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    定着・組織づくり 2026.08.13 約12分で読了

    介護職員が、自分の親の介護で辞めていく
    介護施設が最も対応できていない「両立支援」の空白

    介護施設で働く職員が、自分の親の介護を理由に退職する。皮肉な話ですが、多くの施設で「仕方のないこと」として処理されています。介護のプロが集まる職場が、介護離職に最も無防備である。その構造と対策を扱います。

    更衣室でスマートフォンを確認する介護職員
    深瀬久博
    執筆・監修
    深瀬 久博 / 情熱介護 編集長
    精神保健福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士・認知症ケア専門士・産業ケアマネ(3級)・ストレスチェック実施者

    介護施設で働く職員が、自分の親の介護を理由に退職する。

    これほど皮肉な話はないのですが、実際に起きています。しかも、多くの施設で「仕方のないこと」として処理されています。

    両立支援について書かれた記事は数多くあります。ただ、そのほとんどは一般企業向けです。介護施設自身が、自らの職員の介護離職にどう向き合うかを扱ったものは、ほとんど見当たりません。

    介護のプロが集まる職場が、介護離職に最も無防備である。この記事では、その構造と対策を扱います。

    本記事の前提

    本記事は、育児・介護休業法および同法に基づく事業主の義務、厚生労働省が公表する両立支援に関する資料等を基にしています。

    法定の義務内容・対象労働者の範囲・手続きの詳細は、法改正により変更される場合があります。また、就業規則への反映方法や個別の労使協定については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。実際の制度整備にあたっては、厚生労働省および都道府県労働局の最新の公表資料をご確認ください。

    01 なぜ介護施設で、この問題が見えなくなるのか

    理由① 「プロなんだから」という無言の前提

    介護職員が親の介護に直面したとき、周囲はこう考えます。「あの人は専門家だから、うまくやれるだろう」。

    本人も、そう思われていることを知っています。だから相談しません。介護のプロが自分の親の介護で困っていると言い出すのは、想像以上に高いハードルです。

    さらに、本人自身が「自分は分かっているはずだ」と思い込みます。制度の知識があることと、実際に自分の親の介護を回せることは、まったく別です。

    理由② 制度を知っていることが、逆に相談を遠ざける

    介護職員は、介護保険サービスの内容を知っています。ケアマネジャーの探し方も、施設の種類も、要介護認定の流れも分かっています。

    だから「制度が分からなくて困っている」という相談の形を取れません。

    実際に困っているのは、制度ではありません。時間です。夜勤明けに実家に通う、日勤の後に病院に付き添う、シフトを調整しながらケアマネとの面談時間を作る。この物理的な不可能さは、知識では解決しません。

    理由③ シフト制が、柔軟な働き方を許さない

    一般企業なら、在宅勤務や時差出勤で調整できる場面があります。介護現場では、その場にいなければ仕事が成立しません。

    介護のための時短勤務を申し出ると、シフトが組めなくなります。「夜勤に入れない人がいると回らない」という現実が、制度の利用を実質的に封じます。

    理由④ 退職理由が「家庭の事情」で処理される

    そして最後に、この問題は記録に残りません。

    退職理由の欄には「家庭の事情」と書かれます。施設長は、それが親の介護だったことを知らないまま次の採用活動に入ります。

    02 法律上、施設が果たすべき義務があります

    ここは事実の確認です。介護施設も一事業主であり、育児・介護休業法上の義務を負います。

    主な制度

    制度概要
    介護休業対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割取得可能
    介護休暇対象家族1人につき年5日(2人以上なら年10日)。時間単位での取得が可能
    所定外労働の制限請求があれば残業をさせてはならない
    時間外労働の制限1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働の制限
    深夜業の制限請求があれば深夜業をさせてはならない
    所定労働時間短縮等の措置短時間勤務、フレックス、始業終業時刻の繰上げ繰下げ等から選択して措置

    「深夜業の制限」は、介護施設にとって最も影響が大きい項目です。請求されれば、その職員を夜勤に入れることができません。

    事業主に課される義務

    近年の法改正により、事業主には両立支援に関する周知・意向確認や、雇用環境の整備が求められるようになっています。具体的には、介護に直面した旨の申出をした労働者への個別周知と意向確認、一定の年齢に達した労働者への情報提供、研修や相談窓口の設置といった環境整備が含まれます。

    義務の詳細な内容と施行時期は、必ず厚生労働省および都道府県労働局の最新資料でご確認ください。

    実務上の要点

    法律の細部より、施設運営上重要なのは次の点です。

    制度を用意していても、使われなければ意味がありません。そして介護現場では、制度があっても使われない構造があります。次章がその話です。

    03 制度があっても使われない理由

    「夜勤に入れないなら、迷惑をかける」

    深夜業の制限を請求する権利があることを、職員が知っていたとします。それでも請求しません。

    理由は明確です。夜勤に入れる職員が限られているからです。

    1人が夜勤から外れると、その分は他の職員が負担します。誰にしわ寄せがいくかを、本人が一番よく分かっています。だから請求しません。

    これは制度の問題ではなく、シフトの問題です。1人抜けたときに何が起きるかは人員基準欠如減算は「1人辞めた」では終わらないで詳しく扱っています。

    「93日で足りるわけがない」

    介護休業は通算93日です。この日数は、介護を自分で担うための期間ではなく、介護体制を整えるための期間として設計されています。

    ただし、現場の職員はそう受け取りません。「3か月休んでも、その後どうするのか」と考えて、最初から使わない選択をします。

    この誤解を解いていない施設が多数あります。93日は「介護のための休み」ではなく「サービスを手配し、ケアマネと体制を組み、家族間で役割分担を決めるための時間」です。この説明があるかないかで、利用率が変わります。

    「言ったら辞めさせられる」

    制度利用の申出が、そのまま退職勧奨に近い扱いを受けた事例を、職員は業界内の噂として知っています。

    申し出た人がどう扱われたか。それが、次に困る人の行動を決めます。申し出にくい職場の構造については現場の空気が、重い|介護現場の心理的安全性を取り戻す7つの実践で整理しています。

    04 施設長がやるべき6つのこと

    ① 退職理由を「家庭の事情」で止めない

    退職の申出を受けたとき、踏み込んで理由を聞いてください。

    聞き方は「どうして辞めるんですか」ではありません。「もし条件が変えられるとしたら、どこですか」です。

    前者は詰問に聞こえます。後者は、まだ交渉の余地があるという意思表示になります。

    そして、親の介護が理由だった場合は記録に残してください。記録がなければ、施設として何人失っているのかが分かりません。退職理由の掘り下げ方は介護職が3ヶ月で辞める本当の理由も参考になります。

    ② 「夜勤に入れない期間」を制度として設計する

    深夜業の制限を「請求されたら対応する」ではなく、あらかじめ枠として持っておいてください。

    具体的には、

    • 常時、夜勤免除の枠を2名分確保しておく
    • その枠は、育児・介護・持病・その他の事由で使える共通枠とする
    • 使用期間の上限と、更新の手続きを明文化する

    「介護のための特別扱い」にしないことが重要です。共通枠にすることで、申し出るハードルが下がります。

    ③ 夜勤者への還元を設計する

    ②を実現するには、夜勤に入る職員の納得が必要です。

    夜勤免除枠を作れば、その分の夜勤は他の職員が担います。この負担に対して何も返さなければ、今度は夜勤をしている職員が辞めます。

    • 夜勤手当の水準を見直す
    • 夜勤回数の上限を明文化する(免除枠があっても、上限は超えない)
    • 夜勤明けの勤務間インターバルを確保する

    免除枠と還元設計は、セットでしか成立しません。片方だけだと、負担の付け替えになります。

    ④ 介護休業を「体制構築のための期間」として説明する

    制度の説明時に、必ずこの一文を入れてください。

    「介護休業は、ご自身が介護をするための休みではありません。サービスを手配し、ケアマネジャーと体制を作り、ご家族で役割を決めるための期間です」

    そのうえで、施設として支援できることを具体的に示します。

    • ケアマネジャーの探し方の相談に乗る
    • 要介護認定の申請手続きについて助言する
    • 職員の親御さんが住む地域の地域包括支援センターの情報を提供する

    施設にはこの知識があります。使わない手はありません。

    ⑤ 相談窓口を、直属の上司以外に置く

    直属の上司に相談すると、シフトへの影響を最初に考えられます。それが分かっているから、相談しません。

    シフトの責任を負わない人が相談を受ける形にしてください。事務長、法人本部の人事、外部の相談窓口など、選択肢はあります。相談を受ける側の負荷については「もう限界です」と言えない管理者へも併せて確認してください。

    ⑥ 40代以上の職員に、先に情報を届ける

    介護は突然始まります。始まってから調べる余裕はありません。

    40代以上の職員に対して、年1回でよいので情報提供の機会を設けてください。内容は以下で十分です。

    • 施設で使える制度の一覧(介護休業・介護休暇・時短・夜勤免除)
    • 相談先(誰に、どう伝えるか)
    • 制度を使った職員が、その後どうなったか(実例があれば)

    3行目が最も効きます。制度の存在より、使った人がどう扱われたかを、職員は見ています。

    05 この対応が、採用にも効きます

    ここは経営の話です。

    介護経験者を採用できる可能性

    家族の介護を経験した人は、介護職への理解が深く、離職後の再就職先として介護業界を選ぶことがあります。

    両立できる職場であることを明示している施設は、この層を取り込めます。逆に、両立支援が機能していない施設は、この層を最初から失っています。

    求人票に書けることが増えます

    • 夜勤免除枠の存在
    • 介護休暇の時間単位取得
    • 相談窓口の設置

    これらは費用をほとんどかけずに整備でき、求人票に具体的に書けます。「アットホームな職場です」より遥かに強い訴求です。

    定着の構造そのものは変わりません

    ここまで介護離職の話をしてきましたが、対策の中身を見ると、実は特殊なことは何もありません。

    • 負担が特定の人に集中しない仕組み
    • 申し出ても不利益を受けない環境
    • 制度が形式ではなく実際に使える状態

    これは、あらゆる離職要因に共通する対策です。介護離職への対応は、施設全体の定着設計の一部として位置づけてください。

    06 今月から着手できること

    時期やること所要
    今月過去2年の退職者について、理由を再確認。親の介護が関係していた人数を把握2時間
    今月就業規則に介護関連の規定が漏れなく反映されているか確認2時間
    来月夜勤免除枠の設計(枠数・対象事由・期間・手続き)5時間
    来月夜勤者への還元設計(手当・上限回数・インターバル)5時間
    再来月相談窓口の設置と周知3時間
    再来月40代以上の職員への情報提供の機会を設定3時間

    1行目から始めてください。人数が分からないうちは、優先順位をつけられません。

    過去2年で1人もいなければ、この問題の優先度は下げて構いません。3人以上いたら、採用より先に手を付けるべき領域です。

    この記事の出典

    • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)
    • 厚生労働省「介護離職を予防するための両立支援対応モデル」
    • 厚生労働省「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」
    • 各都道府県労働局の関連資料
    編集長メッセージ

    職員から「母の介護があるので」と言われたとき、私は「大変だね」と言いました。それだけでした。

    相手は介護福祉士でした。私は、その人なら分かっているだろうと思っていました。制度も、サービスも、施設の探し方も。

    辞めたあとに聞いたのは、ケアマネジャーとの面談の時間が作れなかった、ということでした。知識の問題ではありませんでした。日勤の後に実家まで2時間、それを続けられなかった。ただそれだけのことでした。

    私が言うべきだったのは「大変だね」ではなく、「面談はいつですか」だったのだと思います。

    情熱介護 編集長 深瀬 久博

    深瀬久博
    深瀬 久博
    情熱介護 編集長 / 介護現場マネジメント講師

    最終更新:2026年8月13日 / 情熱介護編集部

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