正、および厚生労働省が公表する関連通知・Q&A等を基にしています。
要件の詳細な解釈、届出の様式、確保計画の記載内容は、指定権者(都道府県・指定都市・中核市)ごとに運用が異なります。また、制度の解釈は通知やQ&Aによって追加・更新される場合があります。実際の対応にあたっては、必ず自施設の指定権者にご確認ください。
01 いま確認すべきこと:期限と対象
期限
経過措置は2027年3月31日までです。それまでは努力義務、2027年4月1日から完全義務化されます。
つまり、残された期間は約8か月です。
対象となる施設
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、認知症対応型共同生活介護などが対象です。自施設が該当するかは、指定権者に確認してください。
求められる3つの要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 相談体制 | 入所者の病状が急変した場合等に、医師または看護職員が相談対応を行う体制を常時確保 |
| ② 診療体制 | 診療の求めがあった場合に、診療を行う体制を常時確保 |
| ③ 入院受入 | 入所者の病状の急変時等において、入院を要すると認められた場合に原則入院できる体制の確保 |
この3つを、必ずしも1つの医療機関がすべて満たす必要はありません。ここが交渉の出発点になります。
届出も義務です
年1回以上、協力医療機関と急変時の対応を確認し、その内容と医療機関の名称を指定権者に届け出る必要があります。名称や契約内容に変更があった場合も、速やかな届出が求められます。
そして重要な点として、経過措置期間中に要件を満たす医療機関を確保できていない場合は、「確保計画」を併せて届け出ることとされています。
後述しますが、この確保計画が、確保できていない施設にとっての現実的な着地点になります。
02 誤解の整理:ハードルは思っているより低い
交渉に入る前に、要件を過大に解釈していないかを確認してください。過大解釈が、交渉を難しくしている場合があります。
誤解① 「常時、往診に来てもらう必要がある」
要件②の「診療を行う体制を常時確保」について、厚生労働省はQ&Aで、常時の往診可能性体制までは求めていないという考え方を示しています。
つまり、24時間いつでも医師が駆けつける契約を結ぶ必要はありません。この点を誤解したまま交渉すると、医療機関側も過大な負担を想定して断ります。
交渉の場では、「求めているのは常時の往診体制ではありません」と最初に伝えてください。それだけで話が進むことがあります。
誤解② 「3要件すべてを1病院に頼まなければならない」
複数の医療機関で分担して要件を満たすことが可能です。
- 相談体制:在宅療養支援診療所A
- 診療体制:在宅療養支援診療所A
- 入院受入:地域の中核病院B
この組み合わせで問題ありません。入院受入だけを大きな病院にお願いし、日常の相談・診療は近隣のクリニックに、という設計は十分に成立します。
1つの病院にすべてを求めるから断られる、というケースが相当数あります。
誤解③ 「協力医療機関=嘱託医」
別のものです。嘱託医は、施設から委嘱されて入所者の健康管理や定期診察を行う医師で、多くは個人との業務委託契約です。
協力医療機関は、急変時の相談・診療・入院受入を担う「医療機関」との連携体制です。
嘱託医がいるから要件を満たしている、とは限りません。嘱託医が所属する医療機関が3要件を満たせるかどうかを、改めて確認してください。
誤解④ 「薬局や訪問看護ステーションは関係ない」
協力医療機関との連携とは別に、薬局や訪問看護ステーション等との連携も妨げられません。急変時の体制全体を設計するうえでは、これらも視野に入れてください。
03 交渉の実務:どこに、どう頼むか
ステップ1:候補のリストアップ(1週間)
以下の順で候補を洗い出します。
| 優先度 | 候補 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 在宅療養支援病院・在宅療養支援診療所 | 介護保険施設の求めに応じて協力医療機関となる努力義務が課されています |
| 2 | 地域包括ケア病棟を持つ病院 | 同上 |
| 3 | 現在の嘱託医の所属先 | 既に関係がある |
| 4 | 入所者の主治医が所属する医療機関 | 既に関係がある |
| 5 | 過去に入院を受け入れてもらった実績のある病院 | 実績が交渉材料になる |
1と2が最重要です。これらの医療機関には診療報酬上の関連する規定があり、施設側から求められれば応じる努力義務があります。この事実を知らずに交渉している施設長が多くいます。
ステップ2:要件を分解して打診する(2週間)
3要件をまとめて打診しないでください。分けて打診します。
打診の順序は以下を推奨します。
- 入院受入だけを、中核病院・在宅療養支援病院に打診
- 相談体制と診療体制を、在宅療養支援診療所・近隣クリニックに打診
- 両方引き受けてくれる医療機関があれば、そこにまとめる
「3つ全部お願いできますか」は、最も断られやすい聞き方です。
ステップ3:相手の負担を具体的に示す
医療機関が断る最大の理由は、負担の見通しが立たないことです。
打診の際、以下を数字で示してください。
| 示すこと | 具体例 |
|---|---|
| 入所者数と平均要介護度 | 「100床、平均要介護度3.8」 |
| 過去1年の救急搬送件数 | 「12件。うち入院に至ったのは7件」 |
| 過去1年の夜間の医療相談件数 | 「月平均2〜3件」 |
| 施設内の看護体制 | 「日勤帯は看護師2名常駐、夜間はオンコール」 |
| 求めていないこと | 「常時の往診体制は求めていません」 |
過去の実績を示すことが最も効きます。「年に7件の入院」と「毎日呼び出されるかもしれない」では、相手の受け止め方がまったく違います。
多くの施設が、この数字を用意せずに交渉に行っています。まず自施設の1年分の搬送・入院・夜間相談の件数を集計してください。これはカルテと記録から今日出せます。
ステップ4:断られた場合の記録
断られたら、日付・医療機関名・断られた理由を記録してください。
これは確保計画に必要になります。「探したが見つからなかった」ではなく、「◯月◯日にA病院、◯月◯日にB診療所に打診し、それぞれ□□の理由で不可となった」という記録が、計画の説得力を左右します。
04 確保できない場合:確保計画という着地点
確保計画とは
経過措置期間中に要件を満たす医療機関を確保できていない場合、確保計画を届け出ることとされています。
つまり、2027年4月時点で確保できていない施設に対して、制度は完全な行き止まりを用意しているわけではありません。ただし、計画の提出は義務であり、提出しないことは許容されません。
記載すべき内容
指定権者ごとに様式が異なるため、必ず確認が必要ですが、一般に以下が求められます。
- 現在の連携状況(どの要件が満たせていて、どれが満たせていないか)
- これまでの打診の記録(日付・医療機関・結果・理由)
- 今後の確保に向けた具体的な取組と時期
- 確保できるまでの間の代替的な急変時対応体制
4行目を書けるかどうかが、計画の質を決めます。「引き続き探します」だけでは計画になりません。
代替的な対応体制の例
- 夜間オンコールの看護師配置と、その連絡フロー
- 救急要請の判断基準の明文化と、職員への周知
- 入所者ごとの事前の意思確認(急変時の搬送希望・かかりつけ医の情報)
- 近隣の救急告示病院への事前情報提供
これらは協力医療機関がなくても、施設単独で整備できます。そして整備した事実そのものが、次の交渉での材料になります。
早めに指定権者に相談してください
確保が難しい状況にあるなら、期限直前ではなく今のうちに指定権者に相談してください。
地域全体で協力医療機関が不足している場合、それは1施設の努力では解決しません。自治体が地域の医療機関に働きかけたり、複数施設をまとめて調整したりする余地があります。
相談した記録自体が、確保計画の裏付けになります。
05 見落とされる論点:職員の負担で埋めていませんか
ここまで制度と交渉の話をしてきました。最後に、別の角度から1点だけ。
協力医療機関が確保できていない施設で、実際に起きていることがあります。夜間の急変対応を、看護職員の個人的な判断と責任で回していることです。
具体的には、こういう状態です。
- オンコールの看護師が、搬送するかどうかを1人で判断している
- 判断が間違っていた場合の責任が、その看護師個人に向く空気がある
- 「あの人は救急車を呼びすぎる」という評価が施設内で共有されている
- 逆に「呼ばなかったせいで悪化した」と後から言われることもある
- オンコール手当は出ているが、金額は判断の重さに見合っていない
この状態が続くと、看護職員が辞めます。
そして看護職員が辞めると、人員基準に直結します。特養であれば入所者数に応じた看護職員の配置が必要で、欠けた場合の影響は介護職員より深刻です。
協力医療機関の確保は、定着の問題でもあります
「相談体制を常時確保」という要件を、制度対応として見ると、届出書類の話になります。
現場の視点で見ると、これは「夜中に1人で判断しなくてよくなる」ということです。
医師に電話して「様子を見て大丈夫です」と言われるだけで、その夜の責任は個人から組織に移ります。この差は、実務上きわめて大きいものです。
交渉が難航している施設ほど、「これは看護職員を守るための交渉だ」という位置づけで進めてください。社内での優先順位が変わりますし、交渉相手の医療機関にもその趣旨は伝わります。
夜間対応の負荷が管理者に集中する構造については「もう限界です」と言えない管理者へ、急変が事故に転じた場合の対応は介護事故の初動72時間ガイドで扱っています。また、看護職員の欠員が報酬に与える影響は人員基準欠如減算は「1人辞めた」では終わらないで整理しています。
06 8か月のスケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 2026年8月 | 自施設の現状確認(3要件のどれが満たせているか)/過去1年の搬送・入院・夜間相談の件数を集計 |
| 2026年8月 | 候補医療機関のリストアップ(在宅療養支援病院・診療所を優先) |
| 2026年9〜10月 | 要件を分解して打診。断られた場合は日付・理由を記録 |
| 2026年11月 | 確保の見込みを判断。難しければ指定権者に相談 |
| 2026年12月 | 契約書・協定書の作成、または確保計画の作成着手 |
| 2027年1〜2月 | 届出。あわせて年1回の急変時対応の確認を実施 |
| 2027年3月 | 職員への周知(急変時の連絡フロー・判断基準) |
| 2027年4月 | 完全義務化 |
8月中に済ませるべきは、上2行だけです。現状確認と数字の集計。ここが終われば、交渉は具体的に進みます。
この記事の出典
- 令和6年度介護報酬改定に伴う運営基準の改正(厚生労働省令)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」
- 各指定権者が定める協力医療機関の届出要領
協力医療機関の交渉で、私が最初に持っていったのは施設のパンフレットでした。断られました。当然だったと思います。相手が知りたいのは施設の理念ではなく、どれくらい呼ばれるのかでした。
次に持っていったのは、1年分の搬送記録でした。年に7件でした。「それなら」と言われました。同じ病院です。
制度が始まるから探す、では交渉になりません。相手にとっての負担の大きさを、こちらが先に把握していることが、話の入口になります。
情熱介護 編集長 深瀬 久博
最終更新:2026年8月13日 / 情熱介護編集部