「身元保証人がいません」と言われたとき、施設長は何を判断するのか
入所拒否が不適切とされる理由と、保証人に頼らない体制の作り方
「入所希望の方ですが、身元保証人がいないそうです」。この報告に対する判断は、多くの場合ほぼ自動的です。ただ、その判断には2つの問題があります。1つは、それが不適切とされていること。もう1つは、断り続けることが施設の経営を締め上げていることです。

相談員から報告が上がります。「入所希望の方ですが、身元保証人がいないそうです」。
このとき施設長が下す判断は、多くの場合ほぼ自動的です。「では難しいですね」。
ただ、この判断には2つの問題があります。1つは、それが不適切とされていること。もう1つは、断り続けることが施設の経営を締め上げていることです。
身元保証について検索すると、出てくるのは身元保証会社の解説記事ばかりです。それらは「入居したい高齢者側」に向けて書かれており、施設側が何をどう判断すべきかは書かれていません。
この記事は、施設側の視点で整理します。
本記事は、内閣官房ほか関係省庁「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(令和6年6月)、総務省行政評価局「身元保証等高齢者サポート調整に関する調査結果報告書」(令和5年8月)、および厚生労働省の関連通知等を基にしています。
個別の契約内容、成年後見制度の適用、債権回収の可否など、法的判断を伴う事項については、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。本記事は法的助言ではありません。
01 まず事実の確認:保証人なしの入所拒否は不適切です
国の見解
内閣官房ほか関係省庁が策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」には、次の趣旨が明記されています。
医療機関・介護保険施設等は、正当な理由なくサービス提供を拒否することはできず、入院・入所の際に、身元保証人等がいないことのみを理由に入院・入所を拒むことは不適切である。
厚生労働省も、身元保証人がいないことのみを理由に入院や入所を拒むことがないよう、都道府県に対して通知を発出しています。
「のみを理由に」という部分が重要です。他に正当な理由がある場合まで受け入れが強制されるわけではありませんが、保証人の不在を単独の理由とすることは想定されていません。
それでも、現実はこうです
総務省行政評価局の調査では、病院や高齢者向け介護施設の9割以上が入院・入所の際に身元保証人を求めており、そのうち2割以上は、身元保証人が用意できなければ入所を断ると回答しています。
つまり、国の見解と現場の運用は乖離しています。
この記事は、施設を責めるために書いていません。施設が保証人を求めるのには理由があります。その理由を1つずつ解体して、代替手段を組み立てるのがこの記事の目的です。
02 なぜ保証人を求めるのか:機能を4つに分解する
「身元保証人」という言葉は、実は複数の異なる機能を1つにまとめた便宜的な呼称です。施設が本当に必要としているのは、この4つのうちのいずれかです。
| 機能 | 内容 | 保証人以外の担い手 |
|---|---|---|
| ① 緊急時の連絡先 | 急変時・事故時に連絡が取れる相手 | ケアマネジャー、成年後見人、地域包括支援センター |
| ② 医療同意・意思決定支援 | 治療方針の相談相手 | 法的には誰も代行できません(後述) |
| ③ 利用料の支払保証 | 滞納時の請求先 | 成年後見人による財産管理、口座振替、生活保護 |
| ④ 死後事務 | 遺体・遺品の引取り、退所手続き | 死後事務委任契約、成年後見人、市町村 |
この4つを分けて考えることが、判断の第一歩です。
多くの施設は「身元保証人がいない=4つ全部が欠ける」と受け取っています。実際には、それぞれ別の手段で埋められます。
②についての注意
医療同意は、家族であっても法的な代諾権はありません。成年後見人にも医療同意権はないとされています。
つまり、身元保証人を立てたところで、この機能が法的に満たされるわけではないのです。実務上は本人の意思確認とACP(人生会議)による事前の意思表示が中心になります。
「保証人がいないと医療同意が取れない」という理由づけは、法的には成立しません。急変時に医療機関へつなぐ体制そのものは、協力医療機関が見つからない施設のための交渉ガイドで扱っています。
03 機能ごとの代替手段
① 緊急時の連絡先
最も代替しやすい機能です。
- 成年後見人・保佐人・補助人:選任されていれば連絡先になります
- ケアマネジャー:日常的に本人と接しており、状況を把握しています
- 地域包括支援センター:単身高齢者の支援実績があります
- 高齢者等終身サポート事業者:契約により対応します
入所前に「誰に、どの順番で連絡するか」を書面で確定させておけば、機能としては満たされます。事故や急変が起きた際の連絡順序については介護事故の初動72時間ガイドも併せて確認してください。
② 意思決定支援
前述のとおり代行者は存在しません。したがって、本人の意思を事前に確認して記録することが唯一の実務的な対応です。
入所時に確認すべき項目は以下です。
| 確認項目 | 記録の形 |
|---|---|
| 急変時に救急搬送を希望するか | 書面。本人署名 |
| 延命治療についての考え | 書面。定期的な見直し |
| かかりつけ医と過去の病歴 | 診療情報提供書 |
| 判断能力が低下した場合に相談してほしい相手 | 氏名・連絡先 |
これは保証人がいる入所者にも本来必要な確認です。保証人がいることで、この確認を省略している施設は少なくありません。
③ 利用料の支払
施設が最も懸念するのがここです。実務的な対応は3つあります。
成年後見制度の活用
判断能力が不十分な場合、成年後見人が財産管理を行います。申立ては本人・配偶者・四親等内の親族のほか、身寄りがない場合には市町村長が行うことができます。
「親族がいないから後見人を立てられない」ということはありません。市町村長申立てという制度があることを、相談員が知らないケースがあります。
生活保護との連携
資力が乏しい場合、生活保護の介護扶助・住宅扶助等が適用されます。福祉事務所との連携により、利用料の確保は可能です。
口座振替と早期の異常検知
滞納が発生してから動くのではなく、振替不能が発生した月のうちに把握できる仕組みを作ってください。1か月で気づけば対応できますが、3か月放置すると回収が難しくなります。
④ 死後事務
- 死後事務委任契約:本人が生前に事業者や専門職と契約
- 成年後見人:一定の範囲で死後事務を行うことができます
- 市町村:引取り手のない遺体については、墓地埋葬法等に基づく対応があります
「亡くなったときに誰も来ない」という状態は、施設にとって重い負担です。ただし、これは入所を断る理由ではなく、入所前に取り決めておく事項です。
04 高齢者等終身サポート事業者について
保証人がいない高齢者の受け皿として、民間の終身サポート事業者があります。ただし、施設として推奨する際には注意が必要です。
ガイドラインが策定された背景
令和6年6月、内閣官房ほか関係省庁が「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定しました。策定の背景には、この分野の契約に固有のリスクがあります。
ガイドラインでは、こうしたサービスについて、契約が長期にわたること、サービス提供に先行して費用が前払いされるため契約内容の適正な履行を確認しにくいこと、判断能力の低下が懸念される高齢者を主な対象としているため契約者の意思能力をめぐって事後的に争いが生じる可能性があることなどが指摘されています。
そのうえで、一般的な契約に比べて利用者保護の必要性が高いとされています。
施設が確認すべきこと
事業者を紹介・推奨する場合、以下を確認してください。
- ガイドラインに沿った契約書の交付・重要事項の説明があるか
- 前払金の保全措置があるか
- 契約内容と料金の内訳が明示されているか
- 解約時の返金条件が明確か
- 本人の意思能力について、どのように確認しているか
入会金が100万円を超える事業者もあります。施設が特定の事業者を紹介したことで、後にトラブルの当事者として巻き込まれるリスクを避けてください。
推奨するのではなく、複数の選択肢を情報提供する。この形が安全です。
05 経営の観点:断り続けることのコスト
ここまで制度と実務の話をしました。ここからは経営の話です。
単身高齢者は増え続けます
身寄りのない高齢者、家族がいても身近に頼れる人がいない高齢者の増加は、国の資料でも繰り返し指摘されています。
保証人を必須とする運用を続ける施設は、対象となる入所希望者の母集団を、自ら縮小し続けることになります。
稼働率への影響
特養であれば待機者がいるため、当面は影響が出にくいかもしれません。ただし、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、老健の在宅復帰後の受け皿としては、既に影響が出ています。
保証人不要を打ち出している施設に、ケアマネジャーからの紹介が集中する構造が生まれています。
差別化の余地があります
9割以上の施設が保証人を求め、2割以上が保証人なしでは断っている状況です。逆に言えば、体制を整えた施設には競合が少ないということです。
「保証人がいなくても相談に応じます」と明示し、実際に受け入れ実績を作れば、地域包括支援センターとケアマネジャーからの紹介経路が変わります。これは広告費をかけずに得られる差別化です。
ただし、体制を作らずに受け入れると、後で施設が困ります。次章の準備が前提です。
06 受け入れ体制を作るための実務
入所前に確定させる5項目
| 項目 | 誰が担うかを書面で確定 |
|---|---|
| 緊急連絡先 | 第1・第2順位まで氏名と連絡先 |
| 意思決定支援 | 本人の事前意思を書面化。相談相手の指定 |
| 利用料の支払方法 | 口座振替・後見人による管理・生活保護等 |
| 死後事務 | 委任契約の有無、市町村との連携方針 |
| 判断能力低下時の対応 | 後見等の申立てを誰がいつ行うか |
5行目を決めていない施設が多くあります。入所時は判断能力があっても、途中で低下します。そのときに誰が動くのかを、あらかじめ決めておいてください。
判断能力が低下した入所者への対応は、身体拘束や不適切ケアの問題と地続きです。あわせて身体拘束ゼロ・虐待防止 完全ガイド2026を確認してください。
関係機関との事前接続
- 地域包括支援センターに、保証人なしの受け入れ方針を伝えておく
- 市町村の高齢福祉課に、市町村長申立ての運用を確認しておく
- 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の利用可否を確認しておく
これらは入所希望者が現れてから調べるのでは間に合いません。平時に接続しておいてください。
契約書の見直し
身元保証人欄を必須項目にしている契約書は、見直しの対象です。
- 「身元保証人」を「緊急連絡先」と「支払方法」に分解する
- 保証人がいない場合の記載欄を用意する
- 判断能力低下時の対応について条項を設ける
職員への説明
相談員と事務職員が、「保証人がいない=断る」という運用を自動的に行わないよう、判断のフローを共有してください。
「保証人がいないと言われたら、まず4つの機能のどれが欠けているかを確認する」。この1点を共有するだけで、対応が変わります。
なお、家族・親族からの過度な要求への線引きについては、介護事業所のカスハラ対策完全実装ガイドで整理しています。
この記事の出典
- 内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(令和6年6月)
- 総務省行政評価局「身元保証等高齢者サポート調整に関する調査結果報告書」(令和5年8月)
- 総務省行政評価局「身寄りのない高齢者の入院、入所に係る支援の取組事例集」
- 厚生労働省 関連通知
相談員から「保証人がいない方です」と言われたとき、私は理由を聞かずに断っていました。断る理由を説明する必要がなかったからです。「うちは保証人が必要なので」で終わりました。
あるとき、断った方がその後どうなったかを、ケアマネジャーから聞きました。半年、行き先が決まらなかったそうです。
保証人という言葉は、便利すぎたのだと思います。何が必要なのかを考えずに済んでしまう。連絡先なのか、支払いなのか、亡くなった後のことなのか。分けて考えれば、埋められるものは埋められました。
情熱介護 編集長 深瀬 久博
最終更新:2026年8月13日 / 情熱介護編集部